人と猫の平和を目指して 猫が多い町・長崎で「猫問題」を調査

 外にいる猫を大切に可愛がる人もいれば、糞尿や発情時の鳴き声などの被害に困る人もいる。両者の対立は、殺処分の引き金となる。ノラ猫や外飼いの猫が多い長崎市で住民と猫との関わりを調査しながら、人と猫の共生を目指す「長崎の町ねこ調査隊塾」を取材した。

(文末に写真特集があります)

 港町の文化が残る長崎市。大部分が斜面地という独特な町並みで、狭くて急な坂道や階段が入り組んでいる。車が入りにくく、猫のロードキルが起きにくい環境。加えて、比較的温暖な気候という繁殖条件。そのためか、外を歩いているとよく猫に出会う。

 しかし、町の中で繁殖する猫が増えれば、猫をめぐるトラブルが起きやすい。トラブルはときに深刻な対立をもたらし、殺処分へとつながっていく。2017年度に長崎市が引き取った猫の数は成猫が113匹、子猫が930匹。殺処分数は全国の中核市でワースト1の926匹だった(環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」参照。引取り数・殺処分数は、負傷による収容を除く)。

曲がりくねった迷路のような階段に猫の姿が
曲がりくねった迷路のような階段に猫の姿が

 そんな“猫の町”で、外の猫の実態調査を続けている団体がある。現在、15名のメンバーが所属する「長崎の町ねこ調査隊塾」。市民と行政が協働して町づくりを行う事業「長崎伝習所」の塾の一つとして、塾長の中島由美子さん(63)が中心となり、8年前に活動をスタートさせた。

その土地ならではの「猫問題」がある

 調査隊塾は、ノラ猫や室内外へ自由に行き来する猫などを「町ねこ」と総称して観察・記録し、猫問題を解決するヒントを探る。中島さんが語る願いは、「平和の町・長崎で、人も猫も平和に暮らしていくこと」。平和を伝えていく町にいながら、殺処分によって命を落としていく存在に心を痛めていたそうだ。

 中島さんは、最近の猫問題の傾向として、「地理的条件と高齢化の関係」を指摘する。

「高齢者が多い地域で、空き家や空き地が目立つようになってきました。急な斜面地では年をとると暮らせなくなり、引っ越しせざるを得ないんですよね。残された廃屋や草むらは、母猫にとって安心して子育てできる場所。こういうところに猫が増えやすいんです」

「長崎の町ねこ調査隊塾」の塾長・中島由美子さん
「長崎の町ねこ調査隊塾」の塾長・中島由美子さん

猫を嫌う人の多くは、猫困りさん

 町ねこの調査は、長年にわたってノラ猫の研究を行う動物学者・山根明弘さん から教わった方法がベースになっている。調査地域を細かいエリアに分割し、それぞれに繰り返し通う。出会った猫を撮影し、身体的な特徴や健康状態などをカルテにまとめる。このように「個体識別」を行い、猫がいた地点をマッピングしながらエリア内の頭数を推測。1haあたりの「猫密度」を割り出していく。

 同時に、猫に対する「住民感情」も調査する。例えば、猫の被害に困っている家には猫除けが置いてある。猫密度が高い区域ではペットボトルやトゲトゲがたくさん並べられるなど、猫をめぐる感情の対立はこうしたサインからも見えてくるという。

「調査中は、調査隊塾の腕章を付けるんですね。そうすると、住民のほうから『何やってるの?』と興味を持って話しかけてくれて、自然と対策の相談にもつながります。お話ししてわかるのは、町から猫を排除したいと考える人のほとんどは、猫を嫌う“悪者”ではなく、“猫困りさん”ということ。猫の糞尿や鳴き声に困り、快適な住環境を取り戻したいんです。猫好きさんの中にも、猫困りさんがいます」

塾生による町ねこ調査の様子(中島さん提供)
塾生による町ねこ調査の様子(中島さん提供)

調査内容を数値化し、猫問題の対策に役立てる

 調査の重要性について、「客観的なデータの蓄積があれば、感情論を避けることになる」と中島さんは話す。

「調査隊塾立ち上げの頃は、ほとんどの町ねこが不妊去勢手術をしていませんでしたが、市の『まちねこ不妊化手術助成事業』の2014年度の開始以降、個人のボランティアや地域猫活動を行う市民のボランティアグループ、自治会などから申請があった地域のうち、猫問題の深刻度の高いエリアから優先的にTNR(T:捕獲、N:不妊去勢手術、R:元の場所に戻す)が進められています。例えば、不妊去勢手術済みの町ねこが8割を超えるとある地域では、2015年から年間約10匹ずつ猫の数が減っています。こうしたデータの収集は、TNRの効果を評価するのに役立ちます」

 毎年の調査結果は、長崎市動物管理センターに提供しているという。

 2018年度の長崎市の殺処分数は545匹。2017年度に比べて譲渡数が31匹減少しているのにもかかわらず、殺処分数も381匹減少した。引き取った猫の数が398匹減ったことが、大きな理由として考えられる。

長崎市の犬・猫の引き取り数・殺処分数・譲渡数データ(2017年度:環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」参照/2018年度:長崎市動物管理センター提供の情報参照。引取り数・殺処分数は、負傷による収容を除く)
長崎市の犬・猫の引き取り数・殺処分数・譲渡数データ(2017年度:環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」参照/2018年度:長崎市動物管理センター提供の情報参照。引取り数・殺処分数は、負傷による収容を除く)

TNR済みの町ねこ。耳カットが目印(中島さん提供)
TNR済みの町ねこ。耳カットが目印(中島さん提供)

行政と協力し、地域社会の中で猫を考える

 調査によって、エリアごとの「違い」も見えてくる。

 皮膚病の猫がたくさんいた地域では、住民たちの協力でTNRと医療ケアを施し、猫たちの健康状態が回復。適切な管理を続け、糞尿のニオイもなくなっていったそうだ。一方で、若い世代が離れて人口が減ったのに猫の数が増えていった地域も。ここでは、高齢者の餌やりが大きな原因となっていた。

「餌やりさんには、一人暮らしで孤独を抱える高齢者も多いですね。こうしたケースで対応を進める場合は配慮が必要です。私たちからTNRや適正飼育の説得をするだけではなく、高齢者の支援センターとの連携も視野に入れます。猫のトラブルは、社会が抱えている問題ともリンクしている。だからこそ、猫のことだけを考えるのではなく、行政と協力しながら地域社会の中で猫を考える、ということが必要なんだと思うんです」

「長崎の町ねこ調査隊塾」Facebook

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本木文恵
1983年生まれ。編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。2007年より猫に関連する雑誌・書籍の編集や執筆を行う。2017年に独立。担当した近著に『保護ねこのきもち(ベネッセ・ムック)』、「with PETs(日本愛玩動物協会の機関誌)『猫を知る』特集号」、『ねこがかわいいだけ展 公式ねこ本』など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。人と猫のためのwebマガジン「neco-necco(https://neco-necco.net/)」運営。

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