私が獣医師になったわけ 猫に救われた子ども時代
はじめまして! 私は犬や猫の問題行動の治療を専門としている獣医師です。この度、朝日新聞社のペットサイト「sippo」のコラムを担当させていただくことになりました。私たちにとって「家族の一員」である犬や猫の心理、人との関係性、そして彼らを取り巻く人間社会の問題などについて書いていきたいと思っています。
今回は初回ですので、少し私自身のことを書いてみます。
私は物心つく前から犬と暮らしていたらしく、アルバムをめくると1~2歳の私の横に見覚えのない茶色の雑種犬が寄り添っています。
保育園のころにはシェパードとスピッツが家にいて、友だちと遊ぶより犬と遊んでいるほうが好きでした。両親が自宅の一部を会社の事務所にしていたこともありますが、とにかく犬と遊んでいたくていつの間にか保育園には行かなくなったほどです。両親ともに動物好きで、家には犬だけでなくウサギやチャボ、ジュウシマツ、カナリア、九官鳥、庭の池にはコイや金魚などがいて、保育園に行かなくても退屈することはありませんでした。
子どもの頃の私の一番の楽しみは、父と一緒にマックという名前のシェパードを近所の池に散歩に連れて行くことでした。私は父の運転するオートバイの後ろに乗り、マックはオートバイの横について走っていました。池に着くと、父はマックのリードを放し、落ちている木切れを拾って池の中央をめがけて投げます。するとマックはスイスイと泳いで木切れをくわえ、私たちのもとに持って帰って来ました。
私が小学生の時に母が胃がんになり、それ以降、母は入退院を繰り返していました。猫との出会いはそんな中学2年生の時です。道端で小学生が「おもちゃ」にしていた子猫を不憫に思い、家に連れて帰ってきたのです。1週間以内に里親を探すと母に約束しましたが、いつの間にか家の子になりました。
母はこの猫をかわいがり、入院している病院にもこっそりと連れていきました。病院のナースに見つかりましたが、母の病状を知っていたからか、見て見ぬふりをしてくれました。
私が中学3年生の時に母が亡くなり、父は1年後に再婚しました。新しい母はすばらしい人でしたが、すぐに心を開くというわけにはいきませんでした……。高校生時代の私はいつも不安と孤独感に包まれ、漠然とではありましたが死ぬことばかり考えていました。抑うつ状態だったこの頃の私を、拾って来たその猫が救ってくれました。当時の私は、この猫がいなければ自分が生きている意味があるとは思えなかったのです。
そしてこうした経験から、動物は私たち人間が世話をする存在ではあるけれど、それ以上に多くのものを我々に与えてくれるということを実感しました。またその一方で人間に捨てられたり、虐待されたりする不幸な動物たちもいます。人と動物が仲良く暮らすことができれば、みんなもっと幸せになれるはずだと、当時の私は思ったのです。だから私は、「人と動物が仲良く幸せに暮らせる社会」を実現したいと考え、獣医師という仕事を選ぶことになりました。
少し長くなりましたが、このような理由で、私は動物を取り巻く社会をより良いものにするために、強い信念を持って自分の仕事に取り組んでいます。このコラムが、読者の皆さんが「動物のこころ」を理解し、彼らとより良い関係を築くためのきっかけになれば幸いです。
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