計画書に見る委員会審査と動物実験の実態

動物実験計画書とは?

 動物実験計画書とは動物実験を行う前に実験実施者が作成し、動物実験委員会の審査に諮るものです。大学によって形式が異なり、通常はA4で1枚のものから4枚程度、別紙を合わせるとそれ以上になるものもあります。一つの計画書で有効期限は1年~5年、継続更新すればそれ以上にも及ぶことがあります。使用動物は数匹~数千匹まで様々です。

委員会の審査とは?

 動物実験委員会の審査は、科学的な観点や倫理的な観点から計画書の審査を行い、承認や不承認を決めるものです。現状の自主管理方式の下では、動物福祉を担保するほぼ唯一の制度ですので、きわめて重要な意味を持ちます。文科省の基本指針(注1)で義務付けられており、また、実験結果を論文掲載する際に、委員会での承認がなければ論文が受け付けられないという側面もあります。承認には無条件のものや、条件付き承認、再審査(再提出)後の承認等があります。委員は数人~十数人で、文科省の基本指針では、①動物実験等に関して優れた識見を有する者、②実験動物に関して優れた識見を有する者、③その他学識経験を有する者を含めなければならないことになっています。会議形式ではなく、メールやシステム上で委員の意見を募って審査(書面会議/持ち回り審査)することが多いようです。(表1)

(注1) 研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針
(注1) 研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針

不承認はない!?

 少なくとも8大学240件の計画書のうち、不承認のケースは1件もありませんでした。修正(再提出)が入るにしても最終的には全ての計画書が承認されています。

コメントもなし!?

 表1に各大学の計画書から集計した委員会コメント(修正意見や承認条件)に関する統計を示します。名古屋大学、京都大学ではコメントが付かずに承認されている計画書が半分以上ありました。逆に東北大学と神戸大学では9割以上の計画書にコメントが付き、計画書1件あたり平均3~4のコメントが見られました。

コメントの記録が残らない!?

 今回の調査で、委員会コメントの記録方式が大学によって様々であることがわかりました。このうち九州大学では、修正意見が電話やメールで申請者へ直接伝えられる等の理由で、委員会のコメントが記録に残らないことがわかりました。また大阪大学では、委員やとりまとめの事務方、申請者の間でやり取りされたメールしか残されていませんでした。これでは後から審査の結果が正しかったのかどうかを客観的に検証することができず、どちらも記録管理の観点から不適切であると思われます。なお、神戸大学と東北大学では、計画書とは別に審査結果通知書(承認通知書)というフォームを使ってコメント(変更の勧告や承認条件)とともに申請者へ審査結果を通知しており、記録管理の観点で優れていると感じられます。(表1)

「実験方法」記述の問題点

 「実験方法」は計画書の中心部分で、ここが詳しく記載されているかどうかで、その大学のレベルがわかります。全大学共通の問題として、①動物への処置方法の記述が曖昧、②時系列がはっきりしない、等の問題があります。また、鎮痛剤を使用するタイミングや、人道的エンドポイントを適用する条件が書かれていないことが多い等の問題もあります。

誰が動物実験を行うか?

 実験責任者には教授や准教授、講師や助教(旧助手)が多く、実験実施者にはそれらに医員や研究員、大学院生が加わります。当然ながらこれらの人たちは医学(人体)の専門家ではあっても、獣医師や獣医学を学んだ人たちではありません。

何のために行うか?

 医学系の実験の目的としては、疾病や傷害の治療、医学・生理学の基礎研究、診断・治療評価法の開発、教育・手技実習等があります。(図2)

どんなことを行うか?

 医学系の実験の標準的な流れとして、①疾患モデル作成(導入)→②実験処置→③観察・解析→④殺処分(後に材料採取して組織学的解析を行う)という流れが挙げられます。実験処置には薬剤投与や手術、臓器・細胞移植、細菌・ウイルス感染、放射線照射等があります。観察・解析には肉眼での病変観察、採血、採尿、(腫瘍の大きさ等の)物理的計測、体重測定、心電図計測、X線やCTでの測定、(踏み車試験や歩行棒等の)運動障害解析、(迷路学習試験等の)行動解析等があります。一般的には②で実験動物を処置群と無処置群(対照群/コントロール群)に分け、③、④でそれらの違いを測定することにより実験結果とします。

実験動物はどこから入手する?

 入手先は墨塗りや元々記載欄がない計画書が多く、統計は難しいのですが、専門業者の他に、他の大学や研究機関からの導入が多く見られました。これらは必要とする遺伝子組換え動物等が、業者の他に大学や研究機関で繁殖・維持されているためと考えられます。ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)のような国の援助を受けて系統維持や提供を行っている機関もあります。

使われる動物はマウスが圧倒的

 統計結果ではマウスを使用する実験が69%と圧倒的に多く、続いてラット(20%)、ウサギ(9%)となりました。(図3)

なぜマウス・ラットか?

