愛犬・愛猫の病気、専門医にかかったほうがいい?(gettyimages)
愛犬・愛猫の病気、専門医にかかったほうがいい?(gettyimages)

かかりつけ獣医が専門医の治療を勧める5つの病気 愛犬・愛猫に最適な診療を選ぶには

目次
  1. かかりつけの動物病院と専門診療科の違い
  2. 専門医の治療を受けたいと思ったら
  3. 獣医師が専門医の治療をすすめる犬猫の病気
  4. 飼い主が専門医の治療を希望する犬猫の病気
  5. 動物医療は犬猫と飼い主の幸せのために

 愛犬や愛猫が病気になったとき、まずはかかりつけの動物病院に相談するのが一般的です。近年、「病気のことを詳しく知りたい」「専門医に治療してもらいたい」「セカンドオピニオンを受けたい」と考える飼い主さんの要望に応え、皮膚科や眼科などの専門診療科をもつ動物病院が増えています。

 かかりつけの動物病院では傷病を幅広く診察できる一方、限られた設備では治療が難しい場合もあります。「街の動物病院はいわば小さな総合病院」と話す田園調布動物病院院長の田向健一先生は、対応できない病気の犬猫の飼い主さんには専門診療科を紹介しています。かかりつけの獣医師の立場から見える、犬猫がよりよい治療を受けるために必要な医療をうかがいました。

 かかりつけの動物病院では、犬猫が元気なころから混合ワクチンの接種や寄生虫対策薬の処方、定期的な健康診断などの健康を守るための予防医療を行います。犬猫がけがをしたり病気にかかったりしたとき、飼い主さんが最初に受診する動物病院でもあり、一次診療といわれます。多くの動物病院が小規模であっても血液検査やレントゲン、超音波検査などの設備をもっています。

 2010年ごろから病気や部位、治療方法などに応じた専門診療科をもつ動物病院が増えました。人の医療のように白内障なら眼科、慢性腎臓病なら腎臓内科や腎泌尿器科、心臓病なら循環器内科……といったように、その病気を専門に診察する獣医師が治療を担当します。CTやMRIなどの大がかりな医療機器を備えた動物病院も少なくありません。かかかりつけの動物病院の紹介状が必要になる場合もあり、二次診療にあたります。

 動物医療の専門医制度はアメリカでは確立され、知識だけでなく技術のトレーニングを受けて試験に合格した獣医師に与えられる資格です。一方、日本では研究や治療にあたる獣医師が設立した学会のカリキュラムにのっとって受講し、試験に合格した獣医師に資格を与える認定医制度が中心です。

 認定医の資格は必ずしも技術を担保するものではありませんが、獣医師が関心をもっている分野を判断する目安になるでしょう。資格がなくても研鑽(けんさん)を積んだ獣医師であれば、高度医療を含めてかかりつけ医とは異なる対応ができるかもしれません。ここでは飼い主さんにわかりやすいように、専門診療科に長けた信頼できる獣医師を「専門医」とします。

 犬猫のためによりよい治療を受けたいという飼い主さんの気持ちは当然ですが、自力で専門医を探すのは難しいかもしれません。「専門医の意見を聞きたい」「セカンドオピニオンを受けたい」と思っても、インターネットにはさまざまな情報があふれていますよね。信頼できる専門医を知りたいと思ったら、同業の獣医師に紹介を頼むのがいちばん確実。紹介する側にも責任があるから適切な専門医や動物病院を教えてくれるでしょう。

専門医はかかりつけ医に聞くのがおすすめ(gettyimages)

 私が院長を務める田園調布動物病院は、かかりつけの動物病院です。人のクリニックと同じように問診・聴診・触診を基本とし、必要なときにレントゲンや超音波検査を行い、幅広い動物の傷病の治療を行っています。

 犬猫の傷病の場合、当院の設備や自分の能力で治せなければ専門医へのセカンドオピニオンをすすめています。別の獣医師の意見を求めるだけでなく、私が「この専門医なら治せる可能性がある」と思った場合や、飼い主さんが納得するための説明が必要だと思ったときに紹介するわけです。

