ネコが障害物をよけてスタスタ歩けるのはなぜ? 「2つの記憶力」がカギだった

ネコのイラスト
愛猫で一度はやってみたいドミノ・チャレンジ!

 ネコの運動神経のよさに驚かされたことはありますか? 例えば、床にドミノを並べた状態で1つのピースも倒すことなくスタスタ歩く様子はSNSの動画などでもよくみかけます。なぜほとんどのネコは1つのピースも倒すことなく歩けるのでしょうか。今回は、ネコの障害物をよける能力を調べた論文“Long-Lasting Memories of Obstacles Guide Leg Movements in the Walking Cat”を紹介します。

障害物を避けて歩くには?

 私たちヒトは、目的の場所に向かって歩いているときに邪魔なもの(障害物)があれば、ぶつかることなく避けて歩くことができます。ネコも同じように障害物をさけることができるといわれています。しかし、どのように障害物を認識しさけているかについては調査されていませんでした。

 そこで、カナダ・アルバータ大学の研究チームは、ネコが障害物を乗り越えることができる記憶“obstacle memory”について調べることにしました。対象となったのは2匹のネコです。一つ目の調査では、前脚で3.2~7cmの板のような障害物をまたぎ、その途中でご飯をあげます。ご飯を食べている途中で障害物を取り除き、後ろ脚がどのように動くのかを調べました。二つ目の調査では、障害物を2つに増やして調べました。

ネコの驚くべき記憶力

 調査の結果、ネコは最初に障害物を前脚でまたいでから3分以上経った後でも、後ろ脚を障害物より高く持ち上げて歩きました。前脚でまたいだ後すぐ、障害物がなくなっていたにもかかわらずです。つまり、前脚で障害物をまたいだ記憶がそのまま継続し、後ろ脚に障害物があたらないように高く持ち上げていたのです。この動作は、なんと最大10分も継続した回もあったとか。また二つ目の調査の、2つの障害物があった場合も同じ結果でした。

ネコのイラスト
実験の図をもとに作成した障害物がある時(緑)とない時(青)の後ろ脚の動き

 ネコはご飯をたべる際に後ろ脚を曲げて座ってしまうことも多いですよね。そのため実験は多くが失敗してしまいました。最大10分は記憶が継続されることがわかりましたが、もしかするともっと長く続く可能性も考えられます。

 ネコは目で見た障害物の視覚情報の記憶と、運動記憶とよばれる体が覚えている記憶の2つの記憶力をもっているそうです。この2つの記憶を組み合わせることで、ドミノのような障害物をするりと歩けてしまうようです。ただ、この能力がどのような意味をもつのか、そして脳や神経とどのように連動しているのかはまだ明らかになっていません。今後、このネコの能力が記憶や運動との研究に大きく寄与するのではないかと期待されます。

黒猫
愛猫スカイの美しいキャットウォーク

今回ご紹介した論文
" Long-Lasting Memories of Obstacles Guide Leg Movements in the Walking Cat"

イラスト:長崎訓子(ながさき・くにこ)

【前の回】ネコはどんな時にゴロゴロとのどを鳴らす? ゴロゴロ音にも違いがある!?

服部 円
編集者・研究者。武蔵野美術大学卒業後、ファッション誌の編集者を経てフリーランスに。 2011年にWEBメディア「ilove.cat」を立ち上げる。2021年、麻布大学で修士号(動物応用科学)を取得。現在は京都大学野生動物研究センターの博士後期課程に在籍し、ネコとヒトとの関係について研究を行っている。Instagram @madokahattori

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この連載について
ネコ研究最前線
京都大学野生動物研究センターに在籍中の著者が、ネコにまつわる最新の論文を紹介しながら、ネコ研究の面白さを伝えていきます。
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