閉じ込められ、命を脅かされる動物たち 飼い主が突然死したり車で猫を飼育した事例も

 東京五輪が開幕する直前の7月中旬。大規模な交通規制が実施された国立競技場(東京都)付近に、地域猫が閉じ込められた。保護団体の依頼で猫たちの捕獲に協力した一般社団法人『動物虐待インターベンション』は近年、こうしたイベント時に限らず、様々な動物たちの「閉じ込め」案件に対応しているという。同団体の代表理事である河野治子さんに、国立競技場の地域猫救出の経緯と、いま日本で実際に起きている「閉じ込め」の現状についてお話を伺った。

(末尾に写真特集があります)

規制エリア内に閉じ込められた地域猫

交通規制が実施されるなか、捕獲器の搬入を許可された(河野さん提供)

――国立競技場の規制エリア内に閉じ込めれた猫たちの保護に関わられたと聞きました。経緯を教えてください。

 国立競技場エリアには、もともと多くの地域猫が近隣の餌やりの方の給餌(きゅうじ)によって生活していました。しかし、オリンピック開催にあたって一帯が立ち入り出来なくなるにあたり、6匹の地域猫の一時保護が遅れてしまったんです。そこで保護団体さんから、救出の依頼がありました。

――実際に、どのような手順で救出が実現したのでしょうか?

 まず、当団体から東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下オリ・パラ組織委員会)にご協力のお願いをしました。するとその日のうちに回答があり、4日間にわたってエリア内に捕獲器を置くことを許可していただきました。捕獲当日はエリア内に部外者が入れないとの理由から、当団体から貸し出した捕獲器を東京都の職員の方が設置。職員の方は捕獲経験があり、我々は安心してお願いできました。

 捕獲を行ったのはオリンピック開催前の7月中旬。日中は気温が上がる時期ですので、猫たちが捕獲器の中で熱中症になることを避け、昼の間は捕獲器の扉を閉じ、夜間に捕獲しました。その結果、4日間で3匹の猫を捕獲し、一時保護することができたのです。

 また、期間内に捕獲できなかった残りの3匹も、エリア内に入れる方が給餌や給水をしてくださって、元気そうな姿も見ていると伺っています。

「オリ・パラ組織委員の方、ボランティアさんが搬入を気持ちよくお手伝いくださいました」と河野さん(河野さん提供)

――今回の事態はなぜ起きたのでしょうか?また、他の封鎖エリアでも同様のことは起きていたのですか?

 東京五輪の開催にあたっては、組織委員会と東京都、保護団体が連帯し、早くから地域猫のケアに関する対策が立てられていいました。特に国立競技場は取り壊し、建設と長期にわたることから、早くから地域猫に関して懸念されていました。各地の立ち入り禁止エリアでは、十分なリードタイムをとって封鎖を告知し、捕獲ボランティアや一時預かりを行う動物病院を募集するなど、各会場で事前に保護する動きがあったのです。そのため、多くのエリアでは事前に猫を保護することができていたと聞いております。

 実は、国立競技場エリアでは一度東京都の職員の方のご協力を得て捕獲を試みていたんですが、あいにくの梅雨時で失敗だったとも聞いています。今回の件に対して、オリ・パラ組織委員会と東京都が非常に真摯(しんし)に、追加捕獲を即座に応じてくださったということは、きちんとお伝えしたいところです。

様々なペットの「閉じ込め」

――今回のようなイベント時以外にも、ペットや動物が「閉じ込め」によって命の危機にさらされることがあるのでしょうか?

 そうですね。私たち「動物虐待インターベンション」は、地元の神奈川県を中心に、様々な「閉じ込め」案件のご相談を受けています。とくに、今年は、意図的な閉じ込め飼育や飼い主の死などによって、動物たちが命の危険にさらされる現場を何度も目撃してきました。

 今回の国立競技場の件のように、事前にアナウンスされるイベントの場合は餌やりの方がアンテナを高く張ってくださることで対策を打てられます。一方でこうした個人の飼育者による「閉じ込め」はどのケースも対策を打ちづらく、第三者が介入して猫たちを助けるためには多くのハードルが存在します。

――実際に、どのような「閉じ込め」の現場に関わってこられたのでしょうか?

 ひとつは、閉じ込め飼育です。今年のはじめ、車の中で複数の猫を飼育している現場に関わりました。車の中は適正な飼育環境とは言えません。温度だけを考えても、冬は極寒、夏は50度を超えることでしょう。猫たちはこのような環境のなかで、繁殖を繰り返し、生まれた子猫は共食いの餌食になっていたようです。

 意図的な閉じ込め飼育も問題ですが、もっと複雑なのは、飼い主の意思を確認できない孤独死や突然死、夜逃げなどのケースです。現在の民法では、ペットも家具や家財と同じ個人の所有物に当たります。そのため、飼い主が亡くなっても家賃が支払われている月内は、第三者が室内に救出に入ることができないという事態を何度も目の当たりにしています。亡くなった方に身寄りがない場合や、相続人とコンタクトが取れない場合は、中に猫がいるとわかっているのに助けられない状況が起きるのです。

今年4月、一都三県であちらこちらで勃発していた車内閉じ込め飼育の現場(河野さん提供)