 飼い主さんからは、専門医への紹介を言い出しづらいかもしれませんが、セカンドオピニオンを相談されて怒るような器の小さい獣医師はいないはずです。人の医療ではホームドクターから大学病院への紹介がごく当たり前に行われていますよね。犬猫のためによりよい医療を模索するためにも、遠慮なく相談してほしいと思っています。

 【田向先生が紹介する5つの専門診療科】

  1. 整形外科
    膝蓋骨(しつがいこつ)脱臼(パテラ脱臼)や前十字靱帯(じんたい)断裂などの手術には設備的、技術的に対応できないので紹介する。

  2. 神経内科
    てんかんなどの脳の問題や椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどの病気が疑われる場合、神経はレントゲンや超音波には写らないためCTやMRIなどの設備のある動物病院をすすめる。

  3. 腫瘍科
    腫瘍(しゅよう/がん)に用いる高価な抗がん剤をそろえ、日進月歩の速さに合わせてアップデートを続けている専門診療科の獣医師が治療したほうが治る可能性がある。

  4. 眼科
    白内障や緑内障の手術には設備的、技術的に対応できないので紹介する。

  5. 皮膚科
    アトピー性皮膚炎やアレルギーの治療、検査、スキンケアなどについて、より詳しい説明や追加の処置が必要と判断した場合に紹介する。

愛犬・愛猫のためにもセカンドオピニオンは気負わずかかりつけ医に聞いてみて(gettyimages)

 私が紹介したほうがいいと判断する5つの専門診療科とは別に、犬猫の飼い主さんからセカンドオピニオンを希望されることもあります。基本的に下記の5つの専門診療科や病気の場合は、飼い主さんの要望に応えて紹介しています。かかりつけの動物病院で対応できる病気が多いものの、病態を正しく知るために専門医を受診するのも一案です。

 【飼い主が紹介を希望する5つの専門診療科】

  1. 歯科
    健康維持のためのメンテナンスや歯周病などの病気の治療は、歯科専門の獣医師の技術に頼ったほうがよい結果になるかもしれない。

  2. 循環器科
    僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病は投薬で進行を遅らせる治療法が一般的だが、手術ができる動物病院もある。

  3. 内分泌内科
    糖尿病は命に別条がない範囲に体調を維持することはかかりつけ医でも十分可能。ただし、血糖値そのものを厳密にコントロールしたい、もしくは病気をより詳しく知りたいと思う飼い主には専門医が必要になる。

  4. 呼吸器内科
    トイ・プードルやチワワなどの小型犬に多い気管虚脱の手術を飼い主が希望する場合は紹介する。

  5. 消化器内科
    下痢は血液検査では異常が数値化されないため、確定診断を出すには内視鏡検査で腸の粘膜を採取する生体検査が必要になる。たとえば原因不明の下痢が長期間続く場合は、専門医を受診したほうが確定診断と適切な治療につながる。

病態を正しく知るために専門医を受診することも大切(gettyimages)

 犬猫が命を危うくする病気になったときに、よりよい治療が受けられる可能性があるなら専門診療科で診察を受けたほうがいいでしょう。専門医はその名のとおり特定の病気や部位を専門に診るので、犬猫をよく知るかかりつけ医との連携が望ましいですね。かかりつけ医と専門医で検査結果や治療経過を共有しながら治療を進めることができます。

 ただし、病気の完治や改善と引き換えに、遠方への通院や高額な医療費が必要になることも。病気ばかり追いかけるのではなく、愛犬・愛猫と飼い主さんが幸せになれるかどうかということも考えてほしいと思っています。

 (※次回は特に専門医を必要とする病気について解説していきます。記事は11月26日公開予定です)

田園調布動物病院 田向健一(たむかい・けんいち)院長
獣医師。幼少期からの動物好きが高じて、学生時代には探検部に所属時、アマゾンやガラパゴスのさまざまな生き物を調査。麻布大学獣医学科卒業後、2003年に田園調布動物病院を開院。『珍獣ドクターのドタバタ診察日記: 動物の命に「まった」なし! 』 (ポプラ社ノンフィクション)をはじめ、犬猫およびエキゾチックアニマルの飼い方に関する著書多数。田園調布動物病院

金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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