猫の気分に浸れる「猫の美術館」 「猫ねこ展」を悠々と味わう
「猫の美術館」と別名をもつ場所が房総にある。館主の画家は大の猫好きで、猫たちが自由に館内や庭園を歩き回っている。ただ今「猫ねこ展覧会2018」が開催中。猫好き集まれ!!
(末尾に写真特集があります)
山道・田んぼ道をはるばるとやって来た人は、丘の上に美術館を見つけて、こう言うだろう。「やっとたどり着いた」
そして、一歩庭内に踏み込むなり、たちまち笑顔になって歓声をあげるに違いない。「猫がいる! そこにもあそこにも。なんてとこなの!」と。
ここは、成田市と九十九里の間に位置する千葉県匝瑳(そうさ)市松山にある、「松山庭園美術館」。油絵にガラス絵に彫刻に詩作に、多彩な才能を発揮する芸術家此木三紅大(このき・みくお)氏が、自宅とアトリエの一部を開放した個人美術館だ。
若くして「戦後最大の才能」と評された人だが、中央画壇の権威主義を嫌い、自由に楽しく創作をしたいと、この地に移り住んで40年になる。
「子どもの頃からやたら猫が好きでした。猫を拾っては、猫嫌いの両親から『捨ててこい』と言われ、何度泣いたことか。『大人になったら、いっぱい飼ってやる!』と心に決め、いま、その通りになりました」と、少年のように笑う。
15年前に、思いついて猫好き作家たちと猫をテーマにした展示をしたのが、猫ねこ展のスタートだった。
「若い作家たちにも発表の場を提供できますし、来館者の方たちとお互い『なんて猫バカなんだろう』と呆れながら交わす猫話も楽しすぎて、毎年恒例になっちゃって」
年を追って参加作家が増え、15回の今年は、参加作家は全国からも海外からも190名。作品は、絵画・立体・陶芸・刺繍・写真など340点に及ぶ。
俗世を離れられる「楽園」
交通の便がよくないにもかかわらず、猫好きたちが集まってくるのはなぜか。それは、展示作品のクオリテイーが高く多彩なことと、ここに来れば、俗世から遠く離れて、猫たちと共にゆったり「猫的時間」を過ごせるからに違いない。
展覧会のサブタイトルである「走る・飛ぶ・じゃれる・寝る・猫たちの楽園」は、作品群の自由闊達さのみならず、館猫たちの実態でもあり、「ひととき猫になりにいらっしゃい」というお誘いでもあるのだ。
館猫は、現在13匹。うち3匹は、スタッフ宅とご近所から週末だけやってくる通い猫だ。
最年長は受付にいることが多い白猫のミーで、15年前に捨てられていたのを救われた。ミーが産んだチャムとトラ(共に13歳)以外は、すべて保護猫である。
猫たちは、日中は自由気ままに館内や庭園で過ごし、庭に点在する石彫やガンダ(鉄くず作品)などの館主の芸術をアスレチック代わりにして遊ぶ。
「猫は、嘘をつかず、張り合わず、縛られず、嫌なことはやらず、一日の愉しい過ごし方をよく知っている。猫がいなかったら、私は、ひたすら上手い絵を描こうとするつまらない画家になっていたでしょう。上手い絵といい絵は違います。いい絵というのは、描く喜びと情(じょう)に満ちている。今年も遊び心いっぱいのいい絵が集まりました」
本館・別館合わせての展示をじっくり楽しみ、あちこちで出会う猫をかまい、庭園の緑の中で風に吹かれ、サロンでの猫話に興じていると、あっという間に数時間。たっぷりと時間をとって訪ねたい場所だ。
保護猫の譲渡会も
毎年のようにねこ展会期中には近隣からノラの子や捨て猫が持ち込まれ、里親探し会場ともなる。
今年も、前後して8匹のノラの子が持ち込まれ、田んぼを見下ろすあずまやが、急きょ「仔猫カフェ」に早変わり。次々と里親が決まっている。
「『ああ、愉しかった。来てよかった』と、ニコニコして帰っていただくのが、何よりうれしい」と、此木画伯。
「猫的人間が増えることが、ぎすぎすした世の中を変えていくはず」と、自身もニコニコ顔で言い添えた。
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会場:松山庭園美術館(千葉県匝瑳市松山630)
期間:7月29日まで(開館は金・土・日・祝日)
開館時間:6月は10時~17時。7月は10時~18時
入館料:大人800円、子ども400円
6月17日・7月1日は、近隣の福祉作業所「まごころ庵」が作る、そばとココナツカレーの出張ランチ(有料)。7月8日14時からは、出品作家のひとり、目羅健嗣さんの「猫狂言紙芝居」がある(無料)
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