 埼玉県で孤独死した高齢の女性の飼い猫は、親族の方が所有権放棄され、無事に保護することができました。これは本当にスムーズにことが運んだパターンですが、ほとんどのケースではそううまくは行きません。とくに大変だったのは、身寄りのない50代の方が外出先で脳梗塞(こうそく)で倒れ、脳死判定されたケースです。この時は、本人に所有権放棄の意思を確認することができないため、この方の知り合いが複雑な手続きを行って、法定後見人となる必要がありました。

 どれも私が実際に関わった個人による「閉じ込め」ですが、最近は特に、孤独死や突然死による「閉じ込め」の相談が増えています。

民法の「特例措置」を

――こうした個人による「閉じ込め」をスムーズに解決するには、法律やシステムのアップデートが必要なのでしょうか?

今年3月、都内で飼い主死亡後に猫が閉じ込められた現場。敷地には立ち入れないものの地元ボランティアが猫を案じた(河野さん提供)

 日本の民法では、ペットは人間の所有物とされているため、生きるも死ぬも飼い主次第です。日本の動物福祉が遅れているのは、こうした実情があるため。民法を変えることは非常に困難ですが、動物の命がかかっていることに関しては、なんらかの特例措置を認めるべきだと思います。

 私が提案するのは、飼い主死亡時に行う手続きの一環で、動物たちの一時預かりを行うシステム。自治体には、死亡通知書を提出することで手続き関係を1カ所で済ますことができる「おくやみコーナー」と呼ばれる窓口が設置されているところがあります。大切な人を亡くしたご遺族の負担軽減のために始まった細やかな心遣いだと思います。こうした場所で、大切な人が愛した「忘れ形見」の動物たちも安全に保護できるような仕組みができれば、相続人の所有権放棄を待って、保護までに餓死してしまうペットは減るでしょう。

2021年7月、高齢者死亡により閉じ込められた猫。毎晩窓辺から鳴いて飼い主を待った(河野さん提供)

 もうひとつ必要なのは、警察と動物行政との連帯です。一人暮らしの方が部屋で亡くなる「孤独死」で警察が部屋を調べる場合、部屋に動物がいると気づいても警察は事件性の有無を確認することを優先させるので、具体的な行動を取る例は少ないと感じています。警察が孤独死の現場で動物を見つけた際は、保健所や動物愛護センターと速やかに連帯を取るようにしていただきたいと思います。

 また、飼い主が生きている場合の「閉じ込め飼育」に関しては、明確な虐待であるということを啓発し続けているものの、先に挙げたような事例があとをたたないのが現状です。見つけたらすぐに飼い主と引き離すことができるようにするためには、やはり所有権に関する特例措置が必要でしょう。

「万が一」への備えを

――私たち個人がペットの「閉じ込め」をなくすためにできることはあるのでしょうか?

 飼い主に関しては、そもそもペットが閉じ込められるという状況を作らないよう、あらゆる事態を想定して準備しておく必要があります。私が関わった「閉じ込め」案件では、亡くなった方が50代や60代で、現役で働いていた方も多くいました。“もしものこと”を現実的に捉えられていない方が非常に多いのです。

 具体的な準備としては、「自分に万が一のことがあった場合、誰にペットをお願いするか」ということを決め、相手と文章を取り交わしておくこと。また、その約束がある旨をメモし、財布などに入れて普段から持ち歩いておくことをおすすめします。ほかにも、自分が死亡した場合に備えて、飼い主向けの信託制度に契約しておくという手段もあります。

 しかし、今お話ししたことはあくまで、社会とのつながりがあって情報を仕入れることができ、経済的に余裕がある人に有効な方法です。そこまでたどり着くことができない方に対しても、先に挙げたようなシステムがきちんと作動する必要がある。飼い主の経済状況によって、動物の命が左右されてしまうのは、あってはならない悲劇です。

――最後に、『動物虐待インターベンション』の成り立ちとミッションを教えてください。

 当団体は、昨年9月に神奈川県で発生した大規模な多頭飼育崩壊をきっかけに、多頭飼育されている方やご近所の方が早期に相談できるよう、その窓口として立ち上げました。立ち上げ当時は団体名を『多頭飼育崩壊インターベンション』としていましたが、その後多頭飼育崩壊のみならず、あらゆる動物虐待の案件に対応していくため『動物虐待インターベンション』に改名しています。

 我々のミッションはふたつあり、ひとつは動物福祉の啓発です。具体的な活動としては、個人ボランティアさんたちと連携して、各地での動物愛護の活動のご協力をさせていただいたり、多頭飼育崩壊の啓発チラシなどを作成しています。

 もうひとつは、動物虐待に関する相談窓口となり、行政と連帯をとって改善のための手助けをすること。現在、神奈川県を中心に、飼い主さんや飼い主の近隣住民の方からのご相談を受け、保護システムを持つ団体と連携を取りながら動物の保護や預かりに対応しています。 

 今はコロナ禍で県をまたげない状況ですが、ご相談にはリモートなどで対応しながら、「閉じ込め」をはじめとするあらゆる動物虐待から動物たちの命を守りたいですね。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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