山田あかね監督、石田ゆり子さんが登場 映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』

映像作家の山田あかねさん、俳優・石田ゆり子さん、弁護士・四宮隆史さん

 犬や猫の命をテーマに、数々のドキュメンタリー作品を手掛けてきた映像作家の山田あかねさん。自ら戦禍のウクライナへと出向き、戦場の犬たちとその小さな命を救う人々を描いた新作『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』が完成しました。公開を記念して行われたのが、山田監督、俳優・石田ゆり子さん、弁護士・四宮隆史さんによるトークショー。飼い主のいない犬と猫の医療費を支援する「ハナコプロジェクト」をともに立ち上げ、理事を務める3人による、温かな語り合いの時間をリポートします。

(末尾に写真特集があります)

戦禍の人と動物を描いた、まるで祈りのような映画が完成

石田ゆり子さん(以下、石田):本当のことを告白すると、実はこの作品を観るのがとても怖かったんです。でも観る前と観た後では、世界がまるで違って見えることに気がつきました。うまく言葉にできないけれど、人間には醜い部分と美しい部分が同居していて、そんな人間のそばにいてくれる動物たちこそが、人の心のいちばん柔らかい部分を支えてくれている。そのことが伝わってきて、胸がいっぱいになりました。

ていねいに言葉をつむぐ石田さん

山田あかねさん(以下、山田):ゆり子さんには「最後まで観れば大丈夫。そういうふうにつくっているから」と伝えて、観てもらいました。そうしたら観終わったあと、こういう感想をくださったんですよね。「まるで祈りのような映画でした」と。私自身は、レジスタンスの意思表明のつもりでしたが、祈りという言葉を聞いて、そういう捉え方もあるのだなと感じました。

四宮隆史さん(以下、四宮):そもそも、山田さんがウクライナに行こうと決めた、そのモチベーションや衝動はどんなところにあったのでしょうか」

山田:ロシアがウクライナに侵攻したのが2022年2月24日のこと、さまざまなニュースを見ていたらがれきの山の中を1匹の中型犬を抱えて逃げていく人の姿が見えて、衝撃を受けたんです。もし今後、東京に侵攻があったとしたら、もちろん私も動物と一緒に行動します。ただそれでも戦禍となると、動物を置いていかなければならないシーンもあるかもしれません。それは決してあってはならないことだけど、そのとき人はどう行動するのか。それはやはり現地にいかなければわからないこと。『ならば、もう行こう』と決めて、4月には現地入りしていました。

戦争が始まってまもなく現地へ向かった

戦争を経て、人々が強く優しく変化していく

四宮:山田さんは3年間で計3回ウクライナに足を運ばれて、多くの出会いがあったと思います。なかでも印象的な人について教えてください。

山田:みなさんそれぞれに印象的なのですが、動物愛護団体『フボスタタ・バンダ』代表のオレーナ・コレンスヌコヴァと、アナスタシア・オニコヴァというふたりの女性ですね。彼女たちは20代で、戦争が始まる前は週に何度かシェルターでボランティアとして犬の世話をする、いわゆる動物が大好きな普通の女の子でした。それがある事件を経て、自分たちが行動しないと動物が死に至るとわかり、キーウ市に責任の所在を明らかにするよう訴えたり、爆破で被災したエリアへ物資支援を行ったり。戦争を経て彼女たちがどんどん強くなっていく……その変化は本当に感動的でした。

動物愛護団体『フボスタタ・バンダ』代表のオレーナとアナスタシア

四宮:石田さんはどうでしょうか。どなたが記憶に残っていますか?

