マンションで愛猫が脱走し警察が保護 パニックになった飼い主がとった行動は
「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。今回は、逃げた猫が保護されていることを知った時に気をつけること、猫の脱走に備えてしておくことを、実際に経験した飼い主さんに教えてもらいました。
自宅マンションの窓から脱走
- 【逃げたペットについて】
- 名前:なつ
性別:オス
種類:MIX猫
年齢:当時推定3歳
いなくなった場所:自宅マンション
理由:家族が換気のために開けた窓を閉め忘れて出かけたため
状況:6月の朝9時ごろ
保護までの日数:約 10時間
小林さんの愛猫「なつ」は、3年前、自宅マンションで警察と近隣住民を巻き込む大脱走劇を起こした。6月のある朝、小林さんの夫は換気のために家中の窓を開けた。マンションの共用廊下に面した窓は普段開け閉めしないが、その日は気候が良く、ひさしぶりに開け放った。このとき、1つ目の脱走の原因が作られる。
「夫は、網戸が張られていないほうの窓を開けてしまったことに気づかなかったようです」と小林さん。さらに、出勤前に 全ての窓を閉めたつもりが、この窓だけを閉め忘れてしまったことが、2つ目の脱走の原因となった。
窓を閉め忘れ脱走
- 【いなくなった時にしたこと】
- ・保護されたチラシを発見して管理会社に電話
・保護されている場所の当たりをつけた
なつが脱走したことに小林さんの夫が気づいたのは、仕事から帰宅した午後6時。「なつくんがいない」。電話越しにその言葉を聞いた小林さんは、卒倒しそうになったという。
「あわてて帰宅し、家に駆け込もうとしたら、エントランスの掲示板になつくんの写真が貼ってあるのが目に飛び込んできました。誰かに抱かれ、恐怖におののいているような表情でカメラを見ていて、下には『拾得物:猫 心当たりのある方は申し出てください』の文字が」
大パニックになった小林さんは、夫を連れてエントランスに戻り、管理人が帰宅した後の誰もいない管理人室に向かって「なつくん!なつくん!」と大声で叫んだ。
「冷静に考えればそこになつくんがいるわけないのですが、そのときは考えが及ばず。しばらくしてなつくんはそこにいない、と気づき、管理会社に電話してみたのですが、すでに管理会社の営業時間は終わっていました」
警察署で保護
「なつくんはいったいどこにいるんだろう……」不安とパニックで押しつぶされそうだった小林さんは、写真の中でなつを抱いている人の制服をみて、とっさに「警備会社かもしれない」と考えた。
「マンションの警備をしている会社に連絡してみたら、『猫に関する連絡はないけれどとりあえず行きます』とおっしゃってくれて、担当者が来てくれるのを待っていました。でも、警備会社に電話して話ができたことで少しだけ冷静さを取り戻して 、掲示してあった写真をいま一度よくみてみたら、『警備会社ではなく警察官の制服だ!』と気づいたんですよ」
小林さんは三度スマホを取り、最寄りの警察署に電話をかけた。
「○○マンションのものですが、グレーの猫が行ってませんか!?」
ドキドキしながら矢継ぎ早に話すと、電話口から「います!来てます猫!!!ハンコ持って、すぐに迎えにきてください!」という返答があった。
「慌てて迎えに行く道中、警備会社から『どこにいますか?』と電話がありました。焦りすぎていて、警備会社への連絡を忘れてしまっていたんです。状況を説明して謝罪し、引き取っていただきました。なつくんに何かあったらと思うととても冷静ではいられず、おかしな行動ばかりでしたね」
小林さんが警察署に到着すると、なつを連れ帰るための書類処理が待っていた。
「『遺失物の届け出』と『引き取り』についての2種類の書類が必要でした。『1秒でも早く家に連れて帰ってあげようね』と、警察官のみなさんが書類処理がスムーズに終わるように準備してくださっていて、あたたかい気持ちになりました」
こうして、脱走からおよそ10時間後の19時半ごろ、小林さんは無事になつを連れて帰った。
住人を巻き込んで捕獲
なつがどのように保護され、警察署行きとなったのか。小林さんは、後日、マンションの住人と管理人の話からその経緯を知ることになる。
「なつくんを発見したのは、マンションの共用部分を掃除していた管理会社のスタッフの方でした。発見されたのは、うちから 三軒となりの106号室の窓枠。なつくんは窓枠についた柵と 窓の間に挟まった状態でたたずんでいたそうなんです……」
掃除スタッフから猫がいることを知らされた 管理人は、マンションで飼われているペットの管理簿を確認してみたが、現在飼育されている猫の中にはなつと同じ特徴の猫が記録されていない。それもそのはず、小林さん夫婦はなつを迎えた際、マンションにペットの登録申請を行っていなかったのだ。
