庭猫「スンスン」と家猫「くま」ささやかで幸せな日々 受け継がれる命の物語
sippoの連載「家猫庭猫」でおなじみの、写真家の安彦幸枝さんによる写真集『庭猫スンスンと家猫くまの日日』(小学館)が、1月22日に発売される。安彦さん夫婦が愛猫たちと過ごした何気なくも濃厚な日々を、優しい眼差しで切り取った写真と味わい深いエッセイにまとめた1冊だ。
本書の成り立ちやその魅力について、著書の安彦さんにお話を伺った。
きっかけは叔父の死
――本書は、たんにかわいい猫との暮らしを紹介した写真集ではなく、安彦家の猫たちの生き様の物語でもあり、「肉体が亡くなっても命が繋がれていく」、というお話でもあると感じました。出版の経緯と、このような構成にした理由を教えてください。
2015年に「庭猫」という本を出版したあと、担当した編集者の方から、「また猫を撮って見せてくださいね」とたびたび声をかけていただいていました。ところが、そろそろ本にまとまるかと思い、撮りためた写真を構成して見てもらっても、「伝えたいテーマが見えない」となかなかOKをもらえず、次回作の話はいったん寝かせることに。
そんなときに直面したのが、大好きだった叔父の死です。クリスチャンだった叔父は、葬儀の参列者に、生前好きだった詩を引用してメッセージを残していました。
元となった詩の正式なタイトルはわからないのですが、「肉体は滅んでも、魂は滅びない。だからともに過ごした日々を喜んで見送って欲しい」という趣旨の叔父のメッセージは、残された家族を悲しみから救ってくれました。
同時に、庭に埋葬して大根の種になったスンスンの話や、かねてから母が樹木葬を希望していることなどが叔父の言葉と自然につながっていき、「スンスンの種のことを本のテーマにしよう」、と考え始めたのです。
当時は、叔父の死に加えて親友の大病も重なり、常に死を身近に感じる日々でした。コロナ禍の自粛期間が重なり、自宅でじっくりとテーマと向き合いながら写真を構成し直して、出来上がったものを編集者の方に見せたら、やっとOKをもらえました。
スンスン大根とくま大根
――本書に登場する猫たちについて教えてください。
登場人物は、最初に家猫になった、野良猫出身のくま(雌)、庭猫のスンスン(雄)、友人が保護して、生後1週間で我が家の家猫になったピーヤ(雌)、その1カ月後に同じ友人から引き取ったミニミニ(雌)とタロ(雌)の5匹です。
くまはもともと外で暮らしていたので、いろいろな家との関係が見え隠れしている猫でした。くまと出会った当時、私は人の出入りが多いシェアハウスに住んでいたのですが、誰がやって来ても動じない、人なれした子という第一印象でしたね。
その後、シェアハウスを解散して引っ越し、くまは我が家で引き取ることに。ピーヤやミニミニ、タロたち子猫を迎え、ミニミニが引き取られていって、くまとピーヤ、タロの3匹が残りました。
本の中とは少し時系列が異なりますが、スンスンは、ピーヤたち子猫が我が家にやって来る前に庭に現れた“庭猫”でした。人間をまったく怖がらず、懐っこい性格の子で、私も夫もすごくかわいがっていた。外で見かけることがあると、よく誰かになでられていたり抱っこされていたりしましたね。
スンスンが死んで、今年で6年目。毎年、庭で取れた種を農家の友人に渡して大根を育ててもらい、また苗を庭に植えて種を取り、と、スンスン大根の種は今も大切に受け継がれています。昨年の2月に亡くなったくま大根の種も、これから受け継がれていくんですよ。
猫の個性や“カタチ”にひかれる
――本書に収録された写真はいつごろから撮影していたものですか?猫を撮影するときのこだわりや、特に気に入っている写真があれば教えてください。
くまを撮り始めたのは20年くらい前。シェアハウスから夫婦の家に引っ越し、子猫だったピーヤたちを迎えて、仕事部屋を猫がたまっている日当たりのいい部屋に変えたことをきっかけに他の子達も撮影するようになりました。
猫たちの写真は、わりと淡々とした距離で撮っていると思います。「かわいい〜!!」と心を乱される瞬間は多々あるのですが、そういう時はあまり撮影モードにならないですね。撮りたくなるのは、その子の個性を感じる瞬間や、光や構図がいい時。あとは、“面白いカタチ”をしているときかなあ。
好きな写真を絞るのは難しいのですが、特に思い入れがあるのは、夫と二人でスンスンを尾行しながら撮った写真です。スンスンには途中で気づかれましたが、気にすることなく歩いてくれて。自分たちの知らないスンスンの一面をのぞけたのが楽しかったですね。
もうひとつあげるなら、タロが腕を伸ばしてセルフ腕枕をしている写真が好きです。口元のマズルがぷっくりしていて、いつもまでも安心して眠らせてあげたい、と見るたびに思います。
じつは、昨年の11月にスンスンやくまと暮らした家から引っ越したばかりで、いまはあまり家の子たちの写真を撮れていません。くまが亡くなったことも大きいですね。今思えば、くまがいたからうちの子たちを撮っていたんだと思います。
スンスンやくまとの思い出が詰まった家を離れたいま、この本はささやかながらも幸せだった、ひとつの時代の象徴として、より大切なものになったという実感があります。
思い出は、残された人の救いに
――『庭猫スンスンと家猫くまの日日』を手に取る方に、どんなことを伝えたいですか?
読んでくださる方の中には、私たちと似た経験をされた方もいると思います。動物は人間に比べて、命のサイクルが短い。一緒に暮らしていると、どうしてもその死を見届けることになりますよね。
この本に出会った人が、愛猫とともに過ごした時間をあらためて振り返ることで、「あの子はどんな時も近くにいてくれたんだな」と感じてもらえたら。そして、残された人が救いを見いだせるような物語になっていればうれしいです。
亡くなった叔父は、本からの引用だと思うのですが、「全ての人生は等価である。なぜならその人にしか、その生を生きることができないのだから」という言葉も残していました。家猫だから幸せだとか、庭猫だから不幸だとか、そんな違いなんて人間が決めているだけで、猫たちはみんな、ただその瞬間を生きているんですよね。
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- 『庭猫スンスンと家猫くまの日日』発売記念写真展
- 1月26日から31日まで、『森岡書店銀座店』(東京都中央区)にて、本書に掲載された写真を展示する写真展を開催。会期中に写真集をお買い上げの方に、「庭猫スンスンと家猫くまオリジナルマスキングテープ」をプレゼント。遠方で来られない方には、郵送での写真集の販売も受け付ける。スンスンやくまのオリジナルグッズも販売予定。
- 画像は庭猫スンスンと家猫くまオリジナルマスキングテープ(安彦さん提供)
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