映画監督 犬童一心と猫 里親はどこに
必殺可愛い攻撃で行き先はすぐ決定
吉祥寺に部屋を借りている。最近、毎日その部屋をふらりと出て近所に仕事に通っている。行った先にはえも言われぬかわいい猫たちと、そして、笑顔の宮沢りえが待っている。なんという幸せ。
2年前、少女漫画界の巨匠、大島弓子さん原作の名作エッセー猫漫画『グーグーだって猫である』をドラマ化した。評判が良く、現在第2シーズンを撮影中。舞台は吉祥寺。ほとんどその地から出ずに物語は進行する。ご近所が現場なのだ。
今回のシーズンには5匹の子猫が登場する。主人公の少女漫画家が拾ってしまい、その里親探しが全5話を通じて行われる。
実は、出演した子猫たちのほんとうの里親探しも撮影とともに行われている。普通、撮影に登場する動物は動物プロダクションに頼む。だが、動物プロだからといって、子猫が常時5匹いるとは限らない。子猫はあっという間に子猫でなくなるのだから。そこで、ペットショップ、譲渡会等各方面で役柄にあった子猫を探しまくった。
やっとの思いで見つけた5匹。その面倒は「市原ぞうの国」のアニマルトレーナー坂本峰照さんが見ている。彼はほんとうに動物思いの人。猫がちょっと風邪をひいているだけでも、彼の依頼で撮影スケジュールは猫合わせで変更になる。私たちは、坂本さんの言葉は猫たちの言葉だと思っている。でないと、スケジュール優先となって、猫たちに負担がかかり、やっている私たちも殺伐としてしまう。
しかし、そんな優しい坂本さんも撮影が終わって5匹を育て続ける余力はない。何せ、普段彼は10頭以上の象の面倒も見ているのだ。そこで、撮影終了後すぐに引き渡しできる里親を撮影と同時進行で探す必要がある。
ただ、実は、それほどそのことで苦労はしていない。何故かというと、猫はとんでもなくかわいいからです。
なんと、里親の多くは、出演者やスタッフだったりする。
猫と宮沢りえがとても密接に心を通わせ、楽しい日々を送っている姿をスタッフ、キャストは毎日仕事場で見続けている。結果、猫欲の抑えが効かなくなった人が続出する。誰か一人が里親に応募すると、別の者が慌てて立候補する。
先週は出演した子役の女の子が親を説得して1匹引き取りに、昨日は助監督の新谷君のフィアンセが現場にやって来た。新婚生活にその子猫が参加するのだ。
なんと、すでにまだ撮影中にもかかわらず、5匹全ての里親が、スタッフ、キャストだけで決まってしまった。
ちなみに前作の子猫のグーグーは出演者の田中泯さんのうちに行き、そこで生まれた子どもは共演した長塚圭史さんのうちにいたりする。
すごいなあ、猫の必殺可愛い攻撃。
(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年4月発行)掲載)
犬童一心(いぬどう・いっしん)
1960年東京生まれ。映画監督。79年、高校時代に撮った「気分を変えて?」がぴあフィルムフェスティバルに入賞。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「グーグーだって猫である」「のぼうの城」などがある。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。