多頭飼育崩壊から救出されたマルチーズ 大型犬に囲まれ幸せに
三重県で、ある人物が170匹もの犬を所有し、多頭飼育が崩壊する事件があった。別の破綻したブリーダーのもとから救出された犬をもらい受けたが、避妊や去勢をしなかったために、ねずみ算式に増えていったのだという。保護団体により170匹は救出された。そのうちの1匹、マルチーズのナツちゃんは、大阪で幸せをつかんでいた。
(末尾に写真特集があります)
倉庫に閉じ込められた170匹の犬
その日、地元ボランティアをはじめ多数の保護団体が、三重県内の多頭飼育崩壊の現場に集まった。なんと、170匹もの犬を抱えて飼育崩壊した人物がいたのだ。
現場は、片田舎ののどかな住宅地。その一角にある倉庫に犬たちはいた。小さな窓はあるが、ほとんど陽が差し込むことのない室内。犬たちの毛は伸び放題で糞尿にまみれ、なかには妊娠しているものもいた。
繁殖場から引き取ったものの、数が多すぎてまともに世話ができなくなったのだ。また、避妊も去勢もしなかったため、子犬がどんどん増えて、最後は手に負えなくなったという。近親相姦によって産まれた犬もいれば、その子どももいるといった状態だった。犬の所有者は、産まれた子犬を闇で売っていたそうだ。最初は善意だったのかもしれないが、熟考することなく安易に犬を引き取り、泥沼に足を踏み入れたのだ。
預かりボランティアに
関西の保護団体Ley-Line(レイライン)が到着した時、すでに地元ボランティアが奔走していたが、まだ約130匹の犬が残っていた。Ley-Lineは13匹を保護し、そのうちの1匹がナツちゃんだった。
全て救出した後、取り残された犬がいないか、確認のため倉庫内を点検した代表の金本さんは、「ぞっとした」という。犬たちがここにいたのは、2日や3日のことではない。劣悪な環境で、何年も太陽の光を見ることなく過ごしてきたのである。
Ley-Lineが救出した13匹のうち、最後の1匹がナツちゃんだった。隅っこにうずくまり、じっと金本さんを見つめていた。「この子、眼が大きくて可愛いわよ」と言われて、よく見ると、眼の周りに便がたくさんこびりついていて黒くなり、目が大きく見えていることが分かった。
その時、ナツちゃんは推定4歳だったが、出産した後のようで、おっぱいが大きかった。
大阪在住の高原夫妻は、170匹もの犬がレスキューされたと聞き、「私たちにもできることがあったら……。預かりならできるかも」と考えた。すでに2匹のゴールデンレトリーバーと暮らしていたので、3匹目の里親になるのには躊躇もあった。しかし、3匹のマルチーズと暮らした経験もあり、ナツちゃんの新たな飼い主が見つかるまでの預かりボランティアを買って出た。
辛い過去をかき消す笑顔
高原さん宅のゴールデンレトリーバー2匹は、ナツちゃんが家に来たその日からすぐに仲良くなった。ナツちゃんはそれまで人との温かな交流を経験していなかったが、2週間ほどで家族にも慣れたそうだ。
ただ、いまでもお父さんはちょっと苦手だ。散歩の時やドッグランで、初めて会う人にも緊張してしまうという。抱きかかえられるのも苦手。それでもドッグランではだんだん友達とも遊べるようになった。犬がたくさんいる環境で育ったので、人よりも犬に慣れるのが早かったようだ。
だが、新しい飼い主はなかなか決まらず、ひとつあった話も不調に終わった。そうしているうちに、ナツちゃんへの愛情が募り、高原夫妻は“我が子”として迎える決意をした。
「預かりボランティアの場合、先住犬と保護犬は、はっきり区別して扱わないといけない。我が子と同じように可愛がってはいけないそうですが、私にはとてもそんなことはできませんでした。うちの大型犬のことも怖がらないし。4月10日に預かって、5月5日には、うちの子にすると決めました。5月5日は、私たちの結婚記念日でもあるのです」
ナツちゃんを家に迎えて3年目。3匹の中、ナツちゃんはご飯への執着心が特に強いという。保護された時もやせており、十分に食事を与えられていなかったのだろう。そんな姿に過酷だった過去がにじむ。
だが、高原夫妻はそんなことを普段は忘れているという。家族が仲睦まじく暮らしていくには、取るに足りないこと。今のナツちゃんの笑顔によって、すべてがかき消されるのだ。
Ley-Line(レイライン)
現在は主に繁殖場への交渉・引き取りをしています。
これから動物を迎えようと思っている人に、ペット産業の裏側を知ってもらえたらと思い、「癒しを求めるなら彼らに平和を返そう」というコンセプトで活動しています。
HP:http://ley-line.info
Mail : saco@ley-line.info
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