健康診断を習慣に 太田理造獣医師「ペットは家族。健康を飼い主さんとともに見守る」
動物病院の診察室で、ペットと飼い主さんと日々向き合う獣医師の“思い”を紹介する当連載。第6回は、「犬山動物総合医療センター」の太田理造先生にお話をうかがいました。
(この連載はペットの健康診断を推進する獣医師団体、一般社団法人Team HOPEと共同でお届けしています)
健康なときこそ動物病院へ
太田先生は、全国の獣医師がチームとなりペットの予防医療と健康管理の普及・啓発活動に取り組む「一般社団法人Team HOPE」の創設者である太田亟慈獣医師のご子息で、自身もTeam HOPEの中部地区副委員長として、活動に参加しています。
健康診断でポイントとなるのは、年をとってからではなく、若いうちから定期的に受けること。Team HOPEとしては、受ける頻度は0歳から年1回、犬の場合7歳以上のシニア期からは年2回を推奨しています。
「たとえば血液検査には基準値がありますが、それはあくまでも平均的な値です。健康でも基準値から外れることもあれば、病気でも基準値内ということもあり得ます。若いうちから健康診断を受け続け、その子の基準となるデータを積み重ねておくことで、その数値がその子にとって正常なのか、異常なのかを判断しやすくなります」
また毎年の健康診断は、獣医師が飼い主さんやその愛犬や愛猫とコミュニケーションを深めるいい機会でもあります。
「犬や猫が元気な状態で会えるので、みんな心に余裕がありますから、いろいろな話がしやすいですし、会話の中から普段の様子や性格なども知ることができます。そうした情報は、いざ病気になったとき、その子やそのご家族にとって一番いい治療方法を提案するために役立ちます」
飼い主さんとの二人三脚でペットの健康を見守る
健康診断を定期的に受けることが、病気予防や早期発見につながることはいうまでもありませんが、だからといって健康診断が万能というわけではありません。たとえば、健康診断の数か月後に脾臓(ひぞう)の腫瘍が見つかるなど、「異常なし」と診断されて間もなく病気が発覚することもあります。
「脾臓の腫瘍を察知するには超音波検査が有効なのですが、設備のない病院もあるでしょう。また、超音波診断装置のある病院であっても、超音波で確認できる範囲にも限界がありますから、必ず見つけられるというわけではありません。どんな病気にもいえることですが、年齢や健康状態によって、症状の表れ方や進行度合いはさまざまです」
また、動物は人間の何倍も加齢のスピードが早いため、病気によっては発症後、あっという間に進行してしまうこともあります。「健康診断の回数を年3回くらいに増やせたらいいとは思いますが、現実的ではないですよね」と太田先生は言います。そこで大切なのが、最低でも年1回の健康診断を毎年受けること、そして飼い主さんによる日々の健康管理です。
健康管理に欠かせないのが食事と運動です。犬種によって脂肪がつきやすかったり、ひざや心臓が悪い子には過度な運動はさせないようにしたりと、食事も運動も、その子に見合った内容が必要です。
「若く元気なうちから健康診断などで通ってくれている子であれば、体の状態はもちろん、体質や性格も把握していますし、飼い主さんとのコミュニケーションを通して、その子にあわせた食事や運動についてお話することができると思います」
太田先生はさらに、「歯磨きも忘れずに」と続けます。
「これまで僕が見てきた子たちを考えると、歯がきれいな子は健康的で、長生きの子が多いという印象があります。たとえば猫は歯肉炎の子が多いですが、そうなると痛みでごはんが食べられなくなってしまいますし、口腔内のトラブルが全身の健康に影響を与えるということもあるでしょう。そう考えると、病気の予防はもちろん、健康寿命を延ばすためにも、日々の口腔内ケアが大切だと思います」
獣医師一家で犬や猫がいつも身近に
「両親、祖父、親戚が獣医師で、僕は生まれたときから動物と暮らしてきました。両親は仕事で忙しかったので、僕は犬猫に育ててもらったと思っています(笑)。そんな僕にとって、犬や猫をはじめ、すべての生き物は家族と同じです」
獣医師と動物に囲まれて育った太田先生ですが、小さいころは獣医師になりたいとは思っていませんでした。
