茨城県畜産センターにおける牛たちへの虐待が発覚した
茨城県畜産センターにおける牛たちへの虐待が発覚した

筆舌に尽くしがたい数々の暴力と劣悪飼育 発覚した茨城県畜産センターでの牛の虐待

 茨城県畜産センター本所(以下、畜産センター)は、畜産動物の飼養管理や繁殖、品種改良などの研究を行っている県の畜産試験場で、つまり動物実験施設です。乳牛55頭、肉牛63頭(2023年12月時点)を飼育していて、和牛の受精卵や乳牛の生乳の販売といった事業も行っています。

牛たちへの虐待が暴露される

 2023年7月、畜産センターの従業員たちによる牛への虐待の様子を撮影した動画が、「PETAAsia」(動物の倫理的な扱いを求める人々の会 アジア)によってインターネット上に公開され、その残酷な行為が暴露されました。その後、「JAVA」や動物愛護法改正などで連携している「PEACE」にもこの虐待に関する内部告発が寄せられました。

牛たちへの数々の虐待

 牛への虐待は、ここに列挙し尽くせないほど多く発生しています。これは内部告発者が2022年に3か月にわたって記録したものです。

■ 日常的に殴る、蹴るなどの暴力をふるう

 牛たちは、複数の従業員たちから、こぶしで顔を殴られる、金属製の掃除道具で足を叩かれる、竹棒で乳房や腹を突かれる、足で下半身を蹴(け)られるといった暴力を日常的に受けていた。時には1回の診察時に治療中の後ろ足を金属製のスコップで17回突かれたこともあった。

従業員が足を振り落とし、牛を蹴っている

搾乳室で従業員が乳牛の敏感な乳房を竹棒で突く

■ 猛暑の中、日陰もない屋外運動場に放置する

 気温が40度に達し、日よけのない運動場に出されている複数の牛が口から泡を吹き、舌を出して荒い呼吸を繰り返しているにもかかわらず、牛舎に入れずに運動場に放置した。

あまりの暑さから口を開け、大量のよだれを流し続けている牛

■ 雨を避けることもできない飼育場で飼育する

 屋外の運動場で常時飼育されている牛たちがいる。そこには風雨や寒暑から身を守ることのできる避難スペースはない。あるのは餌用の雨よけの小さな屋根のみ。そのため雨の強い日には牛たちはずぶ濡れになる。濡れた体で気温7.4度の中過ごしたこともあった。

わずかな屋根の下で何とか雨を避けようとする牛たち

■ まともに体を横たえることもできない状態で飼育する

 繋(つな)ぎ飼い方式の牛舎の牛たちは、横臥(おうが)する際、後肢部分はグレーチング(金属製のスノコ)に横たえなければならない環境になっている。さらにそのグレーチングが劣化して曲がっていたり、グレーチングの数が足りず隙間ができていたりする場所があり、牛たちはまともに横たわることもできない。

金属製のスノコが壊れている上に隙間があるため、体を伸ばして横たわることができず、体を捻(ね)じ曲げている

■ 麻酔や鎮静剤の投与をせずに、子牛の除角を行う

 子牛の除角を行う際、複数の従業員が横倒しにした子牛の上に乗り、別の従業員が痛みで泣き叫ぶ子牛の頭を足で押さえつけ、熱せられた焼きゴテを押し当てて、角の組織を取り除く。

 農林水産省の指針では、「除角を行う際、牛への過度なストレスを防止するため、獣医師等の指導の下、牛の種類と飼養方法にとって最適な、可能な限り苦痛を生じさせない時期と方法を選択する。また、必要に応じて獣医師による麻酔薬や鎮痛剤の投与の下で行う」とされている。そもそも除角は必ずしも行わなければならないものではない。

あまりの恐怖と苦痛から、目を見開き、泣き叫び、もがく生後2か月の「ミゾレ」

■ 乱暴な方法で胃液採取を行う

 1か月に1~2度、乳牛の胃液採取が行われていた。しかし、従業員の知識と技術と動物福祉の意識が不足しているため、採取がスムーズに行われていない。牛の鼻に長いチューブを何度も出し入れしたり、最終的に口をこじ開けて口からプラスチックの太く長いパイプを突っ込み、そのパイプの中にチューブを挿入するという方法をとったりした。牛は鼻から出血し、苦痛から逃れようと何度も暴れた。

この「ハーモニカ」という名の乳牛は、毎月1~2回行われる胃液採取に使われていた。ハーモニカは、このような苦痛を何度も味わわされ、2023年1月、3歳で死亡

■ 足が埋まるほどドロドロになった運動場に閉じ込める

 運動場(パドック)の糞尿を排出する作業を怠り、まったく行っていない。そのため、気温の低い時期には地面がドロドロにぬかるんだ状態となる。牛たちは毎日強制的にこの泥濘化(でいねいか)した運動場に閉じ込められていた。

運動場は、足が埋まるほど糞尿でぬかるんでいる

改善・再発防止のため、公開質問状を知事に提出

 虐待行為を行った人物に対してしかるべき措置がとられなければならないのは当然のことですが、私たちの最大の目的は、虐待の再発防止と牛たちの飼養環境の改善です。そのため、2023年12月、現状を確認し、また問題点を指摘した上で改善を求めるための30問以上に及ぶ公開質問状を、JAVA、PEACE、PETAAsiaの3団体連名で、この畜産センターの最高責任者である県知事に提出しました。

全く反省がない県からの回答

 2024年2月、茨城県農林水産部畜産課から、質問状に対する回答が届きました。ところが、その内容は「関連法令や国の指針に則した管理を行っている」という、まるで虐待がなかったかのような回答で、私たちが指摘した問題点に対してどのような対処・改善をしたのか説明のない、まったく具体性を欠いたものでした。本来であれば、県は早急に暴力行為の再発防止策を講じ、飼育環境の改善を実行し、自らそれを公表すべきです。その後も県は、明確な説明を拒否しつづけています。

県と従業員たちを刑事告発

 2月19日には、虐待行為を行った従業員たちとその雇用者である茨城県を、「身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加える」「健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束する」「排せつ物の堆積した施設において飼養する」といった行為を禁じている動物愛護法違反で石岡警察署に刑事告発しました(告発人:JAVA、PEACE、認定NPO法人アニマルライツセンター、認定NPO法人動物愛護を考える茨城県民ネットワークの4団体)。刑事告発は、3月28日に正式に受理されました。

県知事に皆さんの声を!

 ぜひ皆さんからも、県知事に「畜産センターの牛への虐待を二度とやらないで」「畜産センターの牛たちの飼育環境をアニマルウェルフェアに配慮したものに改善して」など、皆さんのご意見や要望を送ってください。

 詳細、さらなる情報はJAVAのホームページから。 

 ※記事は2024年4月1日時点の情報です。

(次回は6月10日公開予定)

【前の回】動物愛護法ってどんな法律? より良い法律にするために知っておきたいQ&A

JAVA
NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)。1986年設立。動物実験の廃止を求める活動を中心に動物の権利擁護を訴え、世界各国の動物保護団体と連携しながら活動している市民団体。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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