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保護猫を迎えるという選択肢 猫と暮らしたいと思ったら、15年先まで見つめて考える

 猫を迎えたいと思ったら、選択肢に保護猫も入れてみませんか? 当連載では、7回にわたって「保護猫の迎え方」を紹介していきます。第1回は、そもそも保護猫とはどんな猫なのか、また行き場のない猫たちがいるのはなぜなのか、日本の現状についてもふれていきながら、「猫と暮らす」ということを改めて見つめていきます。

保護猫ってどんな猫?

 保護猫とは、さまざまな事情から保護された、行き場のない猫全般を指します。ブリーダー崩壊や多頭飼育崩壊の現場から救助された猫や、何らかの事情で飼育放棄された猫、街などを放浪していて捕獲された元野良猫などが該当します。

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 それでは「保護猫」と聞くと、どういうイメージを思い浮かべるでしょうか。飼い主に捨てられたかわいそうな猫? 子猫、それとも成猫や老猫? 純粋種、それとも雑種? フレンドリーな猫、それともビビりな猫?

 これらはどれも正解と言えます。ひと言で「保護猫」と言っても、年齢や経歴、猫種、体のサイズなど、じつにさまざまな猫がいるからです。性格も1匹1匹違います。

 このことは、ペットショップに並ぶ子猫たちも何ら変わりはありません。同じ猫種の猫であっても、同胎で生まれてきたきょうだいでさえも、おっとりしていたりやんちゃだったりと性格は異なります。保護猫であってもそうでなくても、その子はその子として向き合う必要があるという点では、みな同じなのです。

保護猫が生まれる日本の現状

 保護猫に共通していることは、飼い主のいない、行き場のない猫であるということ。ではなぜ、保護猫が生まれてしまうのでしょうか。現在における猫をとりまく日本の問題にふれながら、同時に何が必要であり大切かを見ていきましょう。

殺処分ゼロと同じぐらい大切な、猫たちのQOL

 保護猫の問題が注目を集めている昨今の風潮もあり、猫の殺処分数がなかなか減っていないような印象を持っている人も多いかもしれません。しかし、じつは日本における猫の殺処分数は、ここ数十年で減少しています。

 環境省の統計によると、2021年度の猫の殺処分数は11,718匹。10年前の10分の1以下、30年前と比べて25分の1以下ほどまで減っています。とはいえ、犬に比べると減少幅は少なく、2,739匹(2021年度)という犬の殺処分数に比べても、かなり多くの猫が今も殺処分されていることは事実です。

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 環境省の動物愛護管理室に「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」が立ち上げられ、殺処分ゼロに向けた取り組みが本格的に始まったのは、2013年のこと。保健所に動物を持ち込んだ人を説得して引き取りを拒否したり、収容された動物の譲渡を促進したりといった取り組みが進められました。

 ただ、「殺処分ゼロ」を達成するために、動物愛護センターに収容し続けたり、民間の保護団体の引き取りを増やしたりした結果、パンク寸前になっている愛護センターや保護団体も存在しています。単に殺処分数が減るだけでなく、生かされた猫たちのQOL(生活の質)が保たれているかどうかを考えることも、大切な視点なのです。

繁殖流通販売システムの問題

 日本で保護猫が生まれてしまうのには、「繁殖流通販売システムの問題」と「野良猫問題」が主な理由としてあげられます。

 まずは、繁殖流通販売システムの問題から考えていきます。

 ある猫種に人気が殺到すると、その子猫をたくさん用意するために、繁殖業者は繁殖用の母猫に頻繁に妊娠・出産をさせたり、遺伝病などを無視した交配をさせたりと、無理な繁殖を繰り返すことになります。その結果、母猫が非人道的な扱いを受けたり、遺伝的に問題のある子猫が産まれたり、母猫から早く離されるなど子猫の生育環境が整っていなかったりといった問題が起こります。

