“奈落の底”に落ちた子猫、無傷の救出 強運さに「きっと幸せになる」
車がビュンビュン走る道路の真ん中、深い穴に転落した子猫が助け出されました。絶体絶命のピンチからの救出劇。奔走した2人の証言から経緯を追ってみます。
捨てられた? 草むらでぎゃん鳴き
草むらで子猫の鳴き声がする――。
その朝、保護猫ボランティアの村木さんは連絡を受けて現場へ向かった。交通量の多い国道沿い。雑草が大人の腰丈ほどまで茂っていた。ミャァァァオ、ミャァァァオ。 声でまだ幼いと確信した。
「尋常ではないぎゃん鳴きで、最近この付近はあまり猫を見かけないため、車からポイ捨てされたのではと思いました」
中へ入って探すが、草が邪魔をする。通りがかった男性に「声は3~4日前からしていた」と告げられ、焦った。持参した捕獲器を設置し、仕事の合間をぬって確認に行くも、捕獲器は空のままだった。
何人かの知人に様子を見てくれるよう声をかけると、足を運んでくれた。しかし、姿は見えず、鳴き声もしないという。もう無理なのか。諦めようとしたが諦めきれず、再び訪れた現場で「生きてるかー?」と叫んだ。すると、ギャゥー!!!と反応があった。
「かすれた声でしたが、生きてるよ、助けて、と言っているように聞こえました」
ただこのときも、子猫の姿は確認できず、捕獲には至らなかった。
声は中央分離帯の「中」から
同日夜。捕獲器の確認を引き受けた保護仲間の谷本さんが、異変に気づいた。鳴き声が、草むらではなく、車道を越えた中央分離帯の方からする。しかも反響しているようだ。見るとコンクリートの上部にハッチがあり、横には通気口のような穴が4つあった。もしかしてあそこに!?
「カメラを取りに戻り、主人に手伝ってもらい、三脚をのばして穴の中を撮ってみると、深すぎて何も写らない。まるで奈落の底のようでした」
状況は困難を極めた。
次の朝、谷本さんは村木さんと相談し、ハッチを開けないことにはどうにもならないと判断。辺りを走る地下鉄の設備ではと考え、手分けして鉄道関係に問い合わせるも、夕方に「うちではない」との返事が。それではと、すかさず管轄の国道事務所に問い合わせるが、すでに時間が遅く、返答待ちのまま夜を迎えた。
「ドライフードと水をそれぞれ入れた容器にひもを結び、穴から下ろしたところ、ピンと張ったひもがゆるみ、容器が底に着く頃にはひと巻きがなくなりました。10m以上ありそう……。ケガをしたのでは。などとぐるぐる考えていたら、かすかにフードを食べるような音が聞こえてきました」
翌朝一番に、改めて一刻も早い対応を管轄の国道事務所に懇願。即時対応は従来難しいのだが、「命がかかっている」の言葉を受け止めてもらうことができ、午前11時にハッチを開ける約束を得られた。光が見えた。
迅速な救助、力強い声
捕獲用のキャリーやタオルを用意して待っていると、緊急作業車が到着。2人と心配していた仲間たちが見守る中、係員は事務所と連絡を取りながらハッチを開け、ステップをつたい降りていった。
が、そこに子猫の姿はなかった。内部は空間が仕切られており、子猫が落ちたのは隣の空間だったらしい。隣へは仕切りにある扉からアクセスできるものの、管轄機関が違うため、またやりとりすること数分、ついに扉が開いた。
息をのむ沈黙の後、「いたいた。キャリーを!」。続いて聞こえたのは、フー!シャー! そして、ギャウーギャウーという力強い鳴き声。係員の腕にはタオルのふくらみがあり、ひもで下ろしたキャリーに素早く入れた。
引き上げられたキャリーの中にいたのは、キジトラの子猫。救い出されたことがわかるはずもなく、ただ驚き、怯(おび)えていた。
「扉が開いてからはあっという間でした」と谷本さんが言う。
「助けてくださった方々、対応してくださった国道事務所の方々に感謝しています。なお、こういったケースはたまにあるということでした。できれば落下防止の対策をしていただけるとありがたいです」
奇跡! 深い穴に落下し、無傷
一見元気とはいえケガが心配されたが、病院でみてもらうと、傷も骨折もなかった。病気もなし。推定生後2カ月弱の男の子で、体重は740g。月齢から考えると体重は1㎏あってもおかしくない頃だが、やせてガリガリだった。
「うんちにビニールなどのゴミがいっぱい混ざっていました。おなかが空いて何でも口にしたのでしょう。もう少し遅かったら、落ちたところに水がたまっていたら……結果は違っていたと思います。それに何より、あんなに深い穴に落ちて無傷なのは、奇跡的」という村木さんの言葉を受け、谷本さんは「強運な子。きっと幸せになりますね」と返した。
そして2人は声をそろえた。「もしも危険な状況にいる猫がいたら、見過ごさず、あきらめないでほしい。きっと動いてくれる、助けてくれるところがあるから」と。
子猫は村木さんのもとで保護され、「伝馬」と名付けられた。
「毎日が恐怖との戦いだったからか威嚇がすごく、最初は2回、思い切りかまれました」と村木さんは笑う。それが日に日に落ち着き、布団にもぐり込んでくるまでになったという。
「甘えん坊だと思います。少し後に来た子猫が怯えていたら、寄り添ってペロペロしてあげる面倒見のいい一面も。もっと人に慣れたら、次は飼い主さんの募集です」
生後2カ月足らずで母猫やきょうだいと離れ、ひとりぼっちで飲まず食わずで何日も過ごし、ゴミも食べた。車道を横断し、最後には深い穴へ転落。いつどこで命を落としていてもおかしくはなかった。次々と見舞われる危機の中で、生きる力と運の強さを発揮した伝馬。飼い主となる新しい家族にも幸運をもたらすことだろう。
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