工事で居場所を失った臆病な元地域猫 飼い主に甘える日々

 端正な顔立ちに、整えられた黒い毛並み。野性味と気品をともに漂わせるその長毛猫の名は、「リリー」ちゃん。じつは子猫の頃から6年間、外で暮らしてきた元地域猫だ。

(末尾に写真特集があります)

「見た目とは裏腹に、ドジなんです(笑)。ベッドの際を歩いていたかと思うと足を踏み外したり、遊んでいたはずのおもちゃに突然びっくりしたり。そんなところが可愛いんですけどね」と、飼い主の大日向慶子さん(30)。

大日向さんとリリーちゃん
大日向さんとリリーちゃん

 リリーちゃんを保護した東京都文京区のボランティアグループ「ぶんねこの会」によれば、もともとは区内の自然豊かな公園にいたという。ふだんは姿を見せない、シャイで慎重な性格。大事にお世話をしてきた餌やりさんと、同じ場所にいたもう1匹の地域猫だけに心を許しながら、静かに過ごしてきた。

 しかし、地域猫としての生活は突然終わりを迎えた。2017年、公園内の施設等の整備のために大規模な工事が決まり、居場所が失われることになってしまった。

「ぶんねこの会での保護を試みるも、その矢先に立ち入り禁止になってしまいました。捕獲器を設置しようとした日の夜に、公園はフェンスで囲まれて…」

 そう話すのは、ぶんねこの会の市原克枝さん。文京保健所を通じて、区の担当部署や工事会社と交渉。捕獲のための許可を取り、ぶじ2匹とも保護することができたという。もう1匹は、お世話をしてきた餌やりさんのもとに迎えられることになった。

 “黒百合”を連想させる姿から、市原さんは「リリー」と名付けた。リリーちゃんは攻撃性もなく、保護からしばらくすると、差し出した手に静かに顔を埋めてくれるようになったという。

 居場所をなくした、シャイで、甘えたがりの地域猫。長毛猫にとって、外の暮らしは毛が足にからまってケガをするリスクなどもあることから、ぶんねこの会で里親探しをすることになった。

大人の地域猫はもらい手がいないのかな

 飼い主となる大日向さんがリリーちゃんを“発見”したのは、スーパーに行く途中にある「石井動物病院」。ぶんねこの会がお世話になっている動物病院の一つだった。窓に貼られていた里親募集ポスターが目に止まった。

「黒い毛に映えるきれいな黄色い目に、じっと見つめられて。何とも言えない表情にも惹かれていました。でも、いつ通りかかってもポスターは貼り出されたまま」と、大日向さんは振り返る。

「当時、地域猫のことはよく知りませんでしたが、外の生活が長い大人の猫は、もらい手がいないのかなぁと」

 幼少期に猫を飼っていたこともあり、またいっしょに暮らしたいという想いもあった。掲示がなくならないまま2ヶ月がたった頃、夫と相談して譲渡希望を申し出る。そして動物病院の院長を介し、ぶんねこの会の会員宅で保護されていたリリーちゃんと出会った。

 初めて夫婦で飼う猫が、中年齢の地域猫。不安はなかった?

「外の世界で生きてきた動物たちが人間を怖がることがあるのは、テレビなどで見て知っていましたし、勇気のいることだとは思います。でもきちんと愛情をかければその子らしくなるだろうと、大きな心配はありませんでした」

猫の名をたくさん呼んで、距離は縮まった

 2週間のトライアル中は、ケージで過ごした。大日向さんもむやみに近づかないように見守ったが、警戒していてなかなか目も合わせてもらえなかった。

トライアル中。警戒心が強く、しっぽは下向きに
トライアル中。警戒心が強く、しっぽは下向きに

 それでもおやつは大好き。手からあげてもうれしそうに食べた。「時間をかけて付き合いたい」と、正式に飼うことに。「リリー」の名は、そのまま引き継いだ。

 リリーちゃんは、ケージを出て、物陰へ、ピアノの椅子や机の下へ、人がよくいるラグの上へ……。少しずつ、少しずつ、距離を詰めてくれるようになってきた。

「3カ月もすると、私の足に頭をのせるほどの甘えぶりに。たくさん名前を呼んで話しかけてきたからか、返事をしてくれるようにもなりました。家に猫がいれば癒されると思っていたけど、今ではそれ以上の、すごく大事にしたい存在。改めて、いっしょに生きる動物たちへ敬意を払う大切さを感じます。人間でも、動物でも同じ。対等に生きる仲間です」

日々の手入れは、コミュニケーション代わりにも
日々の手入れは、コミュニケーション代わりにも

 静かに、のんびりと歩くリリーちゃん。助走なしで、大日向さんのベッドに飛び乗るところを見せてくれた。猫らしい俊敏さに欠ける、余裕のない低空飛行。

「こんなにどんくさいのに、外の世界でよく生きてこられたなぁと思います。シャイながらも甘え上手だったんでしょうね。リリーと暮らすことで、自分自身への考え方も変わりました。もうちょっと自分らしく生きていきたいなって」

(文/本木文恵)

<リリーちゃんの出身団体>
ぶんねこの会
“人と動物が豊かに共生する地域社会の実現”を目指して、東京都文京区を中心に活動するボランティアグループ。地域猫活動や、保護した猫の里親探し、適切な終生飼育を推進する活動を、区との協働で行っている。

公式サイト http://bunneko.sakura.ne.jp/
Facebook https://www.facebook.com/Bunnekonokai/

本木文恵
1983年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。猫雑誌の編集部に約8年在籍し、猫に関する取材、書籍やムック制作を行う。2017年に独立。編集を担当した近著に『保護ねこのきもち(ベネッセ・ムック)』など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。

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幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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