病気の早期発見をめざすハイテク猫トイレ ITでおしっこの量や頻度をチェック

猫トイレと男性と女性
トレッタの説明をしてくれた松原さん(右)と浅見先生(左)。浅見先生は毎日モニターで刻々と届く猫のトイレデータをチェックし続けている。「おそらく日本で一番、猫がトイレにいるところを見ている人間です(笑)」

 「猫がなりやすい病気」である膀胱炎や腎臓疾患を早期に発見しやすくなるトイレが、話題を呼んでいる。

(末尾に写真特集があります)

シャイな猫社員がいる会社

 江の島が見渡せるビーチサイドに、その会社はある。株式会社トレッタキャッツ。ITを利用したハイテク猫トイレで話題の会社だ。

一歩足を踏み入れると、オフィスの天井付近にはぐるりとキャットウォークが。壁のあちこちに爪とぎの跡もある。

2匹の猫とノートパソコン
猫社員もデータをチェック中? うーちゃん(手前)とちゃま(奥)は同じときに保護された仲良し2匹。あまりに仲良しで、一緒に引き取ってくれる人を探していたところ、トレッタに「就職」することに


「元保護猫の2匹、うーちゃん(メス)とちゃま(オス)の2匹の猫社員がいます。トレッタの開発にも全面的に協力してくれたんですよ」。取締役COOの松原あゆみさんが笑いながら説明してくれた。

「彼らの肩書はCTO。チーフ・トイレット・オフィサーの略です。とてもシャイなので、昼間(人間社員が出入りする間)はほとんど別室で過ごしていますが、みんなが帰った後は、ここが彼らの社員寮です(笑)」

 2匹の全面協力によって完成したというトレッタは試作から量産体制に向けて幾度もの難関を乗り越え、当初の発売予定から約1年遅れで完成した力作。2019年秋から発売を開始。ほぼ1年経った今、全国で約5500匹の猫が登録。毎日のおしっこの排泄状況をデジタルで管理している。

 具体的にどんな商品なのか、どう役立つのか聞いてみた。

おしっこの量や頻度で病気を早期発見!

 トレッタはハーフドームタイプの猫トイレ。砂は専用品ではなく、一般的なシステムトイレ用の猫砂(尿がしみこまないタイプのもの)と、ペットシーツを使用する。

 猫がおしっこをすると、水分はすべて下のトレーに集まる。トレーにペットシーツを敷いておいて、取り換えるのはシーツだけだ(猫砂は衛生上、ひと月に1度程度の頻度で入れ替える)。

猫トイレ
これがトイレのしくみ。トイレそのものはフレームにカメラがついていることと、下のボードにセンサーがある以外は普通の猫トイレ。センサー部分以外は水洗いもできる

 トレッタでわかることは、次のとおり。

1.体重
 猫がトイレに入ると同時に、体重を測定。

2.猫の顔認識
 トイレに入室と同時にカメラが撮影をスタート。飼い主のスマホに画像とデータが届く。(※そっくりな猫が複数いる場合でも、飼い主が数回、スマホで猫の画像を見て名前を指定することで、AIが学習。自動で見分けられるようになる)

3.滞在時間 
 トイレ内にその猫がどれだけいたか。入ってから出るまでの時間を計測。

4.尿量 
入った時の体重と、出る時の体重を計測。その差から、排泄した尿の量がわかる。

5.頻度
 その日1日に同じ猫が何回トイレに入ったか。

6.経過(時間) 
 同じ猫が、前回トイレに入った時間から次に入る時間の間隔を記録。

 これらのデータはすべて、あらかじめアプリをダウンロードしたスマホに転送され、データが蓄積される。飼い主は外出先から、各種数値はもちろん、愛猫のトイレ姿を動画でチェックできる。

異常なデータは飼い主にお知らせ

 これらの情報で、何がわかるのだろうか?同社が併設しているトレッタねこ病院院長で獣医師の浅見優樹先生に聞いた。

「例えば膀胱炎などの病気がある場合、猫は頻尿になります。健康な猫のトイレに入る回数は1日平均5回程度ですが、おしっこが出ない・排尿しきれないなどのトラブルがあるときは、数十回もトイレに通う子もいます。また、腎臓病などの場合はおしっこの量が多い多尿の症状もあらわれます」

 極端に回数が多い、トイレにこもったきりなかなか出て行かない、おしっこの量が多いなど、何らかのトラブルが予想できる。

スマホ画面
スマホ画面の一例。多頭飼育でも猫はAIが顔認定で区別してくれる。血尿などの異常がある場合も、シーツにしみこんだ尿の色と場所で、どの子がしたかがわかる。トイレの回数や尿量はグラフで推移がわかる

「データを継続的に蓄積することで、体重の増減はもちろん、おしっこの頻度、量の変化がわかります。トレッタのデータはすべて、当社のサーバーにも蓄積されているので、異常なデータがあれば、こちらから飼い主さんのLINEやメールでお知らせします。『○○ちゃんのおしっこの量が減っているようです』とか『極端に頻尿なので、一度動物病院を受診することをお勧めします』という具合です」

有料のトイレシステムは高いか?安いか?

 費用はどれくらいかかるのだろうか。トレッタ本体は1台19,800円(税別)だ。アプリの利用料金はプランはライト・ベーシック・プレミアムの3通り。

・ライトプラン 月額798円(税別・猫何匹でも)
 データと動画が確認・蓄積できるのみ。獣医師によるチェックなし。

・ベーシックプラン 月額1,111円(税別・猫1匹あたり) 
 データと動画がスマホで確認・蓄積できるほか、獣医師による遠隔アドバイス(LINEまたはメール)が受けられる。(※多頭飼育の場合、2匹目から半額)

・プレミアムプラン 月額2,222円(税別・猫1匹あたり) 
 ベーシックプランに加え、年1回、往診による健康診断が受けられる(現在、関東地方のみ)。(※多頭飼育の場合、2匹目から半額)

見上げる猫
優しい男の子、ちゃま。推定年齢は6歳。結石性膀胱炎に悩まされたが、トレッタのモニタリングでいち早く発見され、重症化することなく治療を受けられた

 つまり、初期費用に2万円ほどかかり、以降は猫1匹の場合、プレミアムプランなら年間3万円近く(税込み)かかる計算だ。

「高齢になると、半数以上が腎臓系の病気になることがわかっていますし、健康診断の費用も(獣医師によるが)1回につき1万円から1万数千円。それを込みと考えると、実質トイレにかかるお金は月1000円ほど、になります」(松原さん)

 腎臓病は早期発見、早期治療することで進行を遅らせることができる。猫の健康を維持して、健康的な寿命を延ばすことができれば、結果的に猫も人も幸せになれるはず。最新のテクノロジーを利用したユニークな取り組みと言えそうだ。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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