飼い主が余命宣告、残される猫たちを守りたい クラウドファンディングに挑戦中

4匹の猫
「仮暮らしハウス」を待つ猫たち。後ろのななおちゃん(左)とチロちゃんは20歳。手前のキイちゃん(左)とジジちゃんも高齢だ

 余命数カ月。あとには高齢・闘病中の6匹の猫が残される。切羽詰まった状況から、飼い主と居場所をなくす猫が落ち着ける場を“猫仕様”のコンテナハウスでつくるというプロジェクトが走り出した。

 取り組むのは、猫と人の幸せな暮らしを応援する「にゃんコール」。つくろうとしているのは、超高齢社会でこれからも必要とされるものだ。

(末尾に写真特集があります)

ハッピーな猫生活を応援したい

 始めに「にゃんコール」の紹介をしたい。拠点は愛知県瀬戸市にあるキャットサロンだ。動物看護士の資格も持つ代表の鈴木ゆうこさんが、そこで「猫スタッフ」(飼い猫11匹+飼い主募集中の2匹)と暮らしながら、さまざまな猫関連サービスを展開している。

 軸は「キャットシッター」「サロンでの猫との暮らし体験」「会員制の猫のお悩み相談」「猫の一時預かり」「猫関連商品のネット販売」の5つだ。

猫たち
人なつこい猫スタッフと触れ合い、猫ライフを体験できるキャットサロン(予約制、なんと無料)

 鈴木さんはもともと、多頭飼い崩壊からのレスキューなど、猫を何匹も保護しており、今いる猫スタッフも全てそう。そして新しい飼い主探しに、思いを込めて「つなぐ猫活動」と名付け、力を注いでいる。

「保護猫の可哀想というイメージを払拭(ふっしょく)し、猫とのハッピーでおしゃれな暮らしを伝えたい。また、猫のための活動を、サービスと合わせて採算がとれ、継続できる体制をめざしています」

猫と女性
鈴木ゆうこさん。8年前に猫専門のシッターを始め、3年前にサロンをつくって「にゃんコール」を発足

 そんな中で温めてきた構想がある。生涯猫と幸せに暮らせるシステムの構築だ。

「いくつになっても猫との暮らしをあきらめてほしくない。保護猫の譲渡は多くが60歳までとなっていますが、ゆとりのある世代にこそ、と私は思うんです。猫と暮らすことで生活に張りが出て、元気でいられます。また、新しい飼い主が見つかりにくい大人の猫でも迎えたいと言ってくださることが多く、うまくつなぐことで猫も人も幸せになれます」

 しかし、高齢になれば最後まで飼えないリスクが高まるのは事実。もしもの時に託せる受け入れ先が必要だ。そう考え、資金をため始め、同様の取り組みを行う所へ話を聞きにも行った。道は遠いが、いつか実現させようと思っていた。それが思わぬ形で前進することに。

家族をなくす6匹に居場所を

 キャットシッターの顧客Kさん(60歳)が昨年、末期がんで余命半年を宣告された。一人暮らしで、残されるのは6匹の猫。「引き取ってくれる人を一緒に探して」と頼まれた鈴木さんは、悩んだ。

 猫たちは一番若くて9歳、最高齢は20歳。いずれも療養食や投薬が必要な状態で、新しい飼い主探しはかなり難しい。自分で引き取ることも考えたが、すでに10匹以上いる猫とその6匹がいきなり一緒の空間で暮らすのは、どちらにもストレスが大きすぎる。

 まさに構想を実現する時ではと思うが、準備は整っていない。今すぐできることを探していた時、ひらめいた。近くにあるコンテナを改造した花屋さんを思い出し、あれを猫バージョンにすれば、と。

「開口部や空調・換気設備、キャットウォークなどを取り付け、猫が快適に暮らせる空間にする。それをサロンの敷地へ置けば、6匹の猫を少しずつサロンで過ごさせたり、ゲストに見てもらえたりもできます。耐久性も高いので、自分がいなくなった後も引き継いでいってもらえます」

コンテナ
中古のJRコンテナ。サロン裏の畑をやろうと思っていたスペースにサイズもぴったりだった

 猶予がないため、とにかくプランを発進させた。しかし大きな問題が。コンテナの購入・改装代や当面の飼育代などに、Kさんから託された資金と手持ち資金を足しても足りないというのだ。

 そこで、初のクラウドファンディングに踏み切った。CAMPFIREで2021年4月末まで、「新しい家族探しを余儀なくされた高齢の闘病猫たちを守りたい」のプロジェクト名で支援を募っている。

猫
CAMPFIREより。待ったなしの状況からプロジェクトはすでに走り出した

 可能な限り新しい飼い主につなげていくから「仮暮らしハウス」と名付けた。それができない猫は、安心して最後までいられる場所にする。

それはこれからも求められる場所

 今回、志を同じくするメンバーと一緒に一般社団法人化も決意。

「プロジェクトにはご支援が必要です。これまでも多くの支援に助けられてきました。それに応えるためにも、広げていくためにも、活動を透明化しようと考えました」

2人の女性
メンバーの一人で、共にプロジェクトに取り組む神谷千勢さんと。

 超高齢社会に突入し、独居世帯も増えている日本。飼い主が病気になったり、亡くなったりして、行き場をなくす猫も増えている。また、猫も長生きになり、同様のケースはこれからますます増えるはず。「だからこそプロジェクトを成功させたい」と、鈴木さんは力を込める。6匹のための「仮暮らしハウス」は、今後同じようなたくさんの猫の居場所になる。ニーズに合わせて拡張もし、ゆくゆくは委託サービスといった形の自立した運営をめざすという。

「ここを出発点に、全ての猫、猫を飼う人が安心して年を重ねていけるよう、システムを整えていきます。もしもの時は相談してください」

 そう言って見せた笑顔に、希望の光が垣間見えた。

にゃんコール
◆クラウドファンディング「家族をうしなう猫さん達に仮暮らしハウスを~新しい家族探しを余儀なくされた高齢の闘病猫たちを守りたい

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石井聖子
猫依存症の名古屋在住ライター。幼少期は犬、亀、鶏、インコと暮らし、猫歴は30年以上。現在は3ニャンズ(と夫)と同居。さらにワンコも一緒に暮らすのが野望。夢は弱い立場にいる動物と子ども、全ての人が一緒に幸せになれる方法を見つけること。

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