怖がりな元野良猫と仲良くなるまでを描いた絵本 気長に待ち続け、今は一緒に布団にも

絵本
「うちのねこ」より(アリス館提供)

 最初は近づくこともできず、「一生仲良くできないかもしれない」と思った元野良の大人の猫が、いつしかひざにのったり布団に入ったり……。攻撃的な猫が変わりゆくさまを描いた絵本『うちのねこ』(アリス館)が発売されました。登場するのは作者の高橋和枝さんの愛猫で、ご自身の体験がつづられています。猫のことや絵本に込めた思いを聞きました。

(末尾に写真特集があります)

一晩悩んで決めた猫

――絵本のモデルとなった猫の名前や、家に迎えたいきさつを教えていただけますか。

「シノビという名です。5年前の4月にイラストレーターの坂本千明さんから、共通の友人を介して『2歳のオス猫をひきとらないか?』という連絡が入りました。『最近まで野良だったけど、今は人なれ訓練中の猫だ』と。私は長年一緒に暮らした猫を3月に看取ったばかりだったので、最初は“今はまだ無理”と思ったのですが、一晩考えて、気持ちが変わりました。猫はいずれまた迎えたいと思っていましたし、できれば自然な縁で来てもらうのが一番だと考えていたので、これは願ってもないチャンスなのかもしれないと思いました」

――家に来てすぐに隠れて、1カ月して出てきたらシャーッ!かみついたり、ひっかいたり、一筋縄ではいかない様子が描かれています。くじけませんでしたか。

「ピリピリするシノビに対してびくびくして、『疲れたなー』と思うことはありました。絵本の中で顔をひっかかれていますが、あれは実際にあったことで、顔から大量に血が流れました。その時は本当に悲しくなったし、『私はこんなに気をつかっているのに』と怒りもおぼえました。でもその一方で、シノビは最初からけっこう愛嬌(あいきょう)があって、行動が抜けていて面白くて可愛かったし、隠れるのをやめてからはできること(家猫として暮らすにあたって)が日ごとに増えていくのがわかりました。布団に入ってくれるまでになるとは思わなかったけど、気長に待てばある程度は仲良くなれるだろうと、わりとすぐに思いました」

猫の絵本
「うちのねこ」より(アリス館提供)

ふわふわな毛を水墨画で表現

――じっとこちらを見つめる目の表情や、ふわふわした毛の質感がとてもリアルです。猫を描く上で気を配ったり、こだわったことなどありますか?

「読んだ人が、本当に猫を目に前にした時のように『近寄ってみたい』とか『あの背中に触ってみたい』と思ってもらえるような絵本にしたいと思って描きました。そのために、ふわふわの毛並みは重要だなと思って、それを表現したくて、初めて水墨画に挑戦してみました」

――描く時にシノビちゃんをよく観察されていたのでしょうか?

「スケッチをしたり写真を撮ったりしてポーズはかなり考えましたが、生き生きとした勢いのある線を描きたいと思っていたので、本描きでは、ラフの時点で決めていたポーズにはあまりこだわらないようにして、とにかくたくさん描きました。その中から『よく描けたな』と思ったポーズを採用しました」

女性と猫
絵本のモデルとなったシノビちゃんと見つめあう高橋さん。絵とリンクします……(高橋さん提供)

――絵本の中で、猫が変化する様子は感動的です。実際にシノビちゃんとの距離が近づいた時のエピソードを教えてください。

「私にお尻を向けて座るようになってしばらくたったある時、私の足の親指の上にお尻を乗せて座ったことがありました。自分のお尻の大きさをわかっていなくて、目測をあやまってつい私に近づきすぎて、間違ってお尻がわたしの親指に乗ってしまった……とでもいうように(笑)。それはものすごく可愛くて、『近づいていないよ』って顔をしながら実は近づいてくれているのかな?という感じがして、とてもうれしかったです」

こわがらないで大丈夫だよ

――この絵本には、「心を開く」というメッセージが込められているようです。怖がりだったシノビちゃんと暮らして、あらためて思うことはありますか?

「今も、『あっ、先月まではこんなことをしてくれなかったのに……』ということがあります。5年経ってもまだ進化しています。シノビを飼って今思うのは、シノビは(保護をした)坂本さんと接することで人を信頼することを既に知った猫だったんだなということです。だから、最初から私のことを“信頼したい”と思ってくれていたんじゃないかな。信頼したい、近づきたい気持ちはある、でも怖いし近づき方がよくわからないから、ちょっと距離が詰まっただけでついつい攻撃してしまう……という感じだったのではないかと想像します」

白黒猫
いつの間にか甘えん坊に(高橋さん提供)

「坂本さんは、(ならすまで)やはりとても大変だったんだろうと思います。でも、だから、もしかしたら、どんな猫でも時間とその気持ちさえあれば近しくなる可能性があるのかもしれないし、それは、人間同士の関係においても一緒なのかもしれないと思いました。だから『うちのねこ』は、猫にだけでなく自分にも、『こわがらないで大丈夫だよ』と言って勇気づけたいなという気持ちで作りました。私自身が、とても臆病なので」

「うちのねこ」
作:高橋和枝
発行:アリス館
体裁:26㎝×22㎝/32ページ
定価:1540円(税込み)
(書影をクリックすると、アマゾンにとびます)
高橋和枝(たかはしかずえ)
1971年神奈川県生まれ。教育学部の美術家で日本画を学び、文具デザインの仕事を経て書籍の挿画や絵本創作に携わる。著書に『くまくまちゃん』(ポプラ社)、『りすでんわ』(白泉社)、『くまのこのとしこし』(偕成社)など。絵を手掛けた本に『あ、あ!』(ねこしおり・文/偕成社)、『月夜とめがね』(小川未明・作/あすなろ書房)などある。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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