家に迷い込んだ子猫に情が移り… 生活が変わった 室井滋さん
猫好きとして知られ、猫にまつわる著作も多い俳優・エッセイストの室井滋さん。保護した3匹の猫との暮らしぶりを聞きました。
――ご自身で保護した猫を飼っているそうですね。
はい。1999年9月に出会っちゃいました。家で仕事をしていたある日、猫の鳴き声が聞こえたんです。最初は、野良猫が来ただけだと思って特に気に留めてはいませんでした。でも、だんだんとその声がか細くなってきて。ひょっとして弱っている猫なのかなぁと思って自宅の植え込みを見てみると、子猫がうずくまっていたのです。
――それから、すぐ飼うことに決めたのですか。
いいえ。仕事も不規則でしたし、飲みに行くことが好きな自分の性格からも、動物を飼うことは難しいなと思っていました。そのため、誰かに飼ってもらえないかと、仕事現場に連れて行きました。
幸い、ある方が「家族と相談してから飼いたい」と言ってくださったのですが、その返事を待っている3日間で、情が移ってしまって。自分で飼うことにしたんです。「チビ」と名付けました。余談ですが、所属事務所の社長が大の猫好きで、この経緯を話したら泣いて喜んでいましたね。
――チビを受け入れてからの変化は?
チビと暮らし始めてから、自分が180度変わりました。まず、健康的になりました。飲み歩いて深夜に帰ることもなくなり、ちゃんと家でご飯を食べるように。寝付きもよくなりましたしね。
外にばかり向けられていた意識が、内に向かうようになったとも思います。チビに出会うまで東京は「夢を追う場所」でした。それが、「地に足をつけて生活をする場所」に変わった気がしています。
また、他の猫たちへの関心が広がりましたね。
――他の猫というと……。
自宅周辺の地域で暮らしていた野良猫たちです。
一時、自宅の周辺で誰かに傷つけられた形跡のある猫が次々に見つかりました。脚から血を流している猫たちを見たとき、何かしたいと思い立ちました。えさをあげたり、動物病院に連れて行ったり……。注意を促すためのチラシを作ったり、ファンクラブの会員の方に呼びかけるなどして引き取り手も探しました。
そんなことをしているうちに、近所の方が「飼えなくなったから」と手放した猫も含め、チビに加えて計5匹の猫たちを家族に迎え入れました。
――虐待で心の傷を負った猫と暮らす難しさは。
後ろの左脚を失い3本脚で歩く「シロ」は、一向に心を開いてくれませんでした。ご飯も、私が見ているところでは食べなかった。
でも、5年くらいしたある日、急に私の背中にぴたっとくっついてきたのです。数年前からは、シロが急に鳴くようになって。もうおばあちゃんですが、今になって、子猫時代に与えられなかった愛情を、改めて注いであげているような感じですね。
――みとりも経験したと聞きました。
これまで3匹を見送りました。いっしょに過ごしていた期間が長い分、私にとってはもう、みんな「猫」じゃないんです。特にチビとは結婚したようなもの。6匹すべてが家族と同等の存在です。失う悲しみはもちろん大きいですが、その一方で、少し責任を果たせたような気持ちもありました。
いま暮らしている3匹も17~19歳なので、もう立派な高齢猫。いつその場面がきてもおかしくないと思っています。それまでは私も、頑張らなくちゃいけませんよね。
――チビたちへの思いは?
世界中の猫を幸せにはできないけれど、せめて自分の手元にいる子は幸せにしてあげたい。そう思って、付き合っています。
そして、「一日でも長く生きてくれ」と本人(猫)たちにいつも言っています。チビたちがいなかったら、今ごろどんな生活を送っていたのかしら。そういう意味で、チビたちとの出会いは運命でした。天からの使者だったのかなと感謝しています。
(聞き手・中井なつみ)
俳優。「チビのお見合い」「マーキングブルース」、絵本「いとしの毛玉ちゃん」など、猫がテーマの著作も多数。
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