地域猫モンジが道ばたで倒れた! 奇跡的に回復し、家猫に

 雑種猫モンジ(オス・推定8歳)は東京都足立区に5年前から住みついた。捨てられたのか、逃げてきたのかは不明だ。町ぐるみで世話をされていたが、ある日、病に倒れた。重篤な状態だったが、病院に運ばれ、一命をとりとめた。その後、猫は近所の夫婦宅にひきとられ、今は家猫としてのんびりと暮らしている。

(末尾に写真特集があります)

 地域猫だったモンジが家猫になったと聞き、会いに行ってみた。

「あの辺りの通りにずっといたんです。ストリートビューにも写っているんですよ」

昨年7月、駐車場で寝そべっていたモンジ(信之さん撮影)
昨年7月、駐車場で寝そべっていたモンジ(信之さん撮影)

 バス停まで迎えに出てくれた飼い主の真希さんが、道の向こうを指さした。モンジの新居は、マンションの4階だ。室内に入ると、ブルーのカーテンがかかった綺麗な居間に、目力の強い猫がたたずんでいた。“ようこそ”と言うように近づいてくる。

「ここ1か月くらいで抱っこができるようになりました。でも昔から“外面”はめちゃくちゃよいんですよね。内弁慶だったみたい」

 真希さんの夫、信之さんがにこやかに説明してくれた。

 モンジの名付け親は、近所に住む信之さんの友人なのだという。モンジは表でいくつかテリトリーを持っていたが、食いしん坊で、特にその友人宅の庭でごはんをもらうことが多かったのだとか。

「友人はフランス語に詳しくて、食べるという意味のフランス語『manger(モンジュウ)』と名付けたんです。由来は木枯らしもんじろ? と聞かれることもあるんですが、違います(笑)」

 信之さんは実家でも猫を飼っていた猫好き。散歩する時、たまに会うモンジが気になり、友人の家の庭にも会いに行っていた。首輪をプレゼントしたこともあり、「うちに来るか?」とも話しかけることもあった。だが、表で自由にふるまう姿を見ると、外の暮らしのほうがいいのかなとも思ったという。

昨秋、家に来た頃は痩せていた
昨秋、家に来た頃は痩せていた

看取りを覚悟して

 ところが、昨年8月末、友人から信之さんに電話が入った。モンジが道で倒れていたので病院に連れていくと、肺に水がたまっており、「そう長くないだろう」と獣医師に告げられたというのだ。友人の家には、他にも猫がいたので正式に飼うことができず、信之さんは“もしもの場合の看取り”を相談されたという。

「病院では酸素室に入れられて、すごく痩せていました。仲よしの外猫だったし、病院にいても可哀そうで……。葬儀場を探しながら、妻と引き取ろうかと話し合いました。妻は動物を飼ったことがないのですが、『モンジならいい』と受け入れてくれました」

 何日も一緒に住めないかもしれないが、最期は家で看取ってあげよう……。その思いがモンジに通じたのだろうか。治療を受けると、驚異的な回復をみせ、10日後には「もう大丈夫」と送り出された。退院後に向かったのは、いつものストリート、でなく、信之さんの家だ。

「トイレも爪とぎもすぐ覚えたわね。以前ひとに飼われていたのかしら」と、真希さんは振り返る。でも、しばらくすると毛がバサバサと束になって抜けてしまった。

「最初、夫婦の寝室だけで生活させていたんです。私たちは日中に仕事で出てしまうし、6畳くらいあれば大丈夫かと思っていた。でもきっとストレスだったのでしょうね」

 一部屋に閉じ込めず、2DKをすべて開放すると、抜けた部分に毛が生えてきた。

 ところが、今度は不思議な現象が起きた。いつも頭の辺りがテラテラと濡れているのだ。

見違えるようにふっくらしたモンジ
見違えるようにふっくらしたモンジ

野良猫の面影

「風呂場とか、水道の蛇口の下で遊んだのかと思っていたら違いました。なんと、キッチンのディスポーザーに頭を突っ込んで、生ゴミを漁っていたんです。ゴトクを首にかけていたこともあります。野良時代の名残ですかね。ドブとかゴミ置き場とかに頭をつっこんでいたのかも」

 信之さんは少し切なそうに話す。

 火や包丁を使うキッチンは、猫にとって危険な場所でもある。料理の時は寝室に入れていたが、DIYが得意な真希さんの父親に、キッチンとを仕切る扉と、カウンターに取り付ける柵を作ってもらった。

ほかにも、電動給水器にキャットタワー……、モンジが来てから、マンションはすっかり猫仕様になった。モンジも家に馴染んでいった。

ある時、子猫が現われてビックリ
ある時、子猫が現われてビックリ

見知らぬ子猫に興奮

 今年1月には、モンジの気持ちが不安定になる出来事もあった。

「僕の実家のアパートで昨秋、野良猫が子猫を3匹生んで。すごく気になっていたので、年末から3日間かけて1匹ずつ捕獲機で保護したんです。TNR(捕獲、避妊、元にリリース)のつもりでしたが、人に慣れたので、譲渡先を探すことにして、術後に家の脱衣所に置いていたんです」

 ドアは閉めていたが、モンジには、すぐにばれてしまった。そして、逆鱗に触れた。

「子猫だから大丈夫だろうと思ったのが甘かった。モンジは攻撃的になって、脱衣所のドアの前でうなったり、隙間からやりあったり、僕らにも噛みついてきたんです」

 狭いところが可哀そうなので、モンジと交代で子猫を廊下や居間にも出すと、その後、モンジの顔つきが明らかに険しくなった。

「子猫は2週間ほどうちにいましたが、実家の近くの方が3匹一緒にもらってくれることになり、ほっとして夫婦そろって泣いてしまいました。子猫が移動したら、モンジも落ち着きました」

信之さんと真希さんの間でぬくぬく
信之さんと真希さんの間でぬくぬく

 心配性な飼い主

 そんな出来事もあったが、モンジは夫妻に愛情をたっぷりもらっている。

「実は僕はけっこう心配性で(笑)、長時間留守にするのが不安だから、昼休みに職場から自転車で帰ってくるんです。それで一緒に遊んだり、ベランダで一緒に日向ぼっこをしたりして。“見守り用ウエブカメラ”も居間と寝室につけてあります」

 初めて猫と暮らす真希さんも、その魅力にハマっている。

「私は、どこかに遊びにいってもモンジが気になり、旅行とかに行きたいと思わなくなりました。それよりは、モンジとゆっくり一緒に過ごしたいかな。モンジが来てから、猫に限らず、ほかの生き物が可愛く思えてきたんですよ。鳥でも、犬でも!」

「幸せそうですね」というと、信之さんはこう答えた。

「夫婦が結婚して3年目。モンジが来て、家の中が明るく楽しくなりました。でも正直こいつは家に入って幸せなのかなあ? 本人に聞けないけど、ふと思うことがあるんですよね」

 モンジは退院後、2キロも体重が増えた。モンジの表情やふっくらした姿をみれば、心の声が聞こえてきそうだ。“家の暮らしも悪くはないぜ”、と。

モンジのインスタ

@chat_manger

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。
この特集について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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