 動物愛護法の2019年改正(一部を除き2020年施行)では、幼齢犬猫販売の56日規制や飼育環境の数値規制など、それまでより厳しい規制が導入されました。それでも、繁殖業者による猫たちへの悪質な繁殖がなくならないのが現実です。

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 また、ペットショップにお客さんが来たときに人気の子猫が店頭に並んでいる状態を保つためには、ある程度子猫の“在庫”を用意しておく必要があります。しかし、売れないまま時間が経つにつれて子猫は大きく成長し、最終的に遺棄されたり、保護活動で利益を得ようとする団体に引き取られ、「保護猫」と称して流通させていくというねじれ(下請け愛護)が生じたりしています。

 さらに、ペットショップだとお金を出せばすぐに子猫を購入できるため、よく考えず衝動買いした結果、猫との暮らしが想像と違っていたり、子猫の健康状態が悪かったりといった理由で飼い主が手放すということも起きています。

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 日本にある繁殖流通販売システムは、多くの人に幸せな猫との暮らしを届ける一方で、繁殖業者が虐待とも言える飼育や繁殖を行ったり、猫たちを世話しきれず崩壊したり、繁殖引退猫や売れ残った子猫が放棄されたり、飼育放棄されたりするという、保護猫の作出に加担する側面を持っているのです。

野良出身の保護猫たち

 繁殖流通システムと別にあるのが、野良猫問題です。都市部では少なくなってきましたが、地方では今でもたくさんの野良猫がいます。

 何も対策をしないと、不妊・去勢をしていない猫は妊娠・出産を繰り返して、どんどん増えてしまいます。2021年度の猫の殺処分数11,718匹のうち、半数以上の7,407匹は、幼齢個体(離乳していない子猫)です。自治体の施設に収容された猫の一部は保護団体に引き出されて保護猫になるものの、すべての猫を引き出して保護することはまだ難しい状況です。

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 そこで、これ以上野良猫や殺処分される子猫を増やさないために、保護団体や個人によって「地域猫活動」も行われています。これは、外にいる野良猫を捕獲して不妊・去勢手術を行い、目印として耳先をカットした後、元いた場所に戻して、ルールに沿って給餌や糞尿の始末といった世話を行う活動で、TNR(Trap=捕獲、Neuter=不妊手術、Return=返還)とも呼ばれています。

 しかし、TNRさえすれば野良猫問題は解決というわけではなく、すべての猫がどこかの家庭に居場所を見つけることがゴールです。

保護猫でも、猫は猫

 殺処分される猫や、シェルターなどで暮らす保護猫を減らすためにできる大きなアクションの一つが、保護猫を家族に迎えることです。「猫を迎えたい」と思ったときには、選択肢の一つとして保護猫を検討してみましょう。

 いろいろな背景のある保護猫は初心者向きではないかというと、そんなことはありません。保護団体がマッチングやアフターケアをしてくれることで安心して猫との暮らしを始められるといったメリットもあります。

 猫と暮らすということは、その子が一生を終えるそのときまで、ともに歩んでいくということです。相手が命ある生き物である以上、楽しいことばかりではなく、世話の大変さや病気、老いなど、困難が立ちはだかることもあります。このことは保護猫であろうが、ペットショップやブリーダーにいる猫であろうが関係なく、すべての猫との暮らしにおいて等しく言えることです。

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「救うため」ではなく、「これから先の10年、15年を、猫とともに生きていきたい」、そんな思いで、ぜひ保護猫を迎えにいってあげてください。家族の希望にぴったり合う子が見つかれば、最高に幸せな猫との暮らしが待っているはずです。

●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西
(取材・文/山賀沙耶)

次回は、「保護猫はどこから迎える?」をお送りします。

(次回は10月27日公開予定です)

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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この連載について
保護猫の迎え方
日本には、さまざまな事情から保護された行き場のない猫たちがいます。猫を家族に迎えたいと思ったら、選択肢に保護猫も入れてみませんか?当連載では、7回にわたって保護猫の迎え方を詳しく紹介していきます。
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