瀬戸内海のウサギ島 癒やし求め観光客激増、外国人は15倍
ウサギ、ウサギ、どこを見てもウサギ――。戦時中に毒ガスが作られて「地図から消された島」と呼ばれた広島県竹原市の大久野島は、戦後70年が過ぎた今、「ウサギ島」の異名で知られている。瀬戸内海に浮かぶ島に、癒やされに行った。
(末尾にフォトギャラリーがあります)
客船を下りて桟橋にさしかかると、さっそく白と茶色のモフモフしたものが視線を横切った。道路にウサギ。広場にウサギ、斜面にもウサギ。周囲約4キロの小さなこの島では、いたる所にウサギが暮らす。
島は1929年から終戦まで、旧陸軍の毒ガス工場があった。処理や米軍による接収を経て、最終的に日本に返還されたのは57年。その後、63年に国民休暇村がオープンし、リゾート地に生まれ変わった。
なぜその島に、こんなにウサギがいるのか。島を歩くと、あちこちに穴ぼこがあることに気づく。ウサギは全て野生のアナウサギ。「外来種」だ。毒ガス実験のために持ち込まれ、生き延びたという説もあるが、現在最も有力なのは、島外の小学校が71年に放した8匹が繁殖したという説だという。カラスやフクロウ、ヘビなど子ウサギの天敵はいる。だが、島ビジターセンターの馬場聖子さん(37)が2013年に島内の縄張り33カ所を調べたところ、計700匹以上いることがわかった。
そんなウサギの姿を求め、来島者も増えている。広島県出身で熊本県合志市に住むカメラマン中村隆之さん(40)と妻の麿矢さん(37)は00年から島に通い、写真を撮り続けている。「1日に千枚は撮る。いくら撮っても飽きません。帰るとすぐに来たくなる」。外国人観光客も急増し、市によると、14年は前年比15倍になったという。
かつて非人道的兵器が作られた島で、かわいい生き物に癒やされる。いつまでもこの平和が保たれるよう願った。
(大隈崇)
■楽しむ
第2桟橋右手のトンネルをくぐると、発電場跡がある。毒ガス製造時に重油を燃料に電力を供給し、風船爆弾の製造作業にも使われたという。内部には入れないが、朽ち、扉が外れ、独特な雰囲気は外から見ても圧巻だ。島内には北部砲台跡や中部砲台跡、長浦毒ガス貯蔵庫跡、火薬庫跡のほか、毒ガス製造の歴史を学べる毒ガス資料館(電話0846・26・3036、入館料100円)もある。
■泊まる
「休暇村大久野島」は天然温泉を備える島内唯一の宿泊施設。瀬戸内海産アワビの一品料理が付く「瀬戸内こだわりバイキングプラン」で1泊1人1万1250円(5月末まで)。門脇広和営業課長(45)は「20連泊する方もいて宿泊客同士が仲良くなることもあります」。平日は島内散策やトレッキング、近隣観光など日替わりの無料プログラムもある。予約制(電話0846・26・0321)。
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