24年ぶりの猫との暮らし 迎えたのは仲良しの白黒猫2匹「やはり心が和む」
若い頃に別れた先代猫への思いを大事にしてきた男性が、24年ぶりに、2匹の猫と暮らすことになりました。迷い、考えた末に、ようやく迎えようと決めたのです。久しぶりの猫との生活の様子や、心境について聞いてみました。
24年ぶりの猫との暮らし
システムエンジニアのM男さんと妻のY子さんが暮らす埼玉県の家に黒白の兄弟猫がやってきたのは、2020年3月初旬だった。Y子さんにとっては初めて、M男さんにとっては24年ぶりの猫との生活だ。
「やはり心が和み、癒やされますね。4月末で“ふたり”は3歳になりました。仲がよいんですよ」
M男さんがほほ笑みながら、愛猫ハルとミールを紹介してくれた。ハルはハチ割れで鼻先がピンク、ミールはマスク顔で鼻先は黒。きれいなまるい目が兄弟でよく似ている。
16年前に結婚して以来、「いつか猫と暮らしたいね」とY子さんは話していたが、M男さんが「今ではないかな」とちゅうちょしていたため、猫との同居はなかなか実現しなかった。ところが2019年の秋ごろからY子さんが保護猫の情報をリサーチし始めて、M男さんの気持ちも少し変わってきた。
「当時だいぶ僕の仕事が忙しくて心に余裕がない時期だったので、メンタルを心配してくれて、飼うことを望んだのかな……。妻は様々な保護主さんのブログを見ていて、どんな猫をというより、どんな方から譲ってもらうのがいいかを考えたようです」
Y子さんの目に留まったのは、埼玉県の自宅兼シェルターで猫の保護や譲渡活動をする個人ボランティアIさんのブログだった。
「地道に保護活動をされているIさんの様子やお人柄に妻が感銘を受けました。そのIさんが譲渡会をやっていることを知り、『気になる子はいる?』と妻に聞かれて。それでブログをのぞくと、『あっ』と思う猫がいました。それがハル(当時の名はかいせい)でした」
ハルは、公園で保護された5匹兄弟のうちの1匹だった。11月末に、夫婦で初めて譲渡会に出向いてみた。
2度目の譲渡会で待っていてくれた
「うちは共稼ぎなので、留守番できる年齢で、寂しくないように2匹を希望しました。その時ハルは推定7カ月。『ハル君と仲良しの子は誰ですか』とIさんに尋ねたら、ミール(当時グラ)を紹介されました。でも2匹とも、タオルの下に潜ってしまって(笑)」
その時に、ハル君に「ハンデがある」ことをIさんから聞いた。原因不明の足腰のふらつきで、高い所に乗れないという。M男さんは、「うちにくることが本当に幸せか」と悩み、決められなかった。だが他の譲渡会に出かけても、いい縁に巡りあえないでいた。
翌年1月に再びIさんが譲渡会を開いたので、出かけてみると、ハルとミールはまるで待っていてくれたように、夫婦を歓待したそうだ。
「ふたりとも隠れるどころか目をキラキラさせてこちらを見て、もう僕は釘付け!妻に自分の考え(この子たちがいいということ)を伝えると、妻も同じ考えで……。『本当に大丈夫かな』と念を押してみると、『今決めなかったら、この子たちには一生会えないから』と妻が答えたので、はっきり心が決まりました」
ハル君の足のふらつきについては、事前にIさんに相談と確認をしたという。
「シェルターにお邪魔して、それまでの生活の様子を見せてもらったんです。使っているトイレや、トイレに入りやすい階段の工夫なども教えていただきました」
夫婦で部屋の使い方も話し合った。じつはY子さんには猫に対してのアレルギーが少しあったため、「寝室はNG」ということにした。その代わり、猫たち専用の部屋を用意し、自由に過ごしてもらうことにした。心も環境もしっかりと準備して、迎えたのだ。だが不思議なことに(他の猫にはアレルギーが出るのに)、Y子さんはハルとミールに対してはまったく症状が出なかったという。
猫も人も変わっていく
猫たちは迎えた日から家になじんだという。
「すぐに遊び、ごはんを食べて、トイレもしました。Iさんはハルのことを『ハンデはあるけど手のかからないイケニャン』とおっしゃっていましたが、まさにその通りで(笑)。足の悪いのは個性ですし、気になることも困ることも、ありませんでした」
2匹のキャラは若干違い、ハルはおおらかで直線的。甘えたい時は体ごとぶつかってくるが、抱っこはさほど好きではない。ミールは遠慮がちだが、甘えん坊で、抱っこが好き。
