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猫もトレーニングできる?「もちろんできます」 オテする猫にハートを射抜かれて

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は楽しい企画、「猫のトレーニング」について、入交先生が答えます。

しつけとトレーニングの違い

 沖縄が梅雨入りし、これから全国的に梅雨になっていきますね。じめじめしてくると洗濯物が干せなかったり、なんとなく家の中の湿度も高くなったりして嫌な季節ですが、雨が降ったら、猫と窓にあたる雨粒を見つめてまったり過ごすのも、風情があってよいものかもしれません。猫家族だけが知る幸せ時間ですね。

 さて、今回のテーマは、「猫は犬のようにトレーニングができないのは本当ですか?」です。いただいた質問は「猫は“しつけ”ができないのか」、というものだったのですが、そもそも犬猫の「しつけ」って、何を意味するのか人によって考え方が違うものだと思います。

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 私の場合、「しつけとは人と暮らす中でのマナーを教えること」と定義すると、トイレのしつけはトイレの環境を整えることですし、朝飼い主を起こし来ることも、環境を調整して起こされないようにしたり自動給餌器で早朝にご飯を自動的に与えたりすると、なんとかなるかもしれません。「猫のしつけ」は、猫に適した環境を人側につくり、猫を理解してちゃんと猫と向き合って時間をつくる、という努力が大切なもの。

 そこで今回は、私の定義するしつけではなく、「トレーニング」「こちらが言ったことに従って行動を変える」、あるいは「芸」を教えられるのか、ということだと推測し、「猫も犬のように学習できるのか?」という質問と理解して、回答します。

「もちろんできます!」

「猫も犬のように、トレーニングによって人が言った指示で行動を変えられるのか?」の答えは、「もちろんできます」になります。猫はめちゃくちゃ賢い動物です。いろいろなことを教えられます。犬と違う点としては、長い時間集中し続けることが難しいような印象があるくらいです。頻繁に休憩を入れながら教えていくようになります。

 猫にいろいろな「コマンド(号令)」を教えることで、人とコミュニケーションがとれるようになります。例えば、私の猫は夜寝る前にかまってほしいと足に絡みつくので、蹴飛ばしそうでこちらは歩けなくなってしまいます。そこで、指をさしたところに行く、指示したところにいくようにトレーニングしています。

 夜、洗面所に行きたいのに足元に絡みついてきたときには、「ハウス」と言って、自分のキャリーに行かせ、移動してキャリーに入ったら、口頭でほめて、おやつ(ドライフード)をハウスのほうに投げて与えます。こうすることでハウスに行かせられるので、夜中に猫を蹴飛ばしてしまうような事故を防ぐことができます。

トレーニングは猫も楽しい!

 トレーニングをすることで猫も頭を使いますし、顔つきを見ると本当に真剣に学んでいるので、おそらく楽しんでいるのではないかと思います。心理学的にもどの動物もただご飯をもらって何も学ばない毎日より、学習して報酬としてご飯を得ることで心が豊かになることがわかっています。

「環境エンリッチメント(動物の住む環境を豊かにすることでストレスを減らす活動)」という取り組みが動物園などで行われていますが、わざと餌を隠して探させて頭を使わせたり、トレーニングをして頭を使わせたりすることが積極的に取り入れられています。そうすることで、動物も幸せになるし、ストレス解消にもなります。

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 また動物園では、「ハズバンドリートレーニング」といって、飼育員の方のお世話や医療スタッフによる健康診断が楽にできるように、同時に動物に麻酔をかけなくてもいいように、例えば歯磨きを受けいれるトレーニングをしたり、注射を打つ間おとなしくしているようなトレーニングをしています。動物は頭を使って、「芸」として動かずにいろいろ受け入れることを学び、人も楽にお世話ができて、だれもつらくない、一石二鳥の取り組みです。

ハウスのトレーニングをぜひ

 家庭にいる猫さんも、仕事もなく、頭を使うことなくただご飯をもらっている毎日はあまり豊かではないので、ぜひトレーニングをして頭を使わせたり、工夫しないとご飯が食べられないようなおもちゃも与えたりして、豊かな毎日の環境を提供してあげていただきたいと思います。

 猫に何を教えたいかは、何だってそれぞれが好きなことをできますが、私も行っている「ハウス」でキャリーに入るトレーニングは重要です。「ハウス」と言うことで猫がキャリーに入れるようになったら、いろいろ便利です。

「ハウス」の教え方

  1. キャリーの中におやつを入れて、中のおやつを食べて出てくる、そんな行動を何度か遊びながらさせてみます。
  2. キャリーの中におやつを入れる際に、「ハウス」といって、おやつを中に置くと、1番の練習ですでにキャリーに出入りする遊びをしているので、おそらくすぐにキャリーに入っていくと思います。
  3. 「ハウス」と言ってキャリーに入っていくようになったら、おやつを入れる前に「ハウス」といいます。猫がキャリーに入ったら、「いいこ」と言っておやつを与えます。
  4. 人がコマンド(号令)を出す場所を変えたり、立ち上がっている姿勢で「ハウス」と言ってハウスに入ったら「いいこ」と言っておやつを与えます。人の姿勢によって入ったり入らなかったりしないように、人はいろいろな姿勢や場所からの指示を出すけれど、「ハウス」という言葉が大事だと教えます。

 繰り返すうちに「ハウス」というと猫が自ら急いでキャリーに入れるようになるので、あとはキャリーの中に長くとどまったり、キャリーのふたを閉める練習もしたりしていくと、ハウスに入って「待て」というだけで中にいられるようになります。キャリーにさっさと入れると、災害時の避難にも役に立ちます。

 猫が「ハウス」にとどまる練習に関しては、東京農工大の私たちのチームで作っている「わんにゃん暮らしのアドバイス」というウェブサイトでも、2024年7月ころに動画付きで方法を紹介する予定です。

オテの教え方

 実は難しいです。我が家の猫はフードを手のひらに乗せて握ると、そのフードが欲しくて手を使って握った手を開けと合図をしてくるので、私の手を触ったら握った手をあけて、フードを食べさせるゲームを繰り返すことで、げんこつを作るとその手を触るようになって、次にそのげんこつの手を少しずつ開いていきました。

 しかし、おやつを持っていても、そのおやつを食べたい場合に、うちの猫みたいにそもそも手を出してくれない猫もいるので(ニャーと鳴く猫もいるし、プイといなくなる猫もいます)、猫によってどうやってゴールとなる行動を教えるかは異なってきます。猫の性格、癖を見て、いろいろ考えないといけません。

 もしかしたら、おやつを使って楽しく行動を教えてくださるドッグトレーナーの方にご指導を受けてもいいかもしれません。

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「トレーニング」「しつけ」という言葉は、人によって捉え方やこの言葉で何を想像しているかが大きく違うもの。どちらも「学習」(過去の経験から情動や行動が変わること)の理論の話かとは思うのですが、「猫は学習できるのか?」と聞かれれば、「もちろんできます」と答えます。

 いろいろ教えてあげていただきたいと思います。学習させることがかわいそうなことはまったくないし、なにも教えてあげないのは、「自分ですべて考えて、各家庭の求める正しい行動を叱られながら当てていけ」ということなので、逆にとてもかわいそうかもしれませんね。

(次回は7月13日公開予定です)

【前の回】待合室でキャリーを床に置かないで 病院嫌いの猫に飼い主がしてあげられることとは?

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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