東日本大震災から10年、仙台をペットに優しい街に! 立ち上がった愛犬家たちの話
ペットと一緒に入れる避難所がなかった10年前。そのためにさまざまな苦労を経験した愛犬家たちが、人とペットの安全で幸せな共生社会を目指して、今、動き出しています。
愛犬と飼い主の幸せのために
お話をしてくださったのは、「NPO仙台わん子」代表、高橋みえ子さん。仙台わん子は2020年に設立された、まだ新しい非営利任意団体です。
「仙台には被災動物や野良犬・野良猫を保護・譲渡する活動をしている保護団体はたくさんあるんです。そうした活動はそちらにお任せして、私たちはペットオーナーのために動いています」
仙台わん子が行っているのは、愛犬と愛犬家のためのマナーアップや、しつけの啓もう。そして仲間づくりだといいます。
「大震災などの非常時、ペットは必ずしも飼い主と一緒にはいられません。10年前と違って連れて逃げるのが常識になりつつありますが、それでも飼い主と離れ離れになったり、誰かが預からざるを得ない状況になることはあります」
そんなとき、誰にでもお世話できる子にしておくこと。ケージに入れられても騒がない、ほかの犬や人に向かって攻撃的にならない、社会性のある子にしておくことが、結果的に愛犬の幸せにつながります。
そこで仙台わん子では、イベントやセミナーを実施(昨年はコロナ禍の影響で中止もありましたが)。プロのトレーナーによるクレートトレーニング(ケージやクレートにおとなしく入る訓練)や、いざというときの非常持ち出し袋の備え方のレクチャーなどをしています。
また、ペットのための「ペット救護カード」も配布。
これはほんの名刺サイズのカードですが、飼い主の連絡先と自宅にペットがいること(種類や名前)、いざというときの連絡先を記載しておくもの。飼い主が財布などに入れて携行することで、万一飼い主の身に何かあっても誰かに連絡がつき、自宅のペットを救出してもらいやすくなる、というものです。
「飼い主が意識不明の状態で発見されたり、一人暮らしで家に誰もいない、というのは災害でなくとも起こりうること。身元がわかって離れて暮らしている家族がかけつけたとしても、まずは病院に行ってしまう。家に動物がいることに気づかないと、動物のケアが手遅れになる恐れがあります。そんな事態を避けるために『家にペットがいる』と知らせるためのものなんです」
それはドッグランがつないだ縁から始まった
仙台わん子の始まりは、今はなき一軒のドッグランから。そのドッグランは仙台市若林区の田んぼの中にあり、高橋さんも会員のひとりでした。
「オーナーは積極的に犬や飼い主に関わる人で、しつけの悩みにもこたえてくれたりしていました。飼い主同士の情報交換もでき、犬同士も仲良し。10年前の震災直後も、飼い主たちは愛犬を遊ばせるために集まっていたんです」
お互いの安否確認や困りごとの相談が交わされ、人と人が支え合うコミュニティとしても役立っていました。
犬たちも互いを覚えているので、仲間に会えてうれしそうに走り回っていたと言います。実はこのドッグランが、別の記事でムクママさんが、愛犬ムクちゃんを連れて通っていた場所だったのです。
みんなの心の支えになっていたこのドッグランは、あいにくなことに復興住宅が建てられるために閉鎖に。それでも愛犬家たちは横のつながりを持ち続け、犬連れで集まったり、ちょっとした遠出を楽しんだりと交流を続けました。
「そのうち、次第に人数が増えて行って、年に数回はイベントなども開催するように。もしまた大きな災害が起きたらどうしよう。私たちにできることは何だろう。自然とそう考えるようになりました」
仲間で考え、高橋さんが代表となって立ち上がったのが「NPO仙台わん子」だったのです。
仙台をペットに優しい街に!
「愛護のための啓もうや保護活動ではなく、すでに飼っている人たちを対象に、人とペットが幸せに共生できる街づくりを目標にしています」と高橋さん。
そこでスローガンに掲げたのが「仙台をペットに優しい街に」でした。
ウンチの始末(回収)、散歩時のリードの着用の徹底などのマナーアップ、そして冒頭にご紹介したクレートトレーニングなど、まず「社会から嫌われないペットにする」運動を進めています。
「ペット連れで入れるカフェなども増えていますし、ペットは家族同然になっていますよね。それでもしつけのできていない子は歓迎されません。ましてや非常時には苦労することになりますから」
仙台わん子は会員制。年会費1000円で活発な情報交換やイベントなどで連帯を強めていると言います。
「情報発信のために始めたインスタグラムも人気です。普段は楽しくつながり合いながら、いざとなったら助け合う。そんな趣旨に賛同して1年間で約180人の愛犬家の方が集まりました」
『ペット救護カード』などのユニークや取り組みも魅力的。会員同士のつながりで犬だけでなく人にとってもセーフティネットになる。そんな取り組みに、自治体の動物愛護行政や愛護団体からも期待を寄せられているようです。
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