【獣医師監修】猫を抱っこ好きにさせる方法と抱っこ嫌いにするNGな抱っこ
猫が抱っこが好きかどうかは、その子の性格、また子猫期に受けたスキンシップの有無などによって異なります。また、猫はもともと持ち上げられたり、人の腕で拘束されることを好まない動物でもあるため、子猫のうちから慣れさせたり、おもちゃやおやつをうまく使って抱っこに対するイメージをよくする工夫も必要です。ここでは、猫にとって安心できる抱っこの方法や、逆に猫を抱っこ嫌いにさせてしまうNG行動についてご紹介します。
- 監修:獣医師 入交眞巳
- 獣医師。「どうぶつの総合病院」行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医。『猫が幸せならばそれでいい』(小学館)など著書多数。sippoにて「猫との暮らし相談室」連載中
猫が抱っこを好きか嫌いかは性格や育ち方による
人間でもスキンシップが好きな人とそうでない人がいるように、自分から抱っこをせがむ猫もいれば、抱っこどころか触られることも苦手な猫など、スキンシップの度合いや人との距離の取り方は、猫によってさまざまです。
生まれもった性格が怖がりで神経質な猫は、人との適度な距離を保つことで安心感を得ています。それゆえに抱っこが苦手なことも多いでしょう。逆に、甘えたがりで本来の気質として抱っこが好きな猫もいます。
また子猫期の人とのスキンシップの有無、飼い主との関係性などによって抱っこが好きになる猫もいれば、嫌いになってしまう猫もいます。
猫が抱っこを好きか嫌いかは、性格や育ち方に大きく左右されるのです。
猫を抱っこ好きにさせる上手な抱っこの仕方
猫にとって体を高く持ち上げられることは、本来であれば不安や恐怖を感じる不自然な状態。飼い主は、こうしたもともとの猫の性質を理解した上で、猫が怖がらない、嫌がらない方法で抱っこをしてあげることが必要です。
大切なのは、無理強いをしないこと。そして抱っこの際は安定した体勢で抱っこしてあげることです。また抱っこの間、猫が好きなところをなでてあげて、抱っこと一緒に気持ちいい体験をさせてあげましょう。無理に抱っこしようとせず、猫が自分から近寄ってくるタイミングを待ってあげたり、猫の様子をよく観察して1日に何度か行ってみるなど、焦らず時間をかけて慣れさせていくことが大切です。
猫が落ち着いている時に以下の方法で抱っこの練習をしてみましょう。
手順1. 猫の様子をよく観察し、静かに実行する
急に抱こうとすると猫を驚かせ、逃げられたり、気配を察して隠れてしまったりすることがあります。抱っこは飼い主の近くでくつろいでいたり、甘えるように近寄ってきた時に静かに行います。それでも猫に戸惑うような様子があれば、無理に抱かないことが大切です。
手順2. 飼い主は座った状態で、猫の上半身をゆっくり持ち上げる
人と猫は違う動物であり、いわゆる人間の赤ちゃんのように抱っこされることをそもそも猫は好みません。猫の抱っこは膝に乗せる程度と心得るといいです。
また猫は高い位置で抱っこされるのを怖がることもあるため、慣れるまでは座った状態で抱っこするのがいいでしょう。
猫が近寄ってきたら、両手を使ってお尻と脇の下から掬い上げるように持ち上げます。高く持ち上げ過ぎないように注意しましょう。
手順3. 片方の手でお尻を支えながら引き寄せる
上半身をゆっくり持ち上げながら、同時にもう片方の手でお尻を支えて自分の方へ引き寄せます。
手順4. 自分の身体にそっと引き寄せて膝の上に乗せる
そのまま猫を膝の上に乗せるような感覚で上身体を密着させます。自分の両手と身体、両足で猫を支えられるので抱っこが安定します。長時間抱っこされるのを嫌がる猫もいるため、猫が離れようとしたら無理に引き戻したりせず、身体の自由を奪わず放してあげましょう。
次の章ではより擬態的に、猫を抱っこ嫌いにするNG行動を紹介します。