「ミールは気を遣う子で、ハルが遊んでいると我慢する大人な面もある。ハルの体のことを知っているのかわからないけれど、ハルを優先させてあげるところがあるんです」
3、4カ月もすると、2匹に変化がでてきた。甘え方が一段、上がったのだ。たとえば、M男さんやY子さんが座っている時に足の間に来たり、体の上に乗ってきたり。
「猫部屋にはソファベッドを置いていて、そこで僕が仮眠することもあるのですが、布団に入ってくるようになりました。ミールはごろんと、へそ天もするようになって。それを見た時に、ああ、本当にうちの子になってくれたんだ、とうれしかったですね」
猫たちが来て、夫婦にも変化が起きた。
「まず早起きになりました(笑)。食事の世話、トイレの片付け。掃除や洗濯など猫のために動くことが増えたと同時に、夫婦の会話も、一緒に過ごす時間も増えたと思います」
現在はM男さんもY子さんも在宅で仕事をしている。M男さんはY子さんの仕事に合わせて昼休みにし、ごはんを食べて、猫部屋に来て一緒に過ごす。そして時間になるとまたそれぞれ別の部屋で仕事をし、夜ごはんを食べた後は、寝るまでまた猫部屋で過ごす。
「そういえば趣味の旅行に行かなくなりましたね。結婚してから、夫婦で年2回は旅行に行っていましたが、今は猫を家に置いて出かけたくないので(笑)」
心にいるベルのこと
とても好きなのに、M男さんが猫のいない生活を続けていたのにはいくつか理由があった。そのひとつが、昔、飼っていた雌猫のこと。心のどこかで気になっていたのだ。
「僕が中学1年生になる時に、生後3カ月で家にきたベルという子がいました。ペルシャのクオーターでもらい手がなく、兄が知人からもらって実家に連れてきたんです。僕にとって初めての猫でしたが……いちばんの友だちであり、妹でもあり、大好きでした。いわゆるツンデレですが、時々ひざに乗ってくる。それがまた可愛くて可愛くて」
M男さんは20代になって一人暮らしをしても、ベルに会うのを目的に実家に帰った。しかし仕事が忙しく、なかなか会えなくなる中、ベルもだんだんと年をとっていった。
まだスマホもない時期だ。ある晩、残業しようと思ってごはんを食べた後、M男さんはなぜかふと「帰りたい」と思った。そして残業をせずまっすぐに自分の部屋に戻ると、留守電に「ベルが亡くなった」と母からのメッセージが入っていたのだという……。
「忘れもしない1996年11月7日。16歳でした。1カ月くらい前から食欲が減っていたんですけどね……その晩すぐベルに会いに行きお別れをしました。男泣きしましたね」
その日からハルとミールを迎えるまで、とてつもなく長い時間がかかった。
「多感な時期から一緒だったし、他の子を飼う気にならなかったというか、ベルを裏切る気もして……。その思いを超えることが、なかなかできないでいたのかもしれません」
そんなM男さんの背中を押したのが、Y子さんと、譲渡会場でまっすぐにM男さんを見つめたハルとミールだったのだ。
「それまで自分にとって一番大事な猫がベルでした。今はベルと同じように、ハルとミールが、大事な存在です。大切な存在が増えるって、素敵なことですね」
パパとママをよろしく
ハルとミールを迎えて、「本当によかった」とM男さんはあらためていう。
「ふたりのお陰でコロナによる在宅も苦にならないし、何かを頑張ろうという原動力になってくれている。保護猫を助けるなんて大それた考えは元々なかったけれど、いざ迎えてみると、逆に僕たちが助けられている……猫は幸せだけをくれますからね」
まだ若いハルとミールに望むのは、もちろん「いつまでも元気で、長生きをしてほしい」ということだ。
「僕たちは家族なので、どんなに迷惑をかけてくれても、お世話に手間がかかったとしてもいいんです……もちろんいつかはお別れがくると思うし、その時にはたくさん後悔もすると思うけど、それまで、家族4人でずーっと楽しく暮らしたいですね」
M男さんはハルとミールに向かって、優しい口調でこう話しかけた、
「パパのママのことを、これからもどうぞよろしく!」
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