「両親を見ていて獣医師の仕事が大変なこともわかっていましたし、勉強も好きじゃなかったし。中学では部活に熱中して、高校は行かなくてもいいと思っていたんですが、心配した親に全寮制の学校に入れられました。厳しくて有名な学校なんですが、やんちゃな先輩、友達も多くて、寮から脱走して山の中を走り回ったこともあるし、僕もいろいろやりました(笑)」
高校卒業後は、麻布大学に進学し、環境政策について学んでいましたが、「目標は特になかった」という太田先生。転機となったのは、渡米し、両親の友人であるアメリカ人獣医師が開業する動物病院に1か月間、滞在したことでした。
「日本人はだれもいなくて、言葉がまったく通じない世界。それでも、動物に対する真摯な姿勢や、動物が好きだということはひしひしと伝わってくるんです。整形外科専門の先生の技術に興味をひかれましたし、看護師として働きながら獣医師になるための勉強をしている人もいて、いろいろな刺激をうけました」
それまで、獣医師と動物が身近にいることを当たり前だと思っていた太田先生でしたが、アメリカで目の当たりにした獣医療の世界はとても新鮮なものでした。
「改めて動物が好きだなと思いましたし、動物と獣医師の先輩に囲まれている自分の環境がとても恵まれていることだと気づきました」
帰国後、獣医学部に編入。獣医師になるための勉強に励みましたが、父が獣医師であるがゆえの悩みもありました。
「先生をはじめ周りの人たちがほとんどみんな、父のことを知っていますし、僕は勉強が苦手でしたから、やりづらかったですね。実際、大学では留年しましたし、国家試験浪人もしました。でもいろいろなプレッシャーに負けたくないという気持ちで、ここまで頑張ってきました」
24時間×365日、獣医師でありたい
太田先生が勤務する「犬山動物総合医療センター」は、「人と動物に優しい動物病院つくり」を理念に掲げています。その思いを胸に、太田先生が日々心がけているのは礼をつくすこと。
「当たり前のことかもしれませんが、動物を診察するときも、飼い主さんに説明するときも、とにかく何事も丁寧にというのを心がけています。高校で柔道をやっていた影響かもしれませんが、僕は診察の前後に必ずお辞儀をしてあいさつをしますし、飼い主さんが診察室を出るのを見届けてから次の行動にうつるようにしています。それを見た看護師さんに対応が丁寧だってほめられることがあって。うれしいですね」
やりがいを感じるのは、飼い主さんに「ありがとう」と言ってもらえたとき、そして「飼い主さんやスタッフと想いを共有できたとき」だと太田先生は言います。
「まったく違う地域でのセミナーや異なる業界のイベントで僕の話を聞いた飼い主さんが、わざわざ病院に来てくれたり、休日に僕が参加するイベントにスタッフが足を運んでくれたりすることがあります。それは、僕が目指していることや大切にしていることに共感してくれたからこそだと思うんです。そうして思いを共有できるように、日々努力を続けています」
そんな太田先生が目指しているのは「24時間×365日、獣医師であること」。
「ペットが病気になってから関わるだけでなく、家族であるペットが健康で長生きできるよう、飼い主さんと一緒に考え、見守ることが獣医師の役目だと思っています。もちろん休日もありますし、仕事以外の趣味もありますけど、なにをしていてもいつも動物や飼い主さんのことを考えている。言い換えれば、獣医師であることが生きることそのもの、そんな獣医師になりたいと思っています」
今回ご登場いただいた獣医師の先生
太田理造先生

獣医師。麻布大学卒業。両親、祖父、親戚が獣医師で、生まれたときから動物とともに暮らしている。現在は、父・太田亟慈獣医師が代表を務める「犬山動物総合医療センター」に勤務。「一般社団法人Team HOPE」の中部地区副委員長を務め、予防医療と健康管理の普及・啓発活動に力を入れている。
この連載はsippo×Team HOPEでお届けしています
一般社団法人Team HOPE

2013年に発足した、ペットの健康診断を推進する獣医師団体。健康な時から動物病院へ通うことで、病気の早期発見と早期治療の実現を目指すと同時に、ペットとご家族さまにとって動物病院がいつでも行けて相談できる、身近な存在となるよう活動している。賛同会員病院数は2025年2月時点で2,800を超える。https://www.teamhope.jp/
●YouTubeチャンネル:Team HOPEチャンネル【公式】
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