猫は臆病なの? 見知らぬものへの警戒心と好奇心
「お客様が来ると、猫が奥の部屋から出てこない」というのは、飼い猫によくある行動です。警戒心が強く、見知らぬものにストレスを覚える猫は、友好的にお客様を歓迎することは少ないのです。こうした猫の警戒心を「臆病」ととらえる人もいるかもしれませんが、「臆病であること」は、猫が生きていくために必要な性質でもあるのです。ここでは、猫が「見知らぬもの」に対してどのような気持ちを抱くのかについてご紹介します。
動物の本能である警戒心
動物が野生の環境で暮らしていくためには、警戒心を強く持つ必要があります。そうでなければ、あっという間に敵に襲われ、食べられてしまったり、縄張りを奪われたりするからです。
家で飼われている猫は野生動物ではありませんが、このような野生の一面を失わずにいるため、「警戒心が強い」と思われる行動をとることがあります。
■猫が警戒するのは未知のもの
猫は何に対して警戒しているのか?実は、それは「未知のもの」といえるのです。
例えば、猫を檻の中に入れ、その檻を見知らぬ部屋の中に置いて扉を開けてみたとします。すると、猫はすぐに外に出てくることはありません。檻の中にとどまったまま、じっと警戒して様子をうかがい続けることでしょう。
毛づくろいをしたり、周囲を眺めたりしながら、猫はその場所が安全かどうかを見定めます。そして、少しずつ、そろそろと出てきては引っ込むということを繰り返しながら外へと出てくるというのが、猫の行動パターンなのです。
■警戒心の次に訪れる好奇心
そんな警戒心でいっぱいの猫ですが、一度室内を探索し終えると、だんだんと大胆さを見せて、周辺の様子を調べ始めます。これは、猫が周囲を警戒していると同時に、強い好奇心を感じているからだと考えられます。
臆病であることは、野生の世界で生き残るために大切な要素です。しかし、臆病だからといって安全な巣穴に永遠にこもりきっていては、獲物を狩ることはできません。探索心と警戒心を併せ持ち、その時々でどちらの性質も見せるというのは、猫の特徴であり、生存戦略でもあるのです。
未知のものを警戒!その正体とは
未知のものを警戒する(新しいものを怖がる)のは、「ネオフォビア 」と呼ばれる兆候で、猫だけではなく多くの動物が持っている特徴です。以下に、動物によるネオフォビアに関するエピソードをご紹介します。
○トラの場合
ある動物園で、トラの力を測定する実験をしようとしました。ところが、トラは測定器を警戒して、小屋の中から外に出ようとはしなかったのです。これも、「新しいものを警戒(恐怖)」しているからだと考えられます。
○ネズミの場合
ネズミがなかなかネズミ捕りにかからないのも、ネオフォビアがあるからです。ネズミは新しく仕掛けられた罠を警戒しますし、罠に入れられた毒餌をむやみにたくさん食べたりはしません。様子をうかがって、危険がないと感じても、ほんの少しだけかじってみるのです。それで下痢をしてしまったら、ネズミはもう二度と罠にかかったりはしないでしょう。
○猫の場合
「水の入ったペットボトルを猫よけに使う」ということが、流行ったことがありました。猫は、「見慣れないもの」である水が入ったペットボトルを警戒して、その場所へ近づかなくなったのです。しかし、それにはいつか慣れてしまいますから、この方法でいつまでも猫を排除し続けることはできませんでした。
慣れた所もパトロール
猫は、毎日自分の縄張りをくまなくチェックしています。それは外猫だけでなく、家の中で飼われている猫も同様です。そこが、人間にとってはいつもと同じ家の中に見えたとしても、猫にとっては、「スリッパの場所が違う」「昨日とは違う食べ物の匂いがする」「ポットがいつもの場所にない」など、毎日たくさんの変化があるのです。
慣れた所であっても、こうして常にパトロールし、未知なるものがないかチェックしているのです。
■縄張りに未知なるものがあったときは
もし、縄張りに未知なるものがあった場合、猫は警戒し、それがどういったものなのかチェックします。
しかし、人間は時々、猫の手が届かないような場所に新しく買ってきた花を飾ったりします。すると、猫は未知なるものをチェックできずにイライラして、「トイレではない場所でおしっこをする」といった“反撃”に出るのです。これは、猫にとっても人間にとっても不幸なことでしょう。
猫の新しいものへの探求心と警戒心を知ることで、なるべく平和に共存できるようにしていきたいものです。
- 「飼い猫のひみつ」
- 著者:今泉忠明/発行:イースト・プレス/価格:800円+税/新書判、212ページ
- 「猫はふしぎ」
- 著者:今泉忠明/発行:イースト・プレス/価格:760円+税/新書判、192ページ
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