「こんにちは、メイです。漢字なら『明』、性格も明るいの。よろしく」(小林写函撮影)
「こんにちは、メイです。漢字なら『明』、性格も明るいの。よろしく」(小林写函撮影)

猫の預かりボランティア どの猫にも好かれる愛猫「メイ」に思いをはせたあの日

 獣医師のところに連れて行くと、こう言われた。

「メイちゃんは甘えん坊で本当はもっと愛情をかけてほしいんですよ。お母さんが保護猫活動をしていて、よそに心が向くのが不満なのでしょう」

(末尾に写真特集があります)

三毛猫「メイ」

 都心のマンションで暮らすY子さんが猫の保護活動に携わり、預かりボランティアをするようになって10年以上が経つ。

 預かりボランティアとは、保護された猫たちを一時的に自宅に預かり、譲渡先がみつかるまでの間、家猫としての生活に慣らすために世話をする活動のことだ。

 この10年の間に、Y子さんのもとから巣立っていった猫は20匹近くになる。

 外で過酷な生活を送っていた猫たちが、安心安全な家庭にもらわれていく姿に立ち会えるのがうれしい。譲渡先から近況報告がてら写真や動画が送られてきて、保護した当時とは比べものにならないぐらい甘えん坊になった姿を見ると、頬(ほお)がゆるむ。

 そんなYさんにいつも寄り添ってきたのが、愛猫の「メイ」(11歳、メス)だ。

「お客さま歓迎よ、いつでも寄ってって」(小林写函撮影)

 Yさんがメイと出会ったのは2013年の夏、たまたま買い物にでかけた隣町の商店街だった。当時、Y子さんはまだ保護猫活動に携わってはいなかった。

 白い毛がメインで、黒と茶がぶち模様で入るとび三毛柄の子猫で、Yさんの姿を見るとすり寄ってきた。毛艶もよくふっくらしており、どこかの飼い猫かと近くの商店の人にたずねた。すると「生後半年ぐらいで飼い主はおらず、人懐っこく甘えん坊なので、近所の人が皆でかわいがり世話をしている」とのことだった。

メイを家族に

 当時、Y子さんの家には「フウ」という名の12歳のメスの猫がいた。また別の14歳の愛猫を、病気で亡くしたばかりだった。 

 くったくのなさそうなこの子猫を迎えたら、家の中が明るくなるだろう。そう思ったが、もし20歳まで生きた場合の自分の年齢を考えて躊躇(ちゅうちょ)した。しかし、3回目に会ったときにひざに乗ってきたことで運命を感じ、世話をしている人々に許可を得て保護をし、「メイ」と名付けた。

 メイは人だけでなく、猫も好きな猫だった。先住猫のフウのあとを常について回り、フウが寝ているときには横にぴったりとくっついて寝た。

 かといって、メイから見たらおばあちゃんの年齢で、もともとおとなしい性格のフウを無理やり遊びに誘うことはなかった。家にある置物にじゃれて壊し、Y子さんをヒヤヒヤさせることはあったが、基本、遊びたいときは1人で「けりぐるみ」と戯れていた。フウも、心得たメイを疎ましく感じることはないようだった。

猫たちに好かれるメイ

 その2カ月後、Y子さんは生後2カ月の子猫の兄弟2匹を預かることになった。知り合いが保護猫をなかば強引に預けられ困っていたからで、「ならばうちで預かりましょう」と、あまり深く考えずに引き取った。

 最初は2匹をケージに入れ、隔離した。メイは近づいて中をのぞいたり、興味津々だった。

 1週間ほど経ち、そろそろケージから出してもいい頃かと思い、Y子さんは子猫たちを解放した。

「私ね、失敗にくじけないタイプなの、寝たら忘れちゃうの」(小林写函撮影)

 するとメイは、よちよちと歩きまわる子猫たちを目を丸くして凝視した。首を右から左、左から右へと子猫たちの歩く方向に合わせて動かす。「なんだ、この生き物は」という表情でしばらくかたまっていたが、やがて逃げるように本棚のてっぺんにのぼってしまった。

