地域猫・保護猫活動家の味方、猫の不妊手術専門病院をオープン 院長村上氏の想いとは

 2018年、東京都練馬区に1軒の動物病院がオープンしました。その名は「むらかみ動物医院」。おもな業務は猫の不妊去勢手術です。

 地域猫の不妊去勢手術専門の病院はいままでにもありましたが、ここは一風変わっています。決まった診察時間がなく、地域猫ボランティアの都合に合わせて柔軟に対応 。「毎週○曜休診」などもないといいます。

(末尾に写真特集があります)

むらかみ動物医院入り口
もともとケーキ屋さんだった建物を改装して動物病院に。そのせいか、かわいらしい面影を残しています

 決まった診察時間がないといっても、基本的には常識的な時間内に来院を受け付けていますが、ときにはどうしてもとの依頼で深夜や早朝に猫の搬入を受け入れたこともあったそう。

「とにかくボランティアの方が利用しやすい形態を考えていったらこうなりました」

 そう語るのは院長の村上達朗先生。院長といっても、スタッフは村上先生ただひとり。さらにメールやLINEでの予約もできるそうで、融通が利きボランティアさんにとっては大変ありがたい存在。ですが、休む間がなく身が持たないのでは?と聞くと、次のような答えが。

「予約制にすることで、私がある程度コントロールできる状態にしています。忙しいときももちろんありますが、時期によってはヒマなときもあり、休むことはできています。決まった休診日はありませんが、私や家族の都合に合わせて「この日は休み」と決め、HPで告知しています。結婚して小さな子供達もいるので『家族となるべく一緒に過ごしたい』という思いがありました。そうしてたどり着いた、自分が無理なく続けられる形態でもあるんです」

野良猫も飼い猫も同じように対応

むらかみ動物医院に運ばれた三毛猫
むらかみ動物医院に運ばれた三毛猫(捕獲器の中)。何匹も子猫を産んでいた母猫でした

 若い頃からいくつもの病院で働いてきた村上先生。物腰が柔らかいせいか、どこでも自然と地域猫ボランティアの担当を任されることが多かったといいます。1日に30匹以上の不妊去勢手術を行ったこともあったそう。

 そのなかで、野良猫と飼い猫を分けて対応する方法に疑問を感じるようになったといいます。

「病院によっては搬入する入り口を他の患者さんと分けて案内されたり、接客態度に差があるとボランティアの方から聞いたことがあります。感染症対策などの理由も確かにありますが、野良猫に行う手術も飼い猫とまったく同じなのに、まるで野良猫にはケアを減らすと言っているみたいで……。

 多くの飼い主さんやボランティアさんと接してきましたが、自分の飼い猫を大切にする人も、野良猫をかわいがる人も、気持ちは同じだと思うんです」

 むらかみ動物医院では感染症対策として、野良猫と飼い猫・保護猫は別の部屋で預かるなど分けていますが、野良猫も飼い猫も不妊去勢手術費は一律。平均的な手術費用と比べると破格の安さです。普通はメスの手術料のほうが高いものですが、それもなし。

 恐る恐る、その価格で生活していけるのか聞いてみると、「まあ、なんとか(笑)。妻は『獣医と結婚したはずなのに』と思っているかもしれませんが」と笑います。

海外で不妊去勢手術のボランティアも

ブータン王国で野良犬の不妊去勢手術をする村上先生
ブータン王国で野良犬の不妊去勢手術をする村上先生

 村上先生の活躍は国内に留まりません。2005年、南アジアのブータン王国に単身、派遣獣医師のボランティアとして渡ったのです。

 仏教国のブータンでは動物の殺処分は行われません。かつ「施し」の精神があるので野良犬に残飯などを与える習慣があります。そのため野良犬が増えるいっぽうで、対策として不妊去勢手術が必要と、国が要請をしたという背景がありました。

 約10カ月の滞在の間に行った不妊去勢手術は約1500匹。これだけしてもまだまだ野良犬は多く、焼け石に水状態です。限られた滞在期間で精一杯のことをしたいと、ブータン王国で行われた獣医学会で全国の獣医師に手術方法をカタコトの英語で講演。技術の伝承に努めました。

「ブータン王国での生活は本当に楽しかったです。犯罪がほとんど起きない国で、みんなが親切で……。いま我が家で飼っている 姉妹猫は『ニマ』と『ダワ』といいますが、これはゾンカ語(ブータンの言葉)で『太陽』と『月』の意味。ブータンでは双子が生まれるとよく名付けられます。 」

元野良猫のニマちゃん(左)とダワちゃん(右)
村上先生の飼い猫、ニマちゃん(左)とダワちゃん(右)。2匹とも元野良猫です

 村上先生がいままで不妊去勢をした犬猫は約20000匹。地域猫ボランティアさんにとってはなんとも頼もしい存在です。

「ボランティアさんによって考え方のちがいがあることは理解しています。私ができるのは獣医療面でのアドバイスと、できるかぎりボランティアさんの都合と希望に沿うこと。野良猫の捕獲が予定通りにいかないことも承知していますから、どんどん予約して、どんどんキャンセルしてください。そうやって当院を利用していただければと思います」

(写真提供:村上達朗さん)

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富田園子
動物好きのライター、編集者。日本動物科学研究所会員。おもにペットの飼育書や心理解説書の編集・執筆をなりわいとする。元野良の愛猫7匹とその他保護猫たちと暮らし、仕事の傍ら譲渡先募集や地域猫活動にいそしんでいる。手掛けた書籍に『野良猫の拾い方』(大泉書店)など。

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