猫を抱っこ嫌いにするNGな抱っこの仕方
抱っこをした時の体勢や体の持ち上げ方が悪いことで、猫が抱っこを嫌がっていることがあります。
無理に抱っこするのはNG
嫌がる猫を無理に抱っこしようとすることが続くと、かえって猫を抱っこ嫌いにしてしまいます。抱っこ中に落ち着かない様子でいたり、体をよじったり後ろ足でキックするなど少しでも嫌がる行動があれば、猫の気持ちを尊重して自由にさせてあげましょう。
不安定な体勢の抱っこはNG
猫の上半身だけを持ち上げて後ろ足がブラブラと不安定な状態や、体がずり落ちそうな抱っこは猫にとって不快です。また、赤ちゃんの「高い高い」のような抱っこは猫にとって恐いだけでなく、成猫であれば体重が肩にかかって痛みを感じることもあるので絶対にやめましょう。
首の後ろを掴む抱っこはNG
母猫が子猫の首ねっこをくわえて運ぶことがありますが、体重のある成猫が首の後ろを掴んで持ち上げられると体を痛める可能性があり、非常に危険です。決して真似しないようにしましょう。
仰向けで抱っこするのはNG
お腹を天井に向けさせた抱っこは、猫にとっては無防備な姿勢のため嫌がります。できるだけ猫が自然な体勢となるように抱っこしましょう。
飼い主の都合や慣れない環境での抱っこはNG
例えば来客時。隠れて出てこない愛猫を無理に知人に引き合わせようとして抱く行為は、猫にとって体の自由を奪われ、距離を取りたい相手からも逃げられない、とても嫌な状況です。動物病院など猫にとっても必要な時を除いて、いつもと違う環境で飼い主の都合による抱っこをしてしまわないよう注意しましょう。
邪魔されたくない時に抱っこするのはNG
食事中や食事後のグルーミング中、遊びに夢中になっている時など、猫がしていることを遮るようなタイミングで抱っこをするのはやめましょう。猫にとって、邪魔されることによる不快感はもちろん、抱っこをネガティブなものと捉えるようになってしまいます。
猫が苦手な匂いのまま抱っこはNG
猫は知らない匂いや苦手な匂いに敏感です。飼い主から知らない匂い、苦手な匂いがしていると、抱っこどころか警戒して距離を取ることもあります。なかなか猫に近づいてもらえないような時は、きつい香水やたばこなどの匂いがしていないかどうか、行った先の環境からニオイをつけて帰ってきていないか自身の匂いも気を使いましょう。
猫の抱っこ嫌いには理由がある
抱っこが嫌いな猫にもちゃんと理由があります。そのため、猫の性質や性格、育ってきた環境を理解してあげることも飼い主の役目です。
子猫の頃に人と接する機会が少なかったり、接する機会はあっても抱っこに対してネガティブな体験がある猫は、抱っこされることを嫌がります。
抱っこを嫌がられると飼い主としては寂しい気持ちもあるでしょう。でも、そもそも猫と人間は違う動物であるという点。また、抱っこ嫌いがすなわち飼い主を敵視しているということでもありません。抱っこで怖い思いをしたり、慣れていないから落ち着かないなどの理由があってのことです。
猫の個性を理解して、寄り添いながら少しずつ距離を縮めるような工夫をしていくことが大切です。そのためには、猫が喜ぶことをしてあげるのも一つの方法です。
猫が抱っこ嫌いなら触られて嬉しいポイントを見つけよう
猫が自分から近づいてきたら、顔まわりを優しくなでたり、こちょこちょとくすぐってあげてください。猫同志のあいさつでは首から上を舐め合うように、猫は顔まわりを触られることを好みます。しつこくやらずに、猫が気持ちよさそうにしている状態でやめてあげるのがポイントです。「好きなところを触ってくれて嬉しい」と猫が思えば、近づいてくる頻度も増え、抱っこのチャンスも増えるかもしれません。
また、膝の上に乗ってきた時にだけ好きなおやつをあげて、「膝の上に乗るとおやつがもらえる」というトレーニングをするなど、猫にとって好ましい環境や状態を作った上で、少しずつ抱っこへと進めていくのもいいでしょう。
