猫「オハナ」へ、僕らは心がつながっている 〈お手紙コンテスト入賞〉

猫
オハナ

 sippoが主催した「みんなイヌみんなネコお手紙コンテスト」から、グランプリを受賞した作品をご紹介します。

猫:オハナ
飼い主さん:とっくん

 オハナへ

 いつもそばにいてくれてありがとう。

 「オハナ」という猫は君で二代目だ。今から12年前、ペットショップで見つけた猫に「黒っぽいからオハギにしよう」とおやじが言ってさ。それに猛反対した妹が「オハギにするくらいなら、オハナの方がいい」って言ったんだ。 すごくすごく可愛い猫だったよ。庭に咲いたローズマリーが大好きでさ。よくその周りを走ってたよ。カモミールの白い花も大好きだったかな。「オハナ」って名前にピッタリだったよ。

 だけど10年前。あの震災で初代オハナは死んだんだ。高台に避難したおやじも家に残したオハナを思い出し、僕が止めるのを振り切って自宅へ戻った。そのまま10年経った今も、おやじの行方は分かっていない。おやじを探しに行った妹も。

 あれから僕はひとりぼっちになった。どれだけ後悔したかわからない。自分がオハナを助けに行ってたらって、何度も思った。だけどいくら悔やんでも、この世に家族はもういない。いないんだ。そんな事実がどうしようもなくここにある。だけど僕は君に出会った。

 駅前のペットショップで初めて君に会ったとき、君は隅っこで震えていた。聞けば君は母親にいじめられていたんだね。君はそれ以来『人間不信』になってしまったんだ。母親と離れ、他の猫たちといても、心はいつもひとりぼっち。そんな君の家族になりたいと心から思ったよ。

 だけどウチに来ても君はずっとおびえていた。僕を『母親』だと思ったのだろうか。いつも伏し目がちで遠くから僕を見る。ぶたれるんじゃないか。そんなことを考えているような目つきだった。

 だからしばらくは食事も別にした。「ごはんだぞ」って言っても君はすぐには来ない。僕がいなくなったのを見計らって食べに来る。散歩に行くときもそう。いつだって僕のだいぶ後ろを歩く。僕が止まると止まるし。ペースを落とすと君もそうする。それを見て何だか寂しかったよ。心の距離がひらいてるみたいでさ。

 でも事件が起きたんだ。真夜中にカタカタと食器棚が揺れる音。地震だった。それはもう怖かった。家具が揺れて、逃げる気持ちまでも大きく揺れる。いまここを出ても大丈夫だろうか。すぐにまた大きな揺れが来るのではないか。そんなことを考えて僕は何もできなかった。

 すると君が飛びついてきたんだ。いつも遠くから僕を見ていた君が。僕は君を抱きしめたよ。いいか。僕がいるから大丈夫だよ。僕がいるから心配するなって。君はブルブル震えながら、僕の腕の中にうずくまった。こんなにくっついたのは初めてだった。こんなに懐かれたのも。

 もしかしたらおやじもオハナを助けに行って、同じことをしてたんじゃないかな。津波に飲み込まれてもオハナを抱いていたような気がする。もちろん僕らは血がつながってないよ。所詮、人間とペットさ。会話だってできないし、言葉も通じないよ。でも君が僕に飛びついてきた時、僕らはちゃんと心がつながってるんだって思った。君が「助けて」と強く思うように、僕も「助けたい」って強く思ったんだ。

 あの日以来、僕らは変わった。僕が布団の中で泣いていると君も布団に潜り込む。TVを見て笑っていると君も興奮する。笑顔も、涙も、分かち合える。そんな存在ができて、今は、少しだけ前を向ける気がするんだ。

 最後に。君の名前、オハギにしなくてよかったよ。だってオハナはハワイの言葉で、家族。これからも家族の一員として、よろしくね。

◆「お手紙コンテスト」の受賞作は、こちらのページからもご覧いただけます。

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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