新幹線の線路脇で子育てした野良猫 人を警戒し威嚇…優しく見守られおっとり家猫に

 千葉県松戸市に住むひろさんとえりさんの夫婦は、保護猫のやまびこ(雌・10歳)とQ太郎(雄・10歳)の2匹とともに仲むつまじく暮らしている。

(末尾に写真特集があります)

 取材当日、ひろさんとえりさんはそれぞれ、やまびこの写真とイラストをデザインしたTシャツで登場。「親バカ精神でつくっちゃいました」とひろさんは笑う。そんなふたりの間には、だらりと寝転がってくつろぐやまびこの姿。

 いまでこそ、おっとりと家猫ライフを満喫しているやまびこだが、かつては生粋の“野良猫かあちゃん”。現在の姿は保護主も驚くほどの変貌ぶりだ。

コウモリを捕って子育てした母猫

 やまびこは2015年の夏、子猫4匹とともに、福島県の新幹線の線路脇にすみ着いているところを発見された。

 知らせを受けた保護主のTさんが、駅の許可を取り営業後の線路を探すも、4本ある線路をどこまでたどっても猫たちは見つからない。後日、母猫がホーム下から駅ナカのスーパーマーケットの屋根に子猫を移動させているという目撃情報が入り、Tさんは改めて各所の許可を取り、捕獲器を抱えて屋根に登った。

 母猫を捕獲できたのは2日目のこと。子猫たちは1週間ほどかけ、1匹ずつ捕獲器に入った。子猫が過ごしていた屋根のくぼみには、母猫が与えていたと見られるコウモリの頭がそこらじゅうに転がっていたという。

母猫
保護当時は福島駅の屋根で、子猫にコウモリを与えていた(おーあみ避難所提供)

 猫の親子はその後、Tさんと親交のある神奈川県の保護団体「おーあみ避難所」へ託される。現地で引き取られた子猫1匹をのぞき、母猫をやまびこ、子猫たちはそれぞれはやて、こまち、のぞみと名付けられた。

 子猫たちはすぐに引き取られていったが、母猫のやまびこは、シェルターでも他の猫とつるまず、スタッフも激しく威嚇し続けた。Tさんもスタッフも、大柄で気性が荒いやまびこの譲渡先は見つからないだろうと諦めかけていた時、名乗り出たのがひろさん夫婦だった。

人なれ度ゼロでも迷わず家族に

 2017年。ひろさん夫婦はペット可物件への引っ越しを機に、保護猫を迎えようと譲渡先募集サイトを眺めていた。そこに掲載されていたやまびこの写真に心をつかまれたのが、妻のえりさん。

「一目ぼれでした。目やにがひどくて目が開きづらかったのか、ギュッと目をつぶっている写真がもう、とにかく可愛かった!」

目を閉じた猫
目やにで目が開かず、ギュッと目を閉じたような表情がえりさんをひきつけた(ひろさん提供)

 ふたりは、ビビりで譲渡会に出られないというやまびこに会うため、シェルターまで足を運んでお見合いをした。

「すぐに隠れてしまったけれど、美人さんだなあ。と思いました」と思い返すえりさんに、「人なれしていないとは聞いていたけど、迷いはなかったよね」とひろさん。

 2017年3月、福島駅で保護されて1年が過ぎたころ、やまびこは正式に夫婦の家族に迎えられた。

 推定10歳前後と診断されているやまびこは、長い年月を野良猫として暮らしてきた。過酷な経験から、人間への強い警戒心があったやまびこは、近づくと激しく威嚇し、触れることもできなかったという。

「家に来たばかりのころは、事前に準備していたキャットタワーの穴に隠れて全く出てきませんでしたね」とひろさんは当時を振り返る。

猫におやつをあげる様子
やまびこの隠れ場所をつくり、必要以上に干渉しないで見守ったという(ひろさん提供)

 ふたりは、やまびこが自分のペースで新しい環境に慣れるようにと、やまびこのためにひと部屋を空け、お世話をするとき以外は出入りしないように工夫した。そうして、普段は必要以上に構わずにいたが、大変なのは通院だった。

「目やにの治療があったので病院に連れて行かなくてはいけないのですが、触れようとするとやっぱりものすごく威嚇されるので、捕まえてキャリーに入れるだけでも腕がボロボロになりました(笑)」

