野良猫への餌やり規制、地域猫の助成も 和歌山県が条例
野良猫の増えすぎを防ごうと、「和歌山県動物愛護管理条例」が改正され、餌やりが規制されることになった。罰則付きの条例は都道府県単位では初めてで、県内外から900件以上の意見が寄せられるなど、大きな議論を呼んだ。果たして規制は効果をあげるのか。
改正県動物愛護管理条例では、野良猫に継続的に餌を与える場合、周辺住民への説明に努める▽不妊去勢手術がされている▽排せつ物を適正に処理する――などルールが定められた。勧告や命令でも改善しない場合、5万円以下の過料が科せられる。施行は2017年4月から。
一方、これに先行して、県は今年度から「地域猫対策」への助成を始める。知事から実施計画の認定を受ければ、不妊去勢手術費用などを自己負担なしで支援を受けられる。
和歌山城がある和歌山公園などで野良猫の保護活動をする奥康子さん(52)によると、現在、城周辺では約20人のボランティアが餌やりをしている。約40匹のうち、1匹あたり約2万円の費用を自己負担し、メスはほぼ不妊手術済み。それでも年間約40匹が新たに捨てられ、猫はいなくならない。「猫の遺棄が最大の問題」と力を込める。
県があげた条例の改正理由は主に二つ。一つ目ははいせつ物や鳴き声などによる生活環境への支障の解消。県に寄せられた猫に関する苦情は06年度以降、100~200件の間で推移してきた。
二つ目は殺処分数を減らすこと。06年度の3951匹から14年度は2568匹まで減っているが、全国に比べると減少幅は小さく、都道府県別の人口10万人あたりの殺処分数では4年連続でワースト4位という。
県はこうしたデータをもとに「実効性のあるルール作りが必要だ」と説明する。
環境省によると、猫の餌やりに関連して罰則付きの条例を持つ自治体は、全国では東京都荒川区と京都市の二つ。いずれも勧告や命令に従わない場合、最大5万円の過料や罰金がある。
荒川区は09年4月、「良好な生活環境の確保に関する条例」で、飼い主のいない動物に餌をあげることで「不良状態」が生じることを禁止。区環境課によると、10年度に勧告が3件あったが、命令や罰金に至った例はない。
都内の殺処分は、都が一括して実施しているため区別の数は不明だが、区生活衛生課によると、区内で拾われた子猫の数は、08年度の99匹から、14年度には20匹まで減った。区の担当者は「猫が減ったとすれば、地域猫への不妊去勢が進んだためだと思う」と話す。手術費用の助成は、08年7月~16年1月で2646匹分に及ぶ。
ただ、苦情は08年度の133件以降、ほぼ横ばい。区では「地域猫の団体の活動範囲は面積では区の2割ほど。手つかずの地域から苦情が来ているのでは」と分析する。
昨年10月から「動物との共生に向けたマナー等に関する条例」が全面施行された京都市。飼い主のいない動物に対し、生活環境が悪化するような餌やりが禁止された。もともと不妊去勢手術に民間団体が取り組んできたこともあり、生活環境改善に力点がある。
1月末までの15年度の猫に関する苦情は、855件で昨年度同時期より150件ほど増えた。市の担当者は「条例施行で関心が高まったことによるもの」と話す。「条例で不適切な餌やりはダメだと言えるようになった」と意義を強調する。
県は、殺処分数や相談件数について数値目標を定める方針で、不妊去勢の助成や捨て猫の譲渡推進などの施策を組み合わせて達成を目指す。食品・生活衛生課の羽津豪人主幹は「条例はあくまでルールで、県民が猫と人間が一緒に暮らしていけるように、理解してもらわないと問題は解決しない。様々な施策にも取り組み、県民にも協力してもらいたい」と話している。
(滝沢文那)
<広島大学大学院生物圏科学研究科の谷田創教授(人間動物関係学)の話>
条例による規制だけで、餌やりをしている人がやめるとは思えない。数を減らすには、不妊去勢を進めて繁殖を抑えることが重要だ。野良猫の寿命は2~3年なので、一定の効果が見込める。ただし、野良猫への餌やりは、人間関係のトラブルに発展しやすく、多少猫が減少しても苦情は減りにくい。野良猫が存在することを前提に考えるのが現実的で、猫が好きな人に積極的に不妊去勢や掃除などに関わってもらうことが解決への近道なのではないか。
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