12年間一緒に育った猫は“妹” 猫好きが仕事にも生きて
ひょんなことから、飼い始めた三毛猫。姉妹のように12年間育ち、今でも一緒に眠る。そんな女性が出版社に就職した。自ら企画して手がけたのは、猫の日めくりカレンダーだった。
(末尾に写真特集があります)
「どうぞ、お乗りください」
三毛猫を抱いた二村茜さん(23)に案内されて、エレベーターで3階の部屋に移動する。都内の自宅はもともと3世代住宅で、祖父のために付けられたというエレベーターは業務用でスピードが速い。だが、猫は慣れているのか、まったく動じない。
「階段で上に行くこともありますが、この子はふっくらしているからか、トロいからか、2階くらいで息切れするんです(笑)。エレベーターのほうが好きみたい」
“だって楽だもん”とでも言うように、茜さんを見つめる三毛猫は「小春」(メス)。12歳だというが、表情はあどけない。
「いつまでたっても、赤ちゃんぽくって。でも人の年に換算すれば60歳をとうにすぎていますよね。あっという間に、私の年を越えちゃった」
小春を家に迎えた時、茜さんは小学6年生だった。中学、高校、大学、へと成長していく傍らにはいつも、妹分の小春がいた。昨年、茜さんは社会人になったが、今も昔と変わらず、一緒に寝るのが楽しみだという。
「私の枕の横に、小春の枕があります。寝ながら布団の中でポヨポヨのお腹をもむのが至福の時(笑)。私を寝かしつけるように傍らにいて、寝るちょっと前にベッドから出ます。最近は朝、アラームが鳴ると布団に入ってきて、起きるのを妨害するようになりました」
柴犬を飼うはずが…
小春は茜さんの母方の実家で生まれた。母の浩子さんがいう。
「外猫が縁の下で子猫を5匹生んでしまった。引き取り手がない、とおばあちゃんから連絡がありました。1匹やけに動作が遅くて、ミルクもうまく飲めない子がいて……。その猫を先になんとかしなきゃと、うちでもらうことにしたんです」
その頃、茜さんの家では、黒柴を飼う予定で、ブリーダーを探していたのだとか。だが、柴犬ではなく、三毛猫の小春との生活が始まった。
「お母さんは昔から猫が好きだけど、お父さんは飼ったことがなかった。野良猫の足跡が車に付く、とか文句いってたくちだし。飼い始めも何かと失敗したのよね」
茜さんがいうと、「ほんとにそう」と浩子さんが苦笑した。
「徐々にお風呂に慣れさせようとしていたのに、主人がいきなり湯船にジャポーンと浸けて、小春はお風呂嫌いになってしまった。でも、主人も一緒に暮らすうちに可愛くなったのか、小春にお土産を買ってきたりしてね。酔うとしつこいので嫌われるけど(笑)」
もう1匹の猫
茜さんの家にはもう1匹、地域猫出身の墨花(すみか、メス、推定10歳)がいる。近所で時々見かける猫だったが、小春を迎えて2年経った頃、別の猫に追われて庭にやって来て、“入れてー!”と、窓ガラスを必死で引っかいていたのだという。
シャイな性格のため、この日は一瞬しか姿を見せてくれなかったが、白地に墨で描いたような模様がある、目の大きな可愛い猫だ。
「最初、避妊手術をして表に戻そうと思っていました。でも手術が終わった日が雨で、可哀そうで……。私の部屋にケージを置いてそのままに。お父さんが出張している間の出来事でしたが、帰ってきた父が『え? 猫増えてない?』と廊下を二度見したので『気のせい、気のせい』と(笑)。深く追求することもなく、OKを出してくれました。その頃にはすっかり猫派になっていたんですね」
小春と墨花は“上下関係”がはっきりしている。
家に来て早々、甘えたい様子で走り寄っていった墨花に、小春はパシンと猫パンチをくらわした。以来、墨花は小春に気を遣うようになったという。
「パンチ事件のあと、墨花は小春に甘えないし、小春がいる時は私たちのそばにも来ない。しばらく戸外で暮らしたせいか、人を、特に男性をこわがる面もある。お父さんがちょっと足を動かすだけで、びくっとするものね。昔、表で誰かに何かされたのかな」
そんな墨花の安住の地は、お母さんの布団。“お母さんっ子”でゴロゴロ甘えるそうだ。
仕事にも猫が生きた
茜さんが昨年就職したのは出版社。主にカレンダーや年賀状素材を作る部署だ。4月には、ゼロから自分で企画した「日めくり ゆる訳名言ねこカレンダー」(インプレス)を出版した。
「働くようになって、猫のありがたみが、よりわかるようになりました。自分も猫に励まされているので、新入社員の方などがほっと息をついたり、笑ったり、勇気をもらえるようなメッセージとともに、いろいろな猫の写真を盛り込みました。どこかのページに小春も潜んでいます(笑)」
今年はさらに、猫のカレンダーを2本、犬のカレンダーを1本、インスタで人気のシベリアンハスキーの写真集も7月に出す予定だそうだ。
今は特に結婚の予定はないという茜さんだが、もしそんな時が来たら、小春は連れていくのだろうか、それとも置いていく? 尋ねると、ちょっと考えて、こう答えた。
「気持ちは連れていきたい……。でも、小春が住み慣れたこの家に置いていくかなあ。お父さんがめっちゃ寂しがると思うので、お父さんのためにも(笑)」
( 撮影 庄辛琪)
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