ペットホテルの前に捨てられていた幼犬 自ら玄関を開けて家族を待つ「お迎え犬」に

雑種犬「福」
おちゃめな「お迎え犬」福くん

 よしのさん一家が保護犬の福くんを迎えたのは2016年の春。手のひらサイズの末っ子として加わった福くんは、30㎏の大きさに成長した。いまでは毎日のように玄関を開け、門の前で家族の帰りを待ち受けてくれる「お迎え犬」だ。

(末尾に写真特集があります)

保護犬という存在を知って

 兵庫県で暮らすよしのさん一家は、夫妻と3人の子どもの5人家族。長男と次男から犬を飼いたいと熱望されていたものの、子育てに追われる日々で実現に至らなかった。

「主人も私もペットを飼った経験がなかったのですが、長女が大学生、長男が高校3年生と、手を離れる年ごろになりました。次男も小学6年生となり、迎えるならいまかなというタイミングに、友人がペットの譲渡サイトから保護猫を引き取ったという話を聞いたんです。そういうサイトがあることを知り、チェックするようになりました」

 そこで出会ったのが兵庫県内のボランティアが保護した生まれたての犬7匹の写真だった。生後まもなく段ボールに入れられ、ペットホテルの前に捨てられていたという。

雑種犬「福」
こんなに小さいころに捨てられていたなんて……

「飼育経験がないので、赤ちゃんからのほうがなじめるのではと思い、面会を申し込んだんです」

 まだ目も開かず、手のひらに乗る小さな幼犬たち。いずれも可愛らしく、どの子を選べばよいか悩んだ。「よく寝てよく食べる子は育てやすいよ」という保護ボランティアさんからのアドバイスを受け、迎えたのが福くんだった。

3人きょうだいに弟ができた

 名前を呼ばれるたびに幸福が訪れますように…との願いを込め、福と名づけた。

 とはいえ、生まれたばかりの小さな命に一家は大わらわ。ケージの横で仮眠しながら3時間おきに授乳という昼夜つきっきりの生活が始まった。

「でも、人間の赤ちゃんと一緒だなと思ったんですよ。3人の子どもを育てたときと同じだったので、違和感なく受け入れられました。家の中は末っ子が生まれた雰囲気で、特に次男は大喜びでした。福のことを『弟やねん』と友達に紹介していたぐらいです(笑)」

 家族の愛情に包まれすくすく育った福くんだが、離乳期を経てからがむしろ苦労の連続だったという。

「ワクチンを打ち散歩デビューできるまでの間、家の中でストレスがたまったようで、柱をガブガブかじったり、私たちに飛びついてきたり。甘噛みもひどくて悩みました。甘えたい、遊んでほしいという感情表現だと思ったので、どうしたらストレス解消になるか、そのたび主人と相談しました。犬という感覚はなく、『どうしたら伝わるかな』と、子どもを育てるときと同じ気持ちでした」

カゴをくわえる雑種犬「福」
お気に入りのカゴをくわえて、ご家族をお迎えしている “お迎えの舞”中(笑)

お散歩と水遊びが大好き!

 散歩ができるようになっても、思うように歩いてくれない。「広いところに連れていけば」と思い立ち、近郊の海辺に連れていくと、誰もいない砂浜を8メートルの伸縮リードが伸びきるほど駆け回った。

「ストレス解消になったんでしょうね。だいぶ落ち着いて、それから主人が熱心に散歩に連れて行ってくれるようになりました」

 毎日早朝1時間半かけての散歩が日課となった。特に好きなのが水遊び。散歩コースの河原では清流に入り、たっぷり水浴びをする。

特技は家族のお迎え

 約30㎏と大きく成長した福くんには特技がある。自力で玄関のドアを開け、門の前で家族の帰りを待ってくれるのだ。

「福が来る少し前、自宅玄関のドアノブが故障し、中から押すと開くようになったんです。家族がドアを開ける様子を見て覚えたようで、福も1歳のころから、家族が帰ってくる1015分前になると、自分でドアを開けて、おもちゃをくわえて門の前で待つようになりました」

こちらがドア開けの様子
尻尾をブンブン振り、全身で喜びを表現しながら出迎えてもらえるとは、1日の疲れが吹き飛びそう

 その一方、「この家はボクが守る!」とばかり、来訪者に勇ましく出撃する一面も。宅配業者が門のベルを押すと、真っ先に飛び出し吠えてしまうのだそう。

「外で会う人々には愛想がよくて、『大きいのに穏やかやね』と言ってもらえるんですが、家の中にいるときは番犬意識が芽生えてしまうみたいで……」

 コロナ禍で、在宅時も指定できるAmazonの置き配を利用していたところ、まさかの「配送完了通知」が届いた。

「配達員さんが門を開ける音に、福が気づいたんでしょうね。玄関先に荷物を置いた証拠を撮影して通知メールに添付してくれるサービスなのですが、受け取りに出ていたようです(笑)」

雑種犬「福」
こちらがAmazonから届いたという配送完了通知。思わず二度見しました

福を中心に家族が集まる

 やんちゃで頼もしい福くんの存在は、長女の就職活動や長男の大学受験など、家族の岐路に活力を与えてきた。

「親として見守るしかできない歯がゆさがありましたが、疲れて帰ってくる長女を福が笑顔にしてくれました。長男は浪人を経験しましたが、苦しい時期を福が癒してくれました。思春期に入り、親への口数が減った次男に寄り添い、会話相手になってくれたのも福でした。子どもたちが家で個室に分かれてしまうような年齢になっても、福のいるリビングに集まってくれるのはありがたいことですね」

水遊びする雑種犬「福」
水遊びが大好き! もう満面の笑顔

 家族に笑顔をもたらした“福”の神について、よしのさんは語る。

「福に助けられたことは数え切れません。犬の魅力は純血種も雑種も関係ないなと実感しました。保護犬を迎えることで、その子以上に家族も幸せになれることが広く伝わればいいなと思っています」

よしのさんのインスタグラム:yoshino__017

久保田綾
八ヶ岳山麓で虫やカエルを愛でながら育つ。早稲田大学卒業後、日刊スポーツ新聞社、角川書店でスポーツ記者、編集者として勤務したのち独立。2010年、自宅の庭に現れた子猫(もこにゃん)を保護してからは、本業に支障が出ない程度に働くフリーライターとして糊口をしのぐ。本業は猫の下僕。

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