 野良猫の扱いに慣れているシェルターのスタッフが人なれを諦めるようなやまびこなので、その壮絶さは想像にかたくない。しかし、ふたりの通院の苦労がみのり、保護した時は目が開きづらいほどびっしりとついていた目やには、徐々に改善していった。

「ある日、まぶたがぱちっと開いて、きれいなブルーの瞳がはっきりと見えたんです。こんなきれいな目をしていたのね〜!ってふたりで感激したんですよ」。えりさんは足元に横たわるやまびこの頭を優しくなでる。

青い目の猫
目やにが取れ、ぱっちりと目が開くときれいなブルーアイだった(ひろさん提供)

時間をかけて、ゆっくりと信頼を

 ところで、威嚇がひどかったやまびことの距離は、どんなふうに縮まったのだろうか。ひろさんは、「触れるようになるまで半年くらいかかったかなあ」と話す。

「生活音には常に気をつけていましたね。特に苦手なのがポリ袋のカシャカシャ音と洋服についた猫の毛を払う時のパンパンという音。毛を払うときはいつも、やまびこに音が聞こえない部屋まで移動していましたね」

 その口調は何げないが、警戒心の強いやまびこのために、日常に小さなルールを積み重ねていくのは容易ではなかったはずだ。

「時間がかかることは承知で引き取ったので、やまびこが嫌がることは避けて、ゆっくりゆっくり信頼を積み重ねましたね」とえりさん。無理に距離を縮めようとせず、程よい距離で見守りながら、この居場所が怖くないことを少しずつ教えていった。

猫と男性
ふたりが触れるようになるまでは、半年ほどかかった(ひろさん提供)

 はじめてやまびことの距離が縮まったと感じたのは、2017年の冬。ある日、寝室で寝ているえりさんの枕元に、やまびこがやってきてそっとまるまった。「やまびこがいる!」。気づいたえりさんは、驚かせたら逃げてしまうかもしれないと、寝返りも打たずにその気配を感じながら眠った。

 その日を境に、やまびこは野良猫時代の警戒心を捨て、ひろさんやえりさんの前でおなかを見せてくつろぐ姿をみせるようになったという。

“4人家族”で「自然体で暮らしたい」

 やまびこが夫婦の家族になった一年後の2018年3月、夫婦は「おーあみ避難所」から新たな家族を迎えた。茶白猫のQ太郎(雄・10歳)だ。

「シェルターでは1匹行動を好んでいたやまびこのために、猫同士よりも人間と過ごすことが好きな猫を迎えようと思っていました」とひろさん。甘えん坊で人懐っこいQ太郎も、えりさんの一目ぼれだった。

2匹の猫
人好きのQ太郎(右)は、やまびこの1年後に家族になった(ひろさん提供)

 性格は正反対のやまびことQ太郎だが、ひろさんによると、2匹の相性は悪くない。

「やまびこはQ太郎から影響を受けていますね。Q太郎はごはんの前に爪とぎをする習慣があるのですが、それをみていたやまびこは、爪とぎをしたらごはんがもらえると勘違い。今ではごはんの前に2匹そろってバリバリやってます(笑)」

 えりさんも、「Q太郎は、頭から布団に入っていって、布団の中で方向転換をして、上手に顔を出して寝るんです。そのしぐさを見ていたやまびこもまねをして布団に入るようになって、今では2匹に挟まれて寝ています」と、ぜいたくなエピソードを明かしてくれる。

「人間も、猫たちも、お互いに自然な距離で、無理せず穏やかに暮らしていきたいね」。ひろさんはえりさんにそう問いかけ、えりさんはやまびことQ太郎をなでながらうなずく。

2匹の猫
一匹おおかみだったやまびこ(左)も、Q太郎(右)とは打ち解けた(ひろさん提供)

 誰もが譲渡を諦めていた、”野良猫かあちゃん”の姿は過去のもの。仲良し夫婦と程よい距離感の猫兄弟の前で、やまびこは今、のんびりやで甘えん坊な本当の姿を見せている。

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おーあみ避難所
【ワンちゃん・ネコちゃん譲渡会】
日時:12月13日(日)12~15時
場所:島忠ホームズ新山下店(神奈川県横浜市中区新山下2-12-34)
主催:おーあみ避難所/共催:Dog-Nuts(ドーナッツ)
*3密対策のため、当日11時30分から整理券を配布します。

◆おーあみ避難所の活動の様子はホームページをご覧ください

原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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