「もともとこのマンションは独身時代に夫が犬と暮らしていたのですが、その犬が亡くなってから特に手続きをしなかったので、犬がいる状態のまま登録されていたんです」と小林さん。
「本来ならば飼っているペットの種類や頭数、写真を届け出る必要があったのですが、『ペットがいる』ということを申告すればいいと思い込んでいたんです。登録していればなつくんが逃げた時すぐにうちに連絡が来たはずなので、飼うときにきちんと確認しておくべきでした」
猫の扱いに慣れていない管理人は、マンション内で猫を飼って いる別の部屋の住人に連絡し、住人の助言を受けて警察に取得物の連絡を入れた。パトカー2台、警察官5人がマンションに訪れる騒ぎに、106号室の住人が「何事か?」と窓を開けた瞬間、なつはするりと部屋の中に入っていったという。
106号室の家族は猫を飼ったことがないにもかかわらず、大声を出して騒ぎ立てたりせず、警察に保護されるまでなつをそっと受け入れてくれた。しかし、警察がなつを保護しようとした際に網戸にへばりついたことで、106号室の網戸には穴が開いてしまったという。
こうしてなつは小林さん夫婦の知らぬ間に、住居侵入の現行犯で警察署に連行され、留置所行きとなっていた。
いざという時に備え
- 【脱走後の教訓】
- ・日頃から家族で脱走対策について話し合う
・慌てず冷静に行動するのは難しい。冷静になれないこと を前提にして、警察署や管理会社の番号を電話帳に登録するなどしておく
警察署で出された水とごはんにまったく手をつけなかったというなつは、帰宅するとたくさん水を飲みごはんを食べた。なつはおっとりした性格だが、たくさんの大人に囲まれ、パトカーで見知らぬ場所に連れて行かれたのはさすがにこたえたようだ。食事を終えると、なかよしの兄妹猫、ゆずを抱きしめて、長い長いグルーミングをしていたという。
「ゆずちゃんは、おとなしくグルーミングされつつも、ときどき『シャー!』と激しくなつくんを威嚇していました。ふだん2匹は仲良しでそんなこと一度もなかったので、開いた窓からゆずちゃんが出て行かなかったことを考えても、そうとうなつくんを止めたんだと思います。言うことを聞かずに外に出たなつくんに対して、怒りがおさまらなかったみたい」
なつの脱走事件が本猫やゆず以上にトラウマになったのは、実は小林さんだ。
「あれ以来、家に帰って呼んで、出てこない日はまた脱走したんじゃないかとすぐに考えるようになって、しばらくは胃が痛かったです。今回のことは間違いなく人間の責任。ペットの脱走は家族の中でひとりだけが気をつけていても防げません。家のルールをしっかり作って、お互いに確認し合わないといけませんね」
小林さんは今回の事件で、いざという時に冷静になるのがいかに難しいかを実感した。
「警察署や管理会社に電話するときも、手が震えて電話番号の検索すらできなかった……。日頃から有事に備えて電話番号を登録しておいたり、連絡する順番を決めておいたりしなくちゃなと感じました」
- 【脱走に備えてやっておくべきこと】
- ・住んでいる物件にペット登録をしておく。状況が変わったら更新する
・近隣で猫を飼っている人同士のつながりをつくっておく
脱走事件で得た教訓や読者に知ってほしいことを聞くと、小林さんはこう答える。
「今回のようにペットが逃げたとき、どこの子なのかがわかる人が捕獲する場にいたら、より確実に、スムーズにおうちに帰れると思います。ペット可マンションであれば、ペットを申請しておくことはもちろん、いざという時のためにペットを飼っている人同士がつながっておく互助会のようなものがあれば安心だなと思いました。私の場合は、なつの脱走をきっかけに、管理人さんに警察へ連絡するようアドバイスしてくれた上の階の方とつながり、お互いの留守の際に猫のお世話を頼める仲になったんですよ」
さらに小林さんは、自身が加入している保険 について教えてくれた。
「なつくんが穴を開けた106号室の網戸は、私が加入していた個人賠償責任保険で張り替えることができました。個人賠償責任 の保険は人間の保険のオプションでつけられることが多いのですが、ペットを飼っている方はぜひ入っておくのがおすすめです。条件にもよりますが、多くの場合は脱走したペットが破損した他人の所有物やけがをさせた人の治療費にも使えるんですよ」
個人賠償責任保険がペットによる破損にも対応するケースがあることを知っている人は少ないはず。猫だけでなく、脱走時の犬が器物を損壊するケースなども考えて、いざという時のために検討しておくのはいいことだ。
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