 だがメイが警戒したのはこの日だけだった。翌日には子猫たちに混じって過ごすようになった。

 一緒になって遊び、3匹でくっついて昼寝をする。メイもまだ子猫と呼べる年齢だが、からだだけは大きいので、その様子はまるで親子のようだった。離乳前の子猫の世話をするのがはじめてで気が張っていたY子さんも、3匹の姿を見て心がなごんだ。

 子猫の兄弟はすくすくと成長し、3カ月後には譲渡先が決まった。子猫たちが去ってしまうと家の中が広くなり、メイも心なしかさみしそうだった。

 この経験を機にY子さんは、地域猫の餌やりに参加するようになり、猫の保護活動や、保護猫の預かりを積極的に行うようになった。

「こんにちは。Y子さんちにホームステイ中のナナです」(小林写函撮影)

 翌年、Y子さんは「モモ」(10歳、メス)を家の猫として迎えた。もともとは預かり子猫だったのだが排尿がうまくできず、一度トライアルに出したが出戻ってきて、そのままY子さんの猫になった。

 フウ、メイ、モモの3匹と暮らしているときに、2匹の黒猫の兄弟を預かったこともあった。このときは賑(にぎ)やかで、フウを除く4匹の猫が家中を駆け回り、騒音で苦情がきたこともあった。

 フウが亡くなり、その後も平均して1年に1組は、保護猫を預かるようになった。これができるのは、メイが預かり猫たちに対して寛大だという理由も大きかった。

 メイは猫たちに好かれる猫だった。家に来たどの猫も、メイには自分から寄っていく。メイのそばにいると、なぜか猫たちは安心するようだった。

本当は甘えたい

 そんなメイだが、一度、こんなできごとがあった。

 Y子さんが預かりボランティアをはじめた初期の頃だった。ふと気がつくと、メイの肩甲骨のところの毛がまるで天使の羽のような形にバッサリと抜けていた。どうやら後ろ脚で掻(か)きむしっているらしく、皮膚が赤くなっていた。

 かかりつけの動物病院に連れて行き、かゆみ止めのステロイド剤を処方してもらった。だが一時的に緩和されてもすぐにぶり返す。

 それで、東洋医学を取り入れた治療を行う獣医師のところに連れて行くと、こう言われた。

「メイちゃんは甘えん坊で本当はもっと愛情をかけてほしいんですよ。お母さんが保護猫活動をしていて、よそに心が向くのが不満なのでしょう」

 毛を掻きむしるのは、ストレスからくる自傷行為だろう、というのが獣医師の見立てだった。

「こんにちは、モモです。慢性腎臓病であんまり具合が良くないからベッドから失礼します」(小林写函撮影)

 思いあたるふしはあった。このとき、Y子さんの家には茶トラの4歳のオス猫がいた。はじめて預かった成猫で、対面させた日には、珍しくメイの食欲が落ちた。すぐに回復したので問題ないと思っていたが、そうではなかった。

 子猫とは違い、自分より歳上の成猫が生活エリアに入ってくることは、大きなストレスになる。メイがそんな顔をしていなくても、いや、していないからこそ飼い主が気をつけてやらなければならないのだと、このときY子さんは肝に銘じた。

 処方されたイライラを抑える漢方薬を食事に混ぜて与えたら、メイの症状はピタリとおさまった。

(次回は10月11日公開予定です)

【前の回】コロナ禍が明けて久々の愛猫を連れた帰省 “やんちゃな孫”に両親が目を細めたあの日

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
あぁ、猫よ! 忘れられないあの日のこと
猫と暮らす人なら誰しもが持っている愛猫とのとっておきのストーリー。その中から特に忘れられないエピソードを拾い上げ、そのできごとが起こった1日に焦点をあてながら、猫と、かかわる家族や周辺の人々とのドラマを描きます。
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