 マウス・ラットが実験に多く使われるのは、①哺乳動物で最も小さく安価、②世代間隔が短く産子数が多い、③高い精度で全ゲノム情報が得られており、ゲノム配列がヒトとの間で極めて類似している、④多くの系統や疾患モデルが樹立されている、⑤遺伝子操作技術が確立されている、⑥データベース情報が容易に得られ、リソースセンターが設立されている、等とされています。

遺伝子組換え動物が多い

 統計結果では遺伝子組換え動物を使用する実験が4割と高い割合を占めました。これは病態の解明を遺伝子レベルで行うことが主流になっていること、疾患モデルを遺伝子組換え動物を使って作成していることによると考えられます。(図5)

苦痛を与える実験が8割

 苦痛のカテゴリーは動物が受ける苦痛の度合いを5段階評価したものです。Aは微生物や無脊椎動物を用いた実験で通常は審査の対象外、Bは脊椎動物を使って主に殺処分後に行う実験、C以上が脊椎動物を使って生きている間に苦痛を与える実験とされており、8割の実験がこれに該当しました。(図7、表3)

動物に最も苦痛を与えるのは疾患モデルの作成

 動物に最も苦痛を与えると思われる実験処置を統計したところ、疾患モデル作成が圧倒的に多い(50%)ことがわかりました。疾患モデル作成には外科処置によるものや、薬剤投与によるもの、遺伝子組換えによる(実際には他の研究機関や業者から導入することが多い)ものがあります。種類は免疫疾患、皮膚炎、心筋梗塞、癌、高血圧、動脈硬化、脳卒中、糖尿病、リウマチ、大腸炎、腎不全、肝硬変、眼疾患、精神疾患など様々です。実際には作成処置そのものよりも作成後に発症する病態、疾患に起因する苦しみが大きいと考えられます。(図8、表2)

麻酔の使用は手術時のみ

 動物実験の苦痛軽減方法といえば麻酔の使用が代表的ですが、麻酔は基本的には手術処置のみ(及び殺処分時)でしか使われず、術後や病態の発現・悪化時に動物は苦しみ続けることになります。このような場合に鎮痛剤が使われますが、カテゴリーC以上の実験で25%にとどまりました。これは薬剤が実験結果に影響してしまうことや、より人の疾患の条件に近づけるという考え方が背景にあるようです。(図9)

人道的エンドポイント

 人道的エンドポイントは人道的な観点から実験を打ち切るタイミングを指します。動物が示す症状(体重減少が○%以上、腫瘍の大きさが○cm以上等)を契機にして殺処分を行います。麻酔や鎮痛剤が使われないことも多い疾患モデル等の実験において、殺処分は動物が苦痛から解放される唯一の手段であり、実験動物福祉の上で麻酔や鎮痛剤と同じく重要な意味を持ちます。人道的エンドポイントを適用するとした実験はカテゴリーC以上の実験で44%でした。(図10)

実験の終わりは殺処分

 実験終了後に実験動物は原則として殺処分されます。殺処分の方法は多い順に麻酔薬の過剰投与(41%)、頸椎脱臼(34%)、炭酸ガスの吸入(23%)、麻酔下の放血・採血(9%)となりました。(図6)

 なお、エーテル(吸入麻酔)による殺処分は海外のガイドラインで安全性や動物福祉の観点から推奨されないとされ、国内でも禁止している機関がありますが、まだ多くの実験で使われていました。また、頸椎脱臼は国内のガイドラインでも、熟練者でなければ軽麻酔下あるいは鎮静下で行うことが推奨されていますが、麻酔下で行うとした計画書は27件中6件(22%)だけでした。

動物実験は危険がいっぱい!?

 動物実験には安全管理を要するものがたくさんあります。中でも代表的なものが、遺伝子組換え動物を使う実験と感染実験で、それぞれカルタヘナ法、感染症予防法で規制されています(注2)。これらの実験を行う際にはその危険度に応じた拡散防止措置をとらなければならないことになっています。しかし実際には動物実験施設のカルタヘナ法違反が全国で多発しており、現場の意識が十分であるとは言えません。東日本大震災のような大きな災害等でひとたびこれらの拡散が生じれば、取り返しのつかない事態に陥る危険性があります。そのようなことを未然に防ぐためにも、動物実験施設を届出制にして、普段から行政の監督下に置いておくことが必要ではないでしょうか?(図5)

(注2) 正式名称はそれぞれ「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」

(地球生物会議 会報『ALIVE』No.109の記事を一部修正して掲載しています)

この特集について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する特集です。
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