隔週木曜は「捨て犬の日」 行政と流通が身勝手を生む④

業界関係者ですら問題視する移動販売だが、いまも規制されることなく全国各地で行われている。なぜこのような商行為をなくせないのか
業界関係者ですら問題視する移動販売だが、いまも規制されることなく全国各地で行われている。なぜこのような商行為をなくせないのか

 しかし、ペットショップの店頭ならば席について1時間あまりの説明も可能だろうが、イベント会場ではそんなスペースもなく、十分な説明は困難だ。また在庫処分の意味合いも兼ねるから、価格を低めに設定することが多く、その分衝動買いを促しやすい。

価格勝負の投げ売り

 あるペットショップチェーン幹部も、

「当然、衝動買い狙いです。十分な説明どころか価格勝負の投げ売り状態で、アフターフォローもしきれないのが現実」

 子犬の健康管理についても問題がある。広大な会場内では子犬に適切な温度調節はしにくく、何よりもイベント会場だからかなりの騒音に包まれる。

「来場者が多く子犬が休む暇もない。会場の温度や騒音は子犬にとって大きなストレスになる。また会場までの移動そのものに子犬の体力がもたないケースもあります。移動販売は問題が多すぎる」(ZPKの太田氏)

 こうした現実に、日本動物愛護協会や日本動物福祉協会など動物愛護団体では「ペットの移動販売ストップキャンペーン」を展開している。

 それでも移動販売は全国で、定期的に行われている。

 東京、千葉、愛知、大阪などの各会場で毎年開かれている「Pet博」。09年も5月の連休に幕張メッセ(千葉市)で開催され、大阪市内に本社があるペットショップチェーンなど3社が移動販売を行う予定だという。主催するペット博実行委員会は、こう主張する。

「以前から毎年やっており、一般ショップと同じ環境で販売している。開催地の自治体の許可ももらっており、問題はないと考えている」

 またこのイベントの大阪会場で主催者として名を連ねているテレビ大阪も、

「毎年開催しており、きちんと保健所にも相談している。子犬にストレスがないよう出展者は散歩や体温管理をしている」

 いま世界的な景気後退で日本も未曽有の経済危機に直面している。その大波に対して犬ビジネスとてひとごとではありえない。犬の小売価格はピーク時の半分ほどになっており、その分利幅も薄くなっているという。ある大手ペットショップチェーンの経営者はこう予言する。

「いまの経済環境では生体販売で利益を出すのはなかなか難しくなっている。粗雑な販売をする業者も増えており、今後さらに問題が出てくるだろう」

野田聖子消費者行政担当相が語る 「ペットショップには厳しい規制が必要」

 先日の夜、銀座で食事をした帰りに、新しいペットショップができているのに気付きました。そのお店は、まだとても幼い子犬を、深夜まで売っていました。そもそも、なぜ深夜に犬を買う必要があるのでしょう。銀座はわざわざ犬を買いに来るような場所でしょうか。うがった見方かもしれませんが、銀座で飲んで気が大きくなったところに「かわいいから買っちゃおう」と思わせるのが狙いと考えられなくもないのです。
 犬は間違いなく命です。その命があまりに安易に流通し、モノのように廃棄されています。日本の国の矜持として、命を粗末にしているいまのような状況を野放しにしていてはいけません。ペット産業の市場規模は1兆円ともいわれます。健全に成長させていくためにも、私は命の売り手であるペットショップに厳しい規制をかけるべきだと考えています。命に直結するような産業にはモラルを問うためにも規制が必要なのです。
 もちろん責任感のなさすぎる飼い主の存在も問題です。飼い主の啓発も同時にすすめるべきですが、こちらはどうしても時間がかかる。その間に毎年10万匹が殺されてしまいます。まずは入り口を絞らなければいけません。
 売り手の側を厳格に規制し、モラルの高い売り主になってもらう。その上で購入者にきちんとした指導をしてもらう。営業時間も、子犬の体調のことを考えれば、例えば午前10時から午後4時までと決めてもいい。
 いままで、日本の行政は動物に対して軸がなかったと感じています。これからは、日本は動物の命を大切にする国なのだと示す法律を作っていくべきだと思っています。

のだ・せいこ/自身も2匹のフレンチブルドッグと暮らす愛犬家。「このこたちを命がけで育てています。引っ越す時も犬が住めるところを最優先に物件を探しました」。苦労に勝る安らぎを、2匹からもらっているという

(太田匡彦 AERA 2009年4月13日号掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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