大奥は猫の天下だった!? 猫愛あふれる、ゆるモフお江戸コメディー
今も昔も、自由気ままな猫様に翻弄(ほんろう)されるのは人間のサガ。
『モーニング』で連載中の『猫奥』(講談社)は、江戸時代の大奥を舞台に、“猫嫌い”を演じる主人公・滝山と、白黒猫・吉野ちゃんの掛け合いに癒やされる、“ゆるモフ江戸コメディー”だ。
3月23日の2巻発売を前に、『猫奥』の誕生秘話やストーリーの魅力を、作者の山村東さんに伺った。
猫を飼わない猫漫画
――「大奥」と猫という組み合わせはどのように生まれたのでしょうか?
もともと担当編集者から提案されていたアイデアは、「ぜいたくな暮らしをしている現代の猫が、江戸時代にタイムスリップする」というものでした。
ただ、そのままではイメージが広がりづらかったので、逆に「江戸でぜいたくな暮らしをしている猫の話ではどうでしょうか?」と提案し、「大奥の猫」というテーマに行き着きいたんです。実際に、大奥では上司の子猫をもらい受けて出世の糸口にしていたという話もあったんですよ。
――主人公の「滝山」は、本当は猫が大好きなのに“猫嫌い”を演じ、猫を飼えずにいますが、このキャラクターが生まれた経緯を教えてください。
滝山は、大奥で活躍した実在の御年寄で、大奥の物語には必ずと言ってよいほど登場する有名な人物なんです。私自身、「大奥の猫」というアイデアが固まった当初、大河ドラマの『篤姫』を見ていたこともあり、「大奥といえば滝山」のイメージがありました。
そこで、滝山を主人公に猫漫画を描き始めたのですが、実際に描いてみるとなんだかしっくりこなくて……。途中から、「この人って、猫を飼っていないんじゃない?」と思い始めたんです。
その思いつきを担当編集者に話したら「面白いね」ということになり、滝山が猫を飼わない理由を考えて、キャラクターに肉付けしていきました。その結果生まれたのが、“猫が好きなのに、猫嫌いを演じて損をする”という、あのかわいそうなキャラクターなんです。
篤姫も“猫バカ”だった?
――滝山は、上司の飼い猫「吉野ちゃん」をひそかに溺愛(できあい)していますが、吉野ちゃんはマイペースに滝山をあしらっていますね。猫らしい性格の吉野ちゃんですが、モデルはいるのでしょうか?
具体的なモデルはいないんです。ただ、大柄で白黒模様で…なんとなく私の好きなイメージではありますね。散歩中に吉野ちゃんのような雰囲気の野良猫を見かけるたび、可愛いなあ〜!と思っていたりします。性格も、マイペースでふてぶてしくて、野良猫っぽいところがありますね。
それに、描きやすいから白黒というのもある(笑)やっぱり三毛猫とかだと描くのが大変になっちゃうので。
――『猫奥』では、多くの人々が猫に翻弄される姿が描かれていますが、すべて山村さんのイメージなのでしょうか?
事実をもとにして創作している部分が多いですね。たとえば、篤姫は実際に大奥で猫を飼っていたのですが、飼い猫にドジョウを食べさせることがあったそうです。
こうした実際のエピソードをヒントに、「大奥では猫の餌に高級魚を与えている」などの設定がうまれました。猫にぜいたくをさせていた大奥の人々の暮らしは、現代の“猫バカ”にも通じるものがあるんじゃないでしょうか。
また、篤姫はアワビの貝殻を模した焼き物を猫の餌入れにしていたそうで、作中の餌入れも当時実際に使われていたデザインを参考に描いています。餌台やトイレ、首輪など、当時の猫たちの暮らしが垣間見える小物にも注目していただきたいですね。
猫をひざに乗せてネーム
――山村さんの愛猫たちについて教えてください。
15歳の「せり」(雌)と、9歳の「もみじ」(雌)と暮らしています。2匹ともシャム柄です。
せりの方は人間が大好きで猫はあまり好きじゃない。もみじは逆に、猫が大好きな子なので2匹はあまり相性がよくありませんね。もともとはせりの方が格上でしたが、もみじが食いしん坊でよく太っていることや、せりが年をとって痩せてきたこともあり、今では形勢逆転しつつあります。
吉野ちゃんはふてぶてしくてマイペースな性格ですが、我が家の猫はどちらかというと人懐っこいタイプ。吉野ちゃんが伸びたり、転がったりしている姿は、うちの猫を参考にしています。
――『猫奥』では、吉野ちゃんが滝山の仕事を邪魔するエピソードが登場しますが、山村さんの家では仕事中に猫に邪魔される「猫ハラスメント」はありますか?
猫ハラはよくありますよ!まず、もみじは必ずネーム(漫画の大まかな設計図のようなもの)の上に乗ってくる。逆に、せりはひざの上でじっとしているので動けないんですよね。でも、せりをひざに乗せるとネームがはかどるということで、よしとしています(笑)
夫もコロナで在宅勤務が増え、ひざに猫を乗せて仕事をしているので、我が家では猫は福利厚生です。
2巻は新展開も
――山村さんにとって、猫の魅力とは?
猫は、どんな猫でも可愛い!!この品種、この柄、こんな性格がいいとかではなく、猫はみんな猫ですね(笑)猫が可愛すぎるので、猫への思いをいつも滝山に代弁させています。
でも、猫を描くのは難しいんです。本当はもっと可愛く描きたいのですが、担当編集者からは「一般的な可愛さじゃなく、ちょっとふてぶてしい猫のほうが山村さんらしい」と言われているので、可愛くなりすぎないバランスを大切にしています。
――3月23日に『猫奥』2巻が発売になりますが、読みどころを教えてください。
連載当初は「猫のここが好き」というところを描いていましたが、1巻の終わりごろからページ数も増え、大奥のちょっとした豆知識なんかも盛り込んでいます。時代モノが好きな方は、そういうところも楽しんでいただければ。
また、2巻では滝山の猫好きがある人物に知られるという新しい展開も用意されています。滝山が猫愛を放出する姿をニヤニヤしながら楽しんでいただきたいですね。
猫好きの方、江戸好きの方はもちろん、猫にも江戸にもそれほど興味がないという方にも楽しんでいただければとてもうれしいです!
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