公園で衰弱した子猫を発見 どうしようと途方に暮れているとひざに乗ってきた

 愛犬との散歩コースで立ち寄る公園で、4匹の野良猫に挨拶するのが日課になっていたひろこさんは、ある日、目ヤニと鼻水だらけになった茶トラの子猫に出会った。風邪をひき、衰弱した子猫は母猫からはぐれたようだった。

公園の片隅から子猫の声が

 岡山県に住むひろこさんの自宅にはマルチーズの太一くんが暮らしている。太一くんとの散歩コースで立ち寄る公園に4匹の野良猫がいた。

「みんな人懐こくて、可愛いんです。太一の散歩を済ませてから、改めて車で猫に会いに行っていました」

 散歩後の約1時間は猫とのふれあいタイム。そんな日々が続き、半年ほど経った2017年6月末のこと。大雨の明けた蒸し暑い夜、公園に向かうと子猫のか細い鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声のもとを探してみると、公園を囲むフェンスの手前に見たことのない茶トラの子猫がたたずんでいた。

風邪をひいた子猫が現れた

 両手に全身が乗る小さな子猫のまぶたは、目ヤニで開けられないほどだった。風邪をひいているようで、鼻もカピカピな状態だ。

「前夜は雷も鳴るような激しい雨だったので、よけいにひどくなったようでした。体はノミだらけで、飼われていた子には見えませんでした」

子猫時代の茶トラ猫「ハナコちゃん」
保護したとき、目ヤニでまぶたは開かない状態だった

 母猫とはぐれたのだろうか。

「『危ないからおいで』と、道路に面したフェンス際から引き寄せても、くぐって外側に出てしまうんです」

 何度か連れ寄せるうち、フェンスには向かわなくなったが、衰弱した子猫を放っておけない。公園の猫を通じて顔見知りになった人のなかに、何匹も保護猫を飼っているという人がいることを思い出した。相談しようと思ったが、その日に限って訪れなかった。

「このまま放っておいたら、あまりもたないかもしれない……」

 ベンチに座り途方に暮れていると、脇に座らせていた子猫が膝にのぼり、寝息を立て始めた。

横になる茶トラの子猫「ハナコちゃん」
出会い当日。ひろこさんの膝にのぼり、眠り始めたときの様子

「連れて帰ろう」

 決心したひろこさんは、たまたま車に積んでいた小さな段ボール箱に子猫を入れ、助手席に置いた。

「運転中、鳴きながら箱から出てきてしまうんです。危ないので膝に乗せると静かに眠り始めました。そのとき、私のことをママだと思ってくれたような気がしました」

衰弱した子猫は眠り続けた

 帰宅後、子猫は緊張の糸が切れたかのように、箱のなかで翌朝まで眠り続けた。

「何を食べる時期かわからないので、ひととおりそろえてみましたが、何も口にしてくれなくて。ミルクもお水も飲まないし、本当にしんどい状態だったんだと思います。箱のなかを覗いても、ずっと眠り続けていました。もう死んでしまうのではないかと不安でした」

 翌日、動物病院に連れていったところ、生後2カ月ぐらいだろうと告げられた。風邪薬と目薬を処方されると順調に回復し、胸をなでおろした。

「昔、猫を飼ったこともあるのですが、ふすまがボロボロになってしまい、同居する親から『猫はいけんよ』と反対されていたんです。譲渡先を見つけることを条件に保護していたのですが、1カ月ほど探しても引き取り手が見つかりませんでした。情も湧いてしまって、もう離れることは考えられなくて……」

茶トラ猫「ハナコちゃん」
保護からまもなく。まだ、ほとんど二頭身

 反対していた親も足元をすりすりされると目じりを下げ、抱き上げて「可愛いなあ」と言葉を漏らすなど、愛着を持ち始めているようだった。

「家族にしたい」と申し出ると、正式に迎えることが認められた。覚えやすく、呼びやすい名前にという理由で、「ハナコ」と名付けた。

先輩犬・太一くんと対面

 しばらくひろこさんの部屋のなかで生活していたハナコちゃんのもとに、6歳年上の太一くんを連れてくると、シャーと威嚇した。

「『よそ者が来た』という感じで、テリトリーに侵入された気分だったみたいです。別の部屋で対面させるとおとなしくなり、威嚇することはありませんでした。それからは、太一のあとを追いかけていくようになりました」

茶トラ猫「ハナコちゃん」
スラっとした体形ながら、5㎏オーバーの貫禄

 片手でひょいと持ち上げることのできた子猫は、5.34kgにまで成長した。

「動物病院でカバンから出すと、先生が『おっきいなあ』って(笑)。獣医さんが言うぐらいだからよほどかなと思います」

 4㎏の太一くんを上回る体格になったが、小柄な先輩がハナコちゃんを追いかける関係性に変化したという。

「いままで太一に向けられていた私の意識がハナコに集中するので、やきもちを焼いているみたいです。2匹がぴったり寄り添うことはあまりないのですが、ハナコがあえて低い床に降りて太一を引き寄せたり、同じコタツに入ることもあるなど、適度な距離感を保っているのかなと思います」

茶トラ猫「ハナコちゃん」とマルチーズ「太一くん」
くっつくことはほとんどないと言いつつ、こんなショットも

地域の猫も守りたい

「公園で出会ったとき、自分から膝にのぼってきてくれたこと。どうすべきか相談しようと思っても誰にも会わなかったこと。いま思うと、ハナコはうちの子になる運命だったんだと思います」

 ハナコちゃんを迎えた現在も、5匹に増えた公園の猫たちに会いに通っているという。

「人間と同じで、猫もそれぞれ性格が違って可愛いんですよね。フォルムは猫だけど中身は自分たちと一緒に思えるんです」

 保護活動をしている方の協力を受け、公園の猫たちは地域猫認定されることになった。

 ハナコちゃんとの出会いで、猫に向けられるまなざしは、ますます温かくなったようだ。

(写真提供:ひろこさん)

ひろこさんのインスタグラム:hiroko3438

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久保田綾
八ヶ岳山麓で虫やカエルを愛でながら育つ。早稲田大学卒業後、日刊スポーツ新聞社、角川書店でスポーツ記者、編集者として勤務したのち独立。2010年、自宅の庭に現れた子猫(もこにゃん)を保護してからは、本業に支障が出ない程度に働くフリーライターとして糊口をしのぐ。本業は猫の下僕。

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