出会いは家具店 本好き夫婦の家にやって来た小さな保護猫
人が集まりやすい商業施設で、保護犬や保護猫の譲渡会が開かれるようになった。ある本好きな夫婦は今年9月、本棚を探しに行った家具店で、生後4カ月のメスの子猫に出会った。そして、その猫に「ハマチ」と名前をつけて飼い始めた。2人には初めての猫だ。
東京都足立区、駅から少し離れた静かなマンションに、その共働き夫婦が住んでいる。最近、子猫を迎えたばかりだ。
居間のカラフルなソファから、白黒猫がぴょんと飛び降りた。
「名前はハマチといいます、生後4カ月半の女の子です」
飼い主の彩江さん(42)が紹介をすると、夫の智樹さん(45)がチャームポイントや性格を説明してくれた。
「口元にセクシーボクロがあるんです。“かまってちゃん”で、けっこうプライドは高い」
2人は結婚13年目。マンションを買って10年経つが、猫と暮らすのは、これが初めてだ。案内されて奥の部屋にいくと、壁に真新しい本棚があり、中央に真新しいケージや、キャットタワーが置いてあった。
「ここが書斎兼、猫部屋です。この本棚とハマチは同じ所から来ました。というか、本棚を見にいったら、この子と出会ったんですよ」
ずっと猫を飼いたかった
夫婦は本好きで、村上春樹の小説など、たくさんの蔵書がある。3LDKの1部屋を書斎にしたいと考え、ひと月前、近所の家具店に本棚を探しに行った。そこにはピンとくるものがなく、車で40分かけて、埼玉県にある大型店「IKEA」(イケア)に行くと、店の前に人だかりができていた。
「あれ?と見ると、ワンちゃんや猫ちゃんがいて、譲渡会をやっていたんです。驚いて、本棚より猫のことで頭がいっぱいになりました」
というのも、ここ数年、彩江さんは猫が欲しくて仕方がなかったからだ。日々、ペットサイトをのぞいては「この子どうかな」と智樹さんに相談していた。
「私は赤ちゃんの頃からずっと犬と暮らし、夫は結婚前に小動物を飼っていて、数年前には保護犬を実家で引き取っていました。私たちも最初は犬を飼おうと考えましたが、共働きで散歩などが難しいため、猫のほうが生活スタイルに合っているかなと思い始めました」
迎えるなら保護猫がいいと考え、探し続けた。彩江さんは少しほこりのアレルギーがあるため、猫と一緒にいても大丈夫か調べるため、猫カフェで何時間も過ごしてみたこともあった。でも、その先の“一歩”が踏み出せなかったのだ。
「犬と猫では飼育法が違うのかなとか、野良の子は初めてだと大変かなとか考えて、不安が先にたっていました。それに、サイトに“共稼ぎは審査が通りにくい”と書かれていたので、自信を失っていました」
おとなしい子猫にくぎ付け
知らずに訪れた譲渡会だったが、多くの保護猫を目にして、彩江さんの思いが膨らんだ。どのケージも人に囲まれていたが、一角だけパッと開いた空間があり、吸い込まれるように近づいた。そこには白黒の小さな猫が寝ていた。
「ぐた~と寝ている姿が可愛くて。ボランティアさんによると、兄弟とともに朝からお声かけがないというんです。メス猫はおとなしく、やんちゃな兄弟を“もう男の子って、しょうがないわね”みたいな感じで見ていると聞いて、とても気にいりました。『この子にする』と夫に言うと、ニコニコうなずいてくれました」
もちろん審査がある。共働きで留守時間が長いことも正直に申込用紙に記し、“だめもと”でチャレンジした。
朗報が届いたのは、その1週間後だった。
「嬉しかったですね。トライアルが決まって、すぐ大きなケージやキャットタワーを買いました。本棚は猫を見た後でお気に入りを見つけて届けてもらっていたので、いきなり家に物が増えましたね(笑)。でも猫グッズを選ぶのも楽しくて」
夫の智樹さんは、猫が届けられる前に、急いで本棚を設置した。
「本棚に扉をつけて、地震などで倒れないように壁に固定しました。うちはキッチンがオープンなので、危なくないように留守中は猫部屋で過ごしてもらい、僕らが仕事から帰ったらドアをあけて、キッチンとつながる広いリビングで一緒に過ごすことにしたんです」
名前も好きな作家にならって
初めての猫の飼育に驚くこともあったという。
「犬はトイレのしつけが大変なこともあるので、猫もそうかと覚悟していたんですが、トイレの砂の上に乗せてあげるとすぐ覚えて。『えっ、そんな簡単に?』と(笑)。猫を飼っている同僚に『4カ月なら大運動会でしょ』と言われたんですが、静かです。でも、遊んで遊んで攻勢はすごい(笑)。抱っこも好きだし、こんなに猫との距離感が近いと思いませんでした」
ハマチが来てからというもの、2人とも夢中で、以前より帰宅が早くなったという。
「僕の方が帰りが早いので、トイレの世話をして、体をふいて、ごはんをあげて、遊んであげる。そうするうちに妻が帰ってきて、夜10時頃から2人で夕食をとります。前は居間の低いテーブルでニュースを見ながら飲んだりしていましたが、ハマチが上らないようにダイニングテーブルで食事するようになりました」
「テレビでなく、ハマチウオッチングしながらね……。家に帰るのが楽しくなりました」
猫に“魚の名”をつけたのは「好きな本が由来」だと智樹さんが教えてくれた。
「村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』に「サワラ」という名の猫が登場し、『羊をめぐる冒険』には「いわし」という名の猫が出てきます。僕も猫に漢字で書ける和の名前をつけたいと思っていたので、ハマチはどうかなと。妻に反対されるかと思ったんですが(笑)、『響きが女の子っぽいし、出世魚だし!』と賛成してくれました」
話を聞いている間、ハマチは小さなカゴにすっぽり入って気持ち良さそうに寝ていた。月齢の割にやや小柄で、体重は2キロ弱だという。お人形のような愛らしさだ。
「動物病院の先生にも、少し小さ目と言われました。でもよく食べるし、よく遊ぶ。これからの成長が楽しみです。来年の今頃はコロコロだったりして」
夫妻がハマチと出会ったIKEA新三郷店の譲渡会には、1日で約5000人の来場者があり、猫40匹、犬5匹に譲渡の申し込みがあったという。11月3日にも同じ会場で、2度目の譲渡会が開かれる。
- 保護犬・保護猫譲渡会@イケア新三郷(第2回)
- 日時:11月3日(土)11:00~15:00
場所:埼玉県三郷市新三郷ららシティ2-2-2 IKEA新三郷店
(JR武蔵野線「新三郷」駅下車すぐ)
主催:みさと動物愛護クラブ
問い合わせ先:事務局:保護猫カフェねこかつ Tel:070-5029-8392 (12~20時)
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