「う〜ん、そこだな凝ってるの。先生なかなか上手だね」(小林写函撮影)
「う〜ん、そこだな凝ってるの。先生なかなか上手だね」(小林写函撮影)

すっかり家猫らしくなった元野良猫「はち」 実はストレスに弱いと知った夏のできごと

 元野良猫「はち」を家に迎えてから半年が経ち、夏になった。外ではセミが激しく鳴き、強い日差しが照りつけている。はちはリビングのフローリングの床の上にひっくり返り、“大の字”になってくつろいでいる。

(末尾に写真特集があります)

はち、はじめてのペットホテルへ

 夜鳴きや朝鳴き、頻尿はおさまり、はちの表情や行動はすっかり家猫らしくなった。食欲旺盛で快食快便。決して痩せてはいなかったのがここ数カ月でさらに丸くなり、動物病院では「体重が増加傾向にあるので気をつけるように」と注意された。

 よく寝てよく遊ぶはちは、ベランダに出たがることもあった。だが外の空気に触れれば満足なようで、出してもすぐに部屋の中に戻ってくる。

 相変わらず寝るのは1人だが、ツレアイや私の膝にはときどきのってくる。

 こうして、はちにとって私たちとの暮らしが日常になったと思われた頃、ツレアイと私は2泊3日の旅行にでかけることにした。

「このテーブル、狭いな」(小林写函撮影)

 留守の間、はちはかかりつけの動物病院のペットホテルに預けることにした。

 先代猫「ぽんた」のときは、いつもそうしていたからだ。ぽんたは、慢性腎臓病という持病があり、投薬の必要もあったため、何かあったときに安心だと考えていた。

 はちは健康だし、人見知りもしないので、親戚や知人に食事の時間にだけ来てもらうか、ペットシッターに頼むこともできそうだった。だが、信頼できるあてがなかったし、今回は短期なので、病院にお願いすることにした。

大丈夫だろう、との思い

 ぽんたは「おとまり」の間は大変いい子で、食事も排泄も問題なく、くつろいだ様子だったと聞いた。はちも、病院の診察台にのせると最初は嫌がって逃げようとするが、最終的にはおとなしくされるがままになる。先生や動物看護師さんを威嚇(いかく)したり攻撃することはなく、緊張して硬直することもなかった。

 だから「おとまり」も無事クリアできそうな気がした。

 旅行に出かける日、キャリーバックに入れたはちを馴染みの看護師さんに手渡す。ペットホテル用のケージは空いているので、中の仕切りをはずし、2つつなげて広いスペースを確保してくれるとのことだった。

「みんな会社や学校に出かけてく。楽しそうだな」(小林写函撮影)

 旅行中、私は特に電話をかけて様子をたずねることはしない。もし何かあったら病院で対応してくれるだろうし、よほどのことがあれば、携帯に連絡が入るからだ。

 楽しく旅行を終えて迎えに行き、受付で、はちは元気にしていましたかとたずねた。

 すると、「とても元気なんですけど、院長先生から少しお話がありますので」と看護師さんから告げられた。

暴れて鳴いていたはち

 通常、お迎えのときに先生と対面することはない。胸がざわつく。

 待合室のソファに座っていると診察室のドアが開き、はちを抱っこした院長先生が「どうぞお入りください」と言いながら現れた。先生はにこやかで、はちもいつもと変わらない表情だ。

「はっちゃん、元気すぎちゃって……。外に出たがって、ケージの柵を前脚でガリガリ掻き続けて、爪の生え際を傷つけてしまったんです。消毒液を塗って化膿しないようにしていました」

 診察台の上ではちの脚を見せてもらうと、出血の跡があった。

 滞在中はずっとニャーニャー鳴き、ケージの中で暴れていたそうだ。後半になると諦めたのか、少しは落ち着いたが、それでも鳴き続けていた、とのこと。

 ご飯はしっかり食べて水も飲み、排泄もきちんとしていたが、「それでもストレスがかかることには違いないので、どうしてもやむを得ない場合を除いて、はっちゃんをペットホテルに預けることはおすすめできないですね」と先生は言った。

「虫よけのゼラニウム、いい香りだな」(小林写函撮影)

 会計を待っている間もずっとキャリーの中で鳴いていたはちは、ツレアイの運転する車に乗せると、ピタリと鳴きやんだ。

 帰宅し、ケージの扉を開けると一目散に私の部屋に向かい、クローゼットにもぐった。しばらくするとリビングに出てきて床に転がり、ツレアイの足に顔や尻尾をこすりつけた。

 ツレアイにはちを押さえてもらい、病院でもらった消毒液を傷口に塗る。はちはからだをくねらせて抵抗するので、なかなかうまく付着できない。それでも、しないよりはましだろう、という程度の処置はできた。

「ごめんね、こんなことになっちゃって」と謝ると、はちはツレアイと私にごつんごつんと何度も頭突きをしてきた。それは、いつもより執拗で、私たちは、はちが満足するまで背中をなで続けた。

 その2日後、はちは体調を崩した。くしゃみと鼻水が止まらなくなり、一時は元気も食欲もなくなったので気を揉んだが、処方してもらった抗ウィルス剤が効いて1週間後には快復した。

 はちは、屈託がなさそうに見えて、実はストレスに弱い。それを実感した、夏のできごとだった。

(次回は11月18日公開予定です)

【前の回】家猫として安定してきた元野良猫「はち」 唯一残った困りごとは“かみ癖”だった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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