猫と人類はどこで出会った？　愛猫のもとはリビアヤマネコ

　わたしたち人間のそばで寄り添いながら生きている猫。そもそも「猫」とはどういう生き物なのでしょうか？ 少し、生物学的な視点から見てみましょう。

「イエネコ」は人間が作った動物

　みなさんと家のなかで一緒に暮らしている「飼い猫」や、街のなかで暮らす「野良猫」は、生物学的には「イエネコ」と呼ばれる動物です。ほかにも、住む場所や生活の仕方の違いによって「町ねこ」や「島猫」さらには「ノネコ」などと呼ばれる猫もいますが、これも同じく「イエネコ」に分類されます。

　では、イリオモテヤマネコやツシマヤマネコなどの日本に生息する野生のヤマネコはどうでしょうか？ これは、分類学的には「イエネコ」とは全く別の動物です。イエネコと交雑して子孫を残すこともありません。

　この「イエネコ」は大昔からこの地球上に存在していたわけではありません。「イエネコ」は人間が作り出した動物、つまり牛や豚、それに犬と同じ「家畜」なのです。家畜にはその元となった野生の動物（原種）が存在します。豚の原種はイノシシ、犬はオオカミ、牛はオーロックス（すでに絶滅）といった野生動物が原種であると言われています。では、猫の場合、原種となったのはどのような野生動物なのでしょうか？ それは、現在もアフリカ北部やアラビア半島などに生息している、「リビアヤマネコ」という野生のネコです。

　リビアヤマネコは、外見や身体の大きさはイエネコとあまり変わりません。手足が少し長く、身体も少し大きいくらいです。毛柄も薄い縞模様のものが多く、同じような毛柄を持ったノラネコを街中で見かけることもあるくらいです。一方、犬の場合は、原種のオオカミとは似ても似つかぬ犬種も多数存在し、イエネコとは対照的です。この理由については、また別のところでお話ししようと思います。

人と子猫を一緒に埋葬

　さて、わたしたち人類は、いったいいつ頃、そしてどこでリビアヤマネコと出会い、現在に続く関係を持ち始めたのでしょうか？ つい最近まで両者の最初の出会いは、古代エジプトではないかと言われていました。それは、古代エジプトの壁画に、猫の姿が度々登場しているからです。しかしながら、最近の遺跡発掘の証拠やDNA解析の結果から、どうやらそれは正しくない可能性が高くなってきました。

　ひとつの大きな証拠は、東地中海に浮かぶキプロス島での発見です。キプロス島は先史時代からの地中海交易の要衝であり、それぞれの時代の遺跡が残されています。その遺跡のひとつ、およそ9,500年前のシロウロカンボス遺跡からは、人とリビアヤマネコの子猫が一緒に埋葬されているのが見つかりました。そのほかにも副葬品として、火打石や石斧などの当時の生活必需品も見つかっています。

　これらの発見は、いったい何を意味しているのでしょうか？ 少なくとも、当時キプロス島に住んでいた人たちにとって、リビアヤマネコは生活に欠かすことのできない必需品のような存在だったのではないでしょうか。あの世でも、生活に困らないようにと、一緒に埋葬されたのだと考えられます。

　では、このキプロス島が人類と猫が最初に出会い、関係を持ち始めた記念すべき場所ということなのでしょうか？ 実はこれは正しくないようです。そもそもキプロス島には、野生のリビアヤマネコはもともと生息していなかったからです。つまり、それ以前にどこか別の場所で、人類と猫との最初の出会いがあり、その後に少しは家畜化が進んだリビアヤマネコが、キプロス島に持ち込まれたことになります。

　では、その最初の場所とはどこなのか？ それは、キプロス島からそれほど遠くない、メソポタミアの地であると考えられています。メソポタミアにおける、人類と猫の最初のドラマティックな出会いについては、次回にお話ししたいと思います。