メスネコの“モテる秘訣” 大切なのは若さより「子育て上手」
前回はケンカに強いオスネコのお話をしました。今回もノラネコロジー(ノラネコの生態学)のお話です。猫の社会では、どんなメスがオスにモテるのかについて、お話ししてみようと思います。
発情中のメスネコは、まるで「女王さま」
一年でいちばん昼間の短い冬至(12月22日ころ)を過ぎると、毎日、少しずつですが昼間の時間が長くなっていきます。この日長の変化に刺激をうけて、メスネコの体のなかでは、子供を産むための準備が始まります。そして1月に入ると、それは突然に始まります。メスの発情です。
メスネコが発情すると、オスとの交尾と妊娠が可能になります。人間の嗅覚には(少なくとも私には)感じられませんが、発情メスの尿や体からは、強烈なフェロモンのような物質が発せられ、たくさんのオスネコたちが引き寄せられます。集まったオスたちは、発情メスを取り囲み、さかんに求愛します。オスは、「グルグル」「グーグー」といった優しい鳴き声で求愛しますが、強引に接近しようものなら、メスネコから手痛いネコパンチをお見舞いされてしまいます。
このようにたくさんの求愛オスに囲まれたメスネコのことを、海外ではQueen(女王さま)と呼んでいます。メスが移動すれば、まわりのオスたちも、ぞろぞろとそれについてゆきます。通常、1匹の発情メスのまわりには、数匹のオスが求愛していますが、私がこれまでに観察した最高記録は20匹です。多くのオスを従えて歩くさまは、まさに女王さまのようです。
猫の世界では、若いメスはあまりモテない
さて、ノラネコの社会では、どのようなメスがたくさんのオスを惹きつける、いわゆる「モテるメス」なのでしょうか? 人間の社会では、若い女性が男性からチヤホヤされたりするようにも思えますが、ノラネコではどうなのでしょうか?
実は、ノラネコの社会では、若いメスはあまりモテません。若いメスが発情しても、それほど多くのオスが求愛に来ないのです。生後まだ1年程度の、初めて発情した若いメスなどには、1、2匹程度の、しかも若いオスしか求愛に訪れません。
では、どのようなメスがたくさんのオスを惹きつけるのでしょうか? それは、これまでに何度も出産し、しかも無事に子供たちを育てあげた経験豊富なメスなのです。
10歳の高齢猫なのにモテモテの「ミュー」
福岡の相島には10歳を超えるミューという名前のメスネコがいました(残念なことに昨年4月に亡くなりました)。ミューは子育てがとても上手く、またとても頭の良い猫でもありました。そして、これまでに何匹もの子供を育て上げてきました。ノラネコで10歳を超えれば、かなりの高齢の部類に入りますが、ミューが発情すれば、常に数匹の強いオスたちからの求愛を受けていました。
なぜ、高齢メスであるミューは、オスからモテるのでしょうか? それは、オスにしてみれば、子育て経験が豊富なミューは、自分の子供を無事に育てあげてくれる可能性が高いからです。一方、未経験の若いメスは、出産や子育てに失敗することが多く、次世代に自分の子供を残す可能性が低いからです。
動物の社会を観察していると、私たち人間の社会での常識との違いに、「あれっ」と思うことがよくあります。なかには、私たち人間にはとてもかわいそうであったり、残酷に思えることを目撃することもあります。しかしこれは、動物たちは自分の子供(あるいは遺伝子)を、次の世代になるべくたくさん残すために、合理的に行動しているからなのです。そうでなければ、その動物は、とっくの昔に絶滅してしまっていたでしょう。
私たちはこのような動物の生きざまをよく知ったうえで、そしてそれを尊重しながら、お互いに共存する方法を見出してゆく必要があるのだと、私は思います。
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