石田:私はやはり、元イギリス軍兵で、退役後に動物救助隊「ブレイキング ザ チェーンズ」を立ち上げたトムです。2023年、私は実際にイギリスで彼と会って、話を聞くことができたんです。

ブレイキング ザ チェーンズのトム (C)BREAKING THE CHAINS

山田:ゆり子さんと私は、世界の動物愛護文化を体感するNHKのドキュメンタリー作品『世界の犬と猫を抱きしめる』で一緒に仕事をしています。その『イギリス編』にて、ゆり子さんから彼に直接インタビューしてもらいました。

石田:実際に向かい合って彼の表情を見ると、なんと表現すればよいかわからないのですが、目が泣いてるんですよ。目に悲しみを宿しているんです。そんなトムが唯一笑うのが、愛犬・ジプシーがアイスクリームを食べてうれしそうだったという話をしたとき。今でもその表情を思い出すと胸が締め付けられる思いがします。深く傷ついてしまった彼の心を救ったのは、小さな犬だった。私自身そのことがすごくよくわかるので、動物の偉大さを改めて実感した時間になりました」

「ハナコプロジェクト」とは

司会進行を勤めた四宮さん

四宮:私たちが運営している「ハナコプロジェクト」について、山田さんからご説明お願いできますか? 

山田:飼い主のいない犬と猫の医療費を支援する団体で、保護犬・保護猫・野良猫の不妊去勢手術と、ゆり子さんが“ちびっこケア”と名付けた、飼い主のいない子犬・子猫のケアを行っています。俳優である石田さんと映像作家である私が動物のためにできることは何か、現実的なことを加味した結果、たどり着いたのが医療費支援でした。それにはもちろんお金が必要だという相談をしたら、ゆり子さんが『私が本を出すから、その印税を使いましょう』と言ってくださったんですよね。

石田:それが、インスタグラムでずっと書きつづってきた動物たちの日々をまとめた『ハニオ日記』(扶桑社)です。この本の印税は動物のために使う、そのことは最初から決めていました。そうでなければ、ともに暮らす犬と猫のことを本にする理由はなかったんです。

ずっと動物のために自分たちにできることはないかと考えていたという

山田:立ち上げて3年が経った今、4000匹以上の犬と猫に医療を届けることができています。昨年は能登半島にも訪れて、飼い主のいるいないにかかわらず、被災した犬猫の全医療費をハナプロが負担させていただきました。あのときも1月1日の地震直後にゆり子さんからハナプロのグループLINEにすぐメッセージが来て、何ができるかを相談しましたよね。金沢に病院を出すことを提案したら『金沢ではだめ。いちばん困っている輪島や珠洲でないと意味がない』と判断してくれました。さらに『輪島に足を運んで、取材してきてほしい』と。私もなかなか無謀な人間ですが、ゆり子さんだってかなり猪突猛進(ちょとつもうしん)な方なんですよ(笑)

石田:あかねさんなら行ってくださるという確信があったんです。

山田:私たちは、お互いの無謀な部分を理解し合える、そんな間柄なんですよね。その過激さのバランスを取って、手綱を締めてくださるのが四宮さんです。

動物への愛であふれる二人。いつも行動せずにはいられないという

四宮:それができているか自信がありませんが……(笑)。さて、締めのあいさつに参りましょう。

石田:あかねさん、このような意義ある映画をつくってくださって、本当にありがとうございます。そしてもしかしたら、私と同じくこの映画を観ることをちゅうちょ(ちゅうちょ)している方もいらっしゃるかもしれません。でもぜひ勇気を出してご覧になってください。私は心から、出来るだけ多くの方々にこの映画をご覧になって頂きたいと願っています。

山田:遠い国では今なお戦争が続いていて、困っている人、犬、猫がたくさんいます。戦禍のもとでは、ほんのささいなことで多くの命が失われてしまう。悲惨な映像もありますが、それを超えてこそ伝えたいものがあって、その思いが届くことを信じています。ぜひ劇場に足を運んでご覧になってください。本日はありがとうございました。

『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』
全国順次ロードショー中
監督・プロデューサー:山田あかね
ナレーション:東出昌大
音楽:渡邊崇
配給:スターサンズ
製作:『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』製作委員会
公式サイト:inu-sensou.jp
©『犬と戦争』製作委員会

ハナコプロジェクトはこちら

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本庄真穂
編集プロダクションに勤務のち独立、フリーランスエディター・ライターとなる。女性誌、男性誌、機内誌ほかにて、ペット、ファッション、アート、トラベル、ライフスタイル、人物インタビューほか、ジャンルとテーマを超えて、企画・編集・ライティングに携わる。

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