抱っこが猫に受け入れられやすいタイミングを逃さない
食事中や遊んでいる最中に抱っこをしようとすると当然嫌がられますが、逆に猫が抱っこをして欲しい時を逃さなければ、上手く抱っこできることが増えるかもしれません。比較的抱っこが受け入れられやすいタイミングはどんな時かを見ていきます。
飼い主が帰宅したタイミング
飼い主が帰宅した時、玄関に出迎えてくれたり、身体を擦り寄せてくるのであれば、その猫は甘えたい気持ちでいることが多いです。顔まわりのくすぐりなどでコミュニケーションを取りながら、少しずつ抱っこへと進めてみるといいでしょう。
猫から寄ってきたタイミング
帰宅時以外でも、猫から飼い主に近づいてくる時は、遊んで欲しい時や構って欲しいサインです。愛猫も心を許して甘えている証拠なので、抱っこが猫に受け入れられやすいタイミングと言えるでしょう。ただし、いきなり抱っすると、それが嫌な印象となり、かえって寄ってきてくれなくなることも。焦らないことが大切です。
寒くて温まりたいタイミング
飼い主の体温で暖をとりたがるなど、冬は特にスキンシップをとりやすい季節です。膝の上に乗って来るようなことがあれば、顔まわりを触るなどし、猫にとってさらに好ましい状況を作り出してあげましょう。膝の上に乗ってこなくても、そばで座って落ち着いている様子があれば飼い主との距離が縮まっている証拠です。
子猫の時から抱っこに慣らしておくことも有効
子猫のうちから人と接する機会が多かったり、抱っこに慣らしておくことで抱っこ好きに育つ場合はあります。
それまで経験がないのに、成長してから抱っこを好きにさせるのはとても時間と根気のいることです。できれば子猫のうちから抱っこの体勢を覚えさせたり、手で触って安心感を持ってもらえるようなコミュニケーションを心がけられるといいでしょう。
ただし、過剰なスキンシップはかえって猫が嫌がるようになってしまいます。猫にとっての安心感を第一に、猫の様子をよく観察しながら距離を縮めていきましょう。
抱き癖がつくかも性格次第
子猫の頃から上手に触れ合えていると、中には「抱き癖」がつく程に抱っこ好きになる子もいます。一方で、子猫の頃から慣れさせようとしても、生まれながらに神経質な子や人にかまってほしくない子もいるため、性格によって抱っこが好きになるかどうかはまちまちです。
猫を抱っこしたまま外に出るのは避けよう
愛猫がどんなに抱っこが好きでも、抱っこをした状態のまま外に出ることはおすすめできません。
猫は自分の生活圏を持っていて、そこを出ることがあると知らない猫の存在もあり、いつもの安心でき居る場所ではないため緊張します。抱っこができるからとその状態で出かけても、テリトリーの外に連れ出された猫は不安な状態に。抱っこを振り解いて脱走したり、そのまま交通事故に遭うなどの危険も考えられます。
動物病院に連れていく際なども、安全確保のためにキャリーやクレートに入れて連れていくようにしましょう。
猫を抱っこする時は性格を考えて徐々に慣れしていこう
飼い主からすると愛猫を抱っこできないのは寂しくもありますが、抱っこが嫌いだからと言って、猫は飼い主のことが嫌いなわけではありません。猫の気持ちを理解し、あくまで愛猫ファーストで接してあげること。また抱っこ嫌いな猫には「抱っこをしない・諦める」という配慮も時には大切です。
まずは「飼い主に近づくと何かいいことがある」という経験を積ませてあげましょう。猫のほうから膝に乗ってくれるようになるなど、愛猫との距離が少しずつ縮まっていくかもしれません。
猫からの信頼を得ることが幸せな猫ライフの基本であることを忘れず、個々に合ったスタイルで、愛猫とのいい関係を築いていきましょう。
(取材・文/酒井彩子)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。