日本に猫がやって来た! 伝来の新事実、続々と発見

猫はいつ日本に?
猫はいつ日本に?

 前回は、人類と猫が最初に関係をもったとされる、1万年前のメソポタミアでの出来事についてお話ししました。今回は、日本に猫がいつ頃やってきたのか? についてお話ししたいと思います。

猫の足跡がついた須恵器

 メソポタミアから古代エジプトに伝わった猫は、そこで家畜化がほぼ完了し、現在の猫の姿になったと言われています。そののち、地中海を渡ってヨーロッパにも広がっていきます。さらにその後、長い旅をへて中国に伝わり、そして中国から日本へ持ち込まれたと考えられています。

 つい最近まで、中国から日本に渡ってきた年代は、奈良時代から平安時代の初期頃(1200〜1300年前)とされてきました。一説によると、中国からのありがたい仏教の経典と、ネズミから経典を守る猫がセットで日本に渡ってきたとのことです。しかし、10年ほど前に行われた遺跡の発掘によって、猫伝来の時期はさらにさかのぼることとなります。

 その歴史を塗り替える証拠は、2007年に兵庫県姫路市の見野古墳から発見されました。その遺跡から猫の足跡のついた須恵器が見つかったのです。この足跡は誰が見ても猫の足跡、少なくともこの須恵器が作られた時点で、日本に猫がいたという決定的な証拠です。おそらく、ろくろを回して作った器は、窯で焼く前に、台か何かの上にところ狭しと並べられて乾燥させていたのでしょう。そこを、当時の猫がキャットウォークを渡るように歩いていたところ、バランスを崩すか何かして、まだ柔らかい器を踏んでしまったのでしょう。その状況をイメージすると、なんだか可笑しいですね。踏んでしまった猫も、きまりの悪い顔をしていたに違いありません。

見野古墳から出土した動物足形付須恵器=姫路市埋蔵文化財センター提供
見野古墳から出土した動物足形付須恵器=姫路市埋蔵文化財センター提供

 ともあれ、この猫のひと踏みが、日本への猫の伝来の歴史を塗り替えたのです。今からおよそ1400年前の、古墳時代後期か飛鳥時代には、猫が確実に日本に存在していたという証拠となりました。

弥生時代には猫がいた

 その後もさらに発見は続きます。その翌年の2008年、長崎県壱岐島のカラカミ遺跡から、魚やヘビ、シカやイノシシの骨に混じって、十数点の猫の骨が見つかりました。年代を推定した結果、これらの骨は今から2100年前の弥生時代のものであることが判明しました。この発見によって、日本への猫伝来の時期がいっきに700年もさかのぼることになりました。

 中国に猫が伝えられたのが今から2000年前と言われています。そうすると中国に猫がやってきたのとほぼ同じ時期に、あるいはそれよりも早く、日本の壱岐島に猫が伝わったこととなります。もしかするとまだ知られていない別のルートで、猫は日本にやってきたのかもしれません。たとえば、海路でインドや東南アジア方面から船に乗せられて直接日本に、とか。まだ明らかになっていない埋もれた歴史の中に、日本への猫伝来の真実があるのかもしれません。今後も、遺跡の発掘やDNA解析などによって、ぞくぞくと新事実が明らかになっていくに違いありません。猫好きの私たちは、その発見を固唾を飲んで見守ることにいたしましょう。

参考文献
姫路市教育委員会、「姫路市見野古墳群発掘調査報告」、平成21年3月.
宮本一夫編、「壱岐カラカミ遺跡I -カラカミ遺跡東亞考古学会第2地点の発掘調査-」、平成20年3月.

山根明弘
1966年兵庫県生まれ。九州大学理学部卒、理学博士、動物学者。西南学院大学人間科学部教授。専門は動物生態学、集団遺伝学。30年前より福岡県・相島にてフィールドワーク、ノラネコの生態の研究を行っている。

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この連載について
ねこと暮らして1万年
猫が人間のそばで暮らして1万年。猫島にてフィールドワークを行う動物学者が、猫の生態や歴史、人との共存のありかたまで幅広く解き明かします。
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