災害への備え、飼い主ができること Do One Goodの高橋さんに聞く
保護犬や保護猫の譲渡会を運営する一般社団法人「Do One Good」(東京都)は、2011年の東日本大震災以降、様々な被災地で飼い主を支援してきました。これまでにどのような活動を行ってきたのか、そして飼い主は災害にどう備えられるのか。代表理事の高橋一聡さんに伺いました。
――東日本大震災では、どのような活動をされたのですか?
震災後、団体としてペットフードやペットシーツをトラックに積んで被災地に向かい、物資を届けながら情報を集めました。3、4回目ぐらいで、犬や猫と避難した人たちを支援していこうと決めました。
その後の活動の大きな転機となったのは、宮城県七ケ浜町の避難所での出来事でした。震災から約3週間後、ドッグフードを持って七ケ浜町に行くと、珍しくペットと一緒に入れる避難所がありました。そこに避難していた方が、生まれて間もないダックスフントを6匹ぐらい連れていたのです。この子たちが母犬のおなかにいるときに震災が起きて、おなかの大きな母犬と一緒に避難したそうです。
僕はそのとき、「この子犬たちは、一体何を食べているんだろう?」と思いました。避難所にはフードが配布され、自由に持って行けるようになっていましたが、この子犬たちはあのフードは食べられない。飼い主さんに話を聞いたら「子犬たちに食べさせるものがなくて困っている」と不安がっていました。そこで「ちょっと待っていてほしい」と伝えて一度東京に帰り、数日後に必要なフードを届けました。
被災地を支援する側は、あれもこれも必要かなと思って物資をかき集めますが、被災地では並べられているだけで使われないこともある。そして一定の数がそろわないと公平性が保てず配られない、ということも出てきてしまいます。
でも必要な物資を必要な人に届ければ、無駄を抑えられる。それに、例えば1カ月分の必要な物資を届ければ、1カ月は大丈夫だとわかります。一市民団体として、知り合いに物を届けることの延長をやろうと思いました。
そこで、避難所や被災者住宅を回ったり、被災地を車で走って、犬の散歩をしている人に声をかけたり、庭に犬がいる家を尋ねたりして、今のドッグフードに満足しているか、どんなフードを食べていたかを尋ね、名簿を作りました。銘柄が分からない方もいるので、こちらでフードのカタログを用意して、飼い主さんから話を聞き、どの銘柄か調べました。
ペットフードの販売などを手がける都内の企業の協力を得てフードを調達し、約3年半にわたり40数回、福島と宮城を中心に飼い主さんに届けました。届け先のリストは300件ぐらいあったと思います。マイクロバスにフードを積み、保護活動をしている人や東北に思いを寄せる人も乗り込み、通い続けました。飼い主さんは引っ越すなどして、どんどんリストの件数が減っていったので、3年半でいったん打ち切りにしました。
――その後、熊本地震や西日本豪雨でも、支援をされたそうですね。
2016年の熊本地震の時は、僕がすぐに現地へ行きました。避難所となった熊本県益城町総合運動公園で行われたのが、避難所に入った人たちの犬や猫を預かる施設を作ることでした。プレハブハウスを3基設置して、プレハブの前にはフェンスで囲んだドッグランもありました。僕はこの施設の運営を支援しました。
ペットホテルを運営した経験があるので、動物の管理に必要な書類などをすべて提供しました。僕が作った書類の特徴は、動物たちが何を食べて、どこで寝ていたのか、何が好きなのかを、預かり時に飼い主に聞いていくことでした。そして動物にとって、今この施設でできる最高の生活の仕方を、どう実現させられるか、飼い主さんと一緒に考えました。
それまでどう生活してきたのかがとても大事で、それがそれぞれの被災者の基準になります。災害が起きて生活環境が縛られたときに、どこまで達成できるか。例えば、普段からクレートトレーニングをしていて、クレートが動物にとって好きな場所だったら、避難所の預かり施設での生活も楽だと思います。ネガティブな状況になったときに、どこまで耐えられるかを考えて、今のライフスタイルをちょっと変えることも、備えの一つかなと思っています。
2018年の西日本豪雨では、他団体と協力して、被災者が飼っている動物を日中だけ預かる施設をつくりました。トレーラーハウスを2基用意して、1基は犬用、もう1基は猫用の預かり施設にしました。
避難している方は、日中に自宅を片付けたり、役所に届けを出したりしなくてはなりません。すると動物だけを残すことは難しいので、預かってくれるところが必要になります。日中だけの預かりを、3、4カ月やりました。
いろいろな考え方がありますが、昼間だけ犬や猫を預かってくれれば何とかなるならば、動物と飼い主が離れない方がいいというのが僕の考えです。よく自助、共助、公助といわれますが、そうした状況を自助や共助で作れるのだったら、作っておく方がいい。災害なので備えていてもできないことも当然ありますので、そのときは保護団体や動物病院などを頼る方法があります。
――飼い主は災害にどう備えることができるのでしょう。
一番大事なのは自助です。自分でどうにか出来るならそれが理想ですが、災害は何が起こるか分からず、用意したものを持ち出せないこともある。ですので、自助の次にあるのが共助だと思います。譲り合ったり、協定を結んでおいて助け合ったりとか。ペットのための公助はなかなか難しいから、そこだけでも自助や共助で完結できることを、自分なりに考えるといいと思います。
キャンプや旅行を計画してみるのも、僕は災害の備えだと思います。電気がない、トイレがないときにどうやって補うのか、犬のフードが簡単には買えないときにどうするのか。どうやって手に入れるか考えるやり方もあるし、フード以外に食べられるものをどう増やすかという考え方もある。災害に置き換えるよりも、いま情報がたくさんある旅行やキャンプに置き換えて、まずは計画するというのが一つの訓練だと思います。
実際には行かなくてもいいんです。キャンプが好きな人と、キャンプってどうやるの?何が必要なの?と話をするだけでも、これは自助、共助です。人とコミュニケーションをとって、キャンプや旅行について考えることができるようになると、災害時に必ず役に立ちますよ。情報のかき集め方一つを取ってみても、1人じゃ解決しないですから。みんなにやってほしいのは、そこかなと思います。
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