「ひとりが一番」(小林写函撮影)
「ひとりが一番」(小林写函撮影)

保護猫「みーちゃん」のトライアル初日 先住猫「はち」との初対面は思わぬ形に

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護団体B会でみつけ、お見合いののちにトライアルをすることに決めた。ベランダに脱走防止対策を講じ、お見合いの日から約1カ月後に開始することになった。

(末尾に写真特集があります)

みーちゃんがやってくる!

 ゴールデンウイークを目前に控えた4月末の平日、その日は初夏を思わせるさわやかな陽気で、私は午前中に家中の空気を入れ替え、掃除をした。

 みーちゃんは、B会のSさんとMさんが車で連れてくることになっていた。その際、貸してもらうことになっているケージと、そのケージのサイズに合う猫用のトイレ容器も持ってきてくれることになっていた。

 2人は、地域猫として外にいたみーちゃんの世話をしていた人たちだ。

 私は、みーちゃん用に買いそろえたフードや猫砂、爪とぎ、クッション、食器などをリビングのテーブルに並べた。食べ物の好き嫌いはないらしいので、ドライフードは7歳以上の猫用で、原材料の記載のトップが鳥肉になっている質のよいものを選んだ。

 先代猫「ぽんた」、はちに続いて猫を迎えるのは3匹目だが、いよいよ共同生活がはじまると思うと、楽しみというより緊張のほうが若干上回る。

 はちは、みーちゃんがケージに入って落ち着くまでは、私の部屋に隔離しておくことにした。

「なんか知らない猫のにおいがする」(小林写函撮影)

 午後1時、玄関のインターホンが鳴り、SさんとMさんが到着。解体した状態のケージを運び込むのにツレアイが手を貸す。みーちゃんは、風呂敷に包まれたキャリーバッグで運ばれてきた。

緊張した面持ち

 鳴いている様子もなく、おとなしい。連れてくる車中でも静かだったそうだ。

 一方のはちは、私の部屋のドアを内側からガリガリかいて「にゃーお、にゃーお」と鳴いている。いつもと違う「何か」を察しているらしい。「出せ出せ」のアピールが激しい。

 SさんとMさんが2段ケージをリビングの指定の場所に組み立てる。窓に近い部屋の角で、隣家の垣根や木々の緑が見える特等席だ。

 準備ができたところで、Mさんがキャリーバッグの風呂敷をはずす。現れたみーちゃんは目をまんまるに見開き、うずくまっていた。お見合い日に見せた気の強そうな顔とは違い緊張した面持ちで、かわいらしく映る。

「知らない猫が来たぞ。遊んで気をまぎらわそう」(小林写函撮影)

 みーちゃんをケージに移す際、 まずMさんはキャリーバッグの手前のドアを開けて、ケージの入口にぴったりつけた。みーちゃん自らキャリーから出て移動するように仕向けたいようだ。だが、みーちゃんが動く気配はない。

 そこでキャリーバッグごとケージの中に入れ、バッグの上部を取り外し、天井がない状態にした。みーちゃんはボートに乗っているような格好になったが、それでも微動だにせず、結局、みーちゃんは抱えて床におろされた。

 置物のようにかたまっているみーちゃんの脇に猫トイレと爪研ぎをセットし、水とドライフードを少量盛った食器を置き、ケージの扉を閉めた。

「知らない猫がいないベランダでのんびりしようと思ったのに、なんだかにぎやかなだな」(小林写函撮影)

 ツレアイがいれたコーヒーを飲みながら今後の流れの確認を行なった。

 トライアルの期間は原則2週間だが、もう少し様子を見たければ話し合い次第で延長可能。その間私は、グループ LINEでときどき、みーちゃん様子を写真や動画で知らせる。正式譲渡となった場合は、再びSさんとMさんが家に来て、譲渡契約書を交わす。

「心配なことがあったらいつでも遠慮なく相談してください」と言われ、礼を言って2人を送り出した。

 2人が帰り、ツレアイが泊まりの仕事のため家を出てしまうと、家の中は急に静かになった。

はちと対面、そのとき…

 相変わらずケージの床にうずくまっているみーちゃんに「長旅で疲れたでしょう、ゆっくり休んでね」と声をかけ、ケージをすっぽり覆うように布をかけて、外から見えないようにした。

「こんにちは、知らない猫よ」(小林写函撮影)

 みーちゃんを迎えるにあたり私は、猫を多頭飼いする際の心得を解説した本や、ウェブサイトの記事を読み込んだ。

 これらの「多頭飼いガイド」によると、先住猫に新入り猫を対面させるときは慎重に行う必要があるという。

 まずはお互いの姿が見えないよう、布をかけたケージ越しなどで行い、気配を感じてもらう。お互いの存在に慣れたら実際に顔合わせを行い、様子を見ながら徐々に、対面の時間をのばしていくのが理想だそうだ。

 いきなりの対面だと猫たちが動揺する。特に先住猫は、自分の縄張りに知らない猫が来たことに驚き、パニックになったり、激しく威嚇したりすることが多いからという。

 私は、そろそろ自室に閉じ込めているはちを出してもよいだろうと思い、ドアを開けた。はちは飛び出してきて、小走りでリビングに向かうと、ケージの前で立ち止まった。

 そのとき私は、ケージの隅の布が少しずれていて、中が見えるようになっていることに気がついた。

「まずい」と思ったが、制する時間はなく、はちは中をのぞきこんだ。

 はちがヒクヒクと鼻を動かす。すると、うずくまっていたみーちゃんが立ち上がり、首をのばし、はちの鼻に自分の鼻をくっつけた。

 2匹はしばらくお互いの匂いをかぎあうと、静かに離れた。

 これは、ひょっとして「鼻チュー」という行為ではないか。私は驚いた。 

(次回は2月2日公開予定です)

【前の回】脱走防止ネットをDIY ついに同居猫候補「みーちゃん」を迎える準備は整った

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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