猫も犬も馬も人も 自然豊かな北海道の大地で、種を超えて共につむぐ命の物語
夏と冬の気温差が60℃近くもある北海道・富良野。豊かな自然は、野良猫たちにとっては過酷な環境でもある。猫に寄り添い生きる人と、猫たちの暮らしぶりを紹介しよう。
馬も犬も猫も、縁に導かれて
公道から細い道に逸れ、電話で教えられたとおり右へ、左へと車を走らせると、突如拓けた草原が現れた。周囲は深い森。2匹のコーギー犬に案内され木造りの家に近づくと、4頭の馬がたむろしていた。ドアが開くと、長い鼻先を突っ込んで中に入ろうとする馬もいる。なんとも愉快な光景だ。
富良野でレストラン「ル・ゴロワ フラノ」を営む大塚健一さん、敬子さん夫妻は、自然豊かなこの場所で、4頭の馬と2匹のコーギー犬、そして、5匹の猫たちと暮らしている。
東京で長年フレンチレストランを営んでいた大塚さん夫妻が、この地に移住したのは2016年のこと。「動物たちと一緒に自由に暮らしたい」という長年の想いからだった。特に東京出身の敬子さんは幼い頃から馬が大好きで、北海道の酪農学園大学に進学したほど。
10年あまり前からは怪我で殺処分を受ける寸前の馬を引き取って山梨の牧場に預け、休みごとに東京から世話をしに通っていたという。
いつも猫がそばにいた
そんな敬子さんにとって、猫はいつもそばにいる身近な存在。生まれ育った目黒区には、当時野良猫が少なくなく、敬子さんは幼い頃から猫を見つけては連れ帰り、空家で隠れて世話をする日々を送っていたという。
「人とコミュニケーションを取るのが苦手だったんです。猫といると楽な気持ちになれました」。
東京で健一さんとレストランを開業してからも、並みいる常連客に先んじて、まず常連猫たちに食事をあげる姿が話題を呼んだ。
現在21歳のメイちゃん(♀)は、その時代に可愛がっていた野良猫が生んだ猫。昨夏23歳で大往生したれんちゃんと長年寄り添うように生きてきて、移住も一緒に体験した。その分人にはなつかなかったが、れんちゃん亡き後は少しずつ心を開くように。この日も隣の部屋からわざわざ挨拶にきて、かすれた声で鳴きながらすり寄ってきた。
メイちゃんに限らず、この家で暮らす動物たちは、それぞれ出会いに物語がある。中でもゴーシュ(4歳♂)との出会いは鮮烈だ。
「台風直後の増水した川に流されてきたんです。最初は流れが速くて何かわからなかったのですが、突然手をつかまれて。それではじめて猫だとわかりました」。今では馬の背中に乗っても平気という元気な猫だ。
一方銀河(5歳♂)は3年前、ひな菊(3歳♀)は2年前に、レストランに迷い込み、敬子さんが店の御飯をあげて連れ帰ってきた。「東京時代も思いましたが、猫には伝言板があるんじゃないかしら」と敬子さん。特にひな菊は、出会ったときガリガリにやせ細っていたという。
「東京の野良猫との違いは、猫同士絶対けんかをしないこと。過酷な冬を生き抜くのがどれだけ大変か身にしみているのでしょう。家に連れ帰っても、まず他の猫に『お願いします』と許しを乞うように媚びるんです」。
もっとも、例外の猫もいる。飼い猫出身のケンちゃん(5歳♂)だ。生まれつき目が不自由で、長らく保護センターで暮らしたせいだろう。野良猫同士の仁義(?)など知る由もなく、終始マイペースで敬子さんに世話をしてもらって当たり前、と見えることが「ゴーシュには気に入らないんでしょう。ついいじめてしまうから、ケンちゃんだけは部屋が別なんです」。
動物たちから教わったこと
これまで多くの猫と接してきた敬子さん。それだけに猫たちへのまなざしは細やかだ。人間と同じように性格や個性を見極め、それぞれが暮らしやすいようさりげなく気を配る。一方で、動物から教わることも多いという。
「子別れなどどんなに大変でつらいことがあっても、彼らはずっとはくよくよしないんです。悲しむだけ悲しんで、3日も経つと何事もなかったように生きる、その姿には学ぶものがあります」。
馬も犬も、そして猫も人も。種を超えた縁あるものたちが、豊かな自然の中で今日も新たな物語を紡いでいる。
(写真・堀内昭彦 文・堀内みさ)
- 大塚敬子
- 東京生まれ。北海道酪農学園大学卒業後、東京に戻りパティシエに。シェフの健一さんと結婚後は東京でフレンチレストラン「ル・ゴロワ」を経営。2016年に北海道に移住し、2018年、富良野でレストランを開業。
【関連記事】北国の雪の上で生きる猫 たくましさとプライドと
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。