マンホールの下へ落ちた猫「ドロップ」 テレビとは違う救出劇!

 神奈川県茅ヶ崎市にある、スムージーやアサイーボウルなどを専門に扱う人気店「ラチエンスムージー」へ向かう。茅ヶ崎駅のタクシー乗り場で運転手に行き先を告げると、「ああ、あそこね! アボカドトーストが美味しいんだよね」と、地元でも評判の様子。

(末尾に写真特集があります)

 訪れた店内では、「Love &Co.」(以下ラブコ)のコーヒーやグッズが販売されていた。ラブコは保護猫たちをラベルにしたコーヒーや、オリジナルのグッズの売り上げをもとに保護・譲渡活動を行い、シェルターを運営する団体だ。

「ラチエンスムージーを始めてしばらくしてから迎えた保護猫たちがあまりにも可愛くて、大好きで。この子たちも引き取り手がいなければ処分されていたかもしれない。保護猫を迎える選択肢や魅力をもっと知ってほしい。そう考えてお店としてできることを探していたときにラブコさんに辿り着きました」と、店長の橋本京子さん(38)は話す。

 店ではラブコの商品を購入・販売するほか、店舗の売り上げから毎月ラブコへ寄付を行っているという。

「ラブコさんから保護猫を迎えた方や活動を支援する方が、常連さんになってくれています。名古屋や北海道などの遠方からも来てくれて。保護猫がつないでくれたご縁ですね」

 橋本さん夫妻が現在自宅で飼っている2匹の猫も、先住猫たちを病気で亡くしたのち、2017年3月にラブコから迎えた。そのうち1匹「ドロップ」ちゃんが保護されるまでにはドラマがあったという。

スムージーをつくる「ラチエンスムージー」店長の橋本京子さん
スムージーをつくる「ラチエンスムージー」店長の橋本京子さん

店内で取り扱う「Love &Co.」(ラブコ)のコーヒー
店内で取り扱う「Love &Co.」(ラブコ)のコーヒー

 ドロップちゃんは、ラブコの代表・今村友美さん(43)がシェルターを立ち上げる以前の2013年11月に自ら保護した猫だ。今村さんがマンションを出た先の寺の敷地内に入ると、か細い猫の声がする。しかし周囲を見渡しても姿が見つからない。次の日になってもまだ聞こえる。

「……地面の下だ」

 足元にはマンホール。蓋をこじ開けようにも、女性1人の力ではびくともしない。寺の住職に伝えるが、休日のため工事を請け負った会社とも連絡が取れず、そのうち日が暮れてしまう。今村さんは焦る気持ちを抑えながら、糸の先に団子状にしたウエットフードや茹でササミを括り付け、マンホールの蓋の穴から垂らして食事を与える。

 翌日、作業は数日先になってしまうことが判明。今村さんは住職に許可を取って119に電話する。そこからは、よくニュースに登場する消防隊による子猫救出劇に……は、ならなかった。「危険があるため人命救助を伴わない救助は難しい」という説明だ。消防隊は出動してくれるも、マンホールの蓋を開けてくれたのは、今村さんが住むマンションの管理人の男性だった。

 蓋が開くと、黒っぽい子猫の姿が確認できた。しかし、驚いた子猫は横に伸びる円筒状の細い通路へ。今村さんが手を伸ばしても届かず、救助を試みるうちに子猫は姿を消してしまう。通路の先には「貯水池」。深さは3m近くあった。子猫は貯水池に落ちてしまったのだ。

マンホール下の通路で佇むドロップちゃん。このあと貯水池へ落下(今村友美さん提供)
マンホール下の通路で佇むドロップちゃん。このあと貯水池へ落下(今村友美さん提供)

「死んでしまったかもしれない」

 不安を抱えたまま別のマンホールからはしごを降り、真っ暗闇の貯水池へ。頭上からは、今村さんの安否を確認する消防隊の声が数分おきに聞こえる。底は泥だらけだが幸い水位は低く、歩き進めるうちに奥で光る目を発見。網と洗濯ネットを手に近づき、子猫を捕獲した。泥にまみれて震えていたが、落下の際に泥がクッション代わりになっていたようでケガはなかった。

 マンホールの下から鳴き声がすることに気づいてから、24時間が経っていた。

 後日、同じ寺の敷地内に、母猫と姉妹猫の5匹のメスも発見。また子猫が生まれて落ちることがないように、今村さんは全頭保護した。

救出当日のドロップちゃん(今村友美さん提供)
救出当日のドロップちゃん(今村友美さん提供)

 マンホールに「落ちていた」から、「ドロップ」ちゃん。救出後は今村さんの自宅で里親を募集する。しかし、ほかの姉妹猫たちに続々と新しい飼い主が決まる中、ドロップちゃんは人を怖がり続けた。2年半お世話し、ラブコの設立後は人慣れ修行のためシェルターへ。齢はすでに3才。一般的に成猫は譲渡希望者が少ないが、ドロップちゃんも例にもれず、引き取り手がなかなか現れなかった。

 そんなときに「おとな猫を迎えたい」という橋本さんが声をかけ、ドロップちゃんとカップルのように仲睦まじかった「スイカ」くん(現在2才)とともに迎えることになった。

 取材の際、橋本さんの自宅で対面したドロップちゃんは、人を怖がらなくなっていた。姿を隠すことなく、マイペースに日向ぼっこを楽しんでいる。橋本さんが取り出したじゃらしおもちゃを見ると目つきを変え、夢中で追いかける。活発な動きとは裏腹に、か細い声で鳴いた。

「こんなかわいい声で、鳴いて助けを求めていたんですよね」

 そう話す橋本さんの傍らで、ドロップちゃんはおしりをつき上げて、なでてもらうのを待っている。橋本さんはこう続ける。

「おとな猫の里親になる魅力は、時間をかけて少しずつ距離を縮め、信頼関係をつくっていく喜びです。毎日愛情を与えれば、必ず通じると日々感じています。ドロップもスイカもすっかりやさしい飼い猫の顔になりました。1匹でも多くの猫たちに同じ幸せをつかんでほしいです」

橋本さんにしっぽの付け根をポンポンされて喜ぶドロップちゃん
橋本さんにしっぽの付け根をポンポンされて喜ぶドロップちゃん

(本木文恵)

ラチエンスムージー
神奈川県茅ケ崎市東海岸北5-15-68
定休日:月曜日、第1火曜日
HP:https://www.rachiensmoothie.jp/
instagram:@rachiensmoothie
※ドロップちゃんとスイカくんはお店にはいません
一般社団法人 LOVE & Co. (ラブアンドコー)
2016年3月設立。代表理事でデザイナーの今村友美さん、理事でディレクターの矢沢苑子さんの2人で活動。飼い主のいない犬猫の保護・譲渡活動を行いながら、里親募集を兼ねたコーヒーや雑貨を販売し、売り上げを活動資金に充てている。
HP:http://love-and-co.net/
instagram:@loveandco_coffee
本木文恵
1983年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。猫雑誌の編集部に約8年在籍し、猫に関する取材、書籍やムック制作を行う。2017年に独立。編集を担当した近著に『保護ねこのきもち(ベネッセ・ムック)』など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。

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この特集について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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