滑り台にやせた子猫、頭上にカラス 放っておけず、家に迎えた
出会いは偶然だった。膝にのって来たやせた子猫を放っておけず、背中を押してくれる人も現れた。通訳者の夫とカンツォーネ歌手の妻は、子猫を家族として迎え入れた。子どものように子猫の体調を案じるうちに、夫婦の絆も強まっていった。
(末尾に写真特集があります)
瀟洒なマンションの一室。広い廊下の先、リビングに入ると、キジシロと茶トラの2匹の猫が出迎えてくれた。
「長男のごん太と、二男の栗太郎です。年齢は2歳と0歳(取材当時10か月)ですが、近頃、体の大きさが変わらなくなりました」
小穴誠さんが説明してくれる。その隣で、妻の優佳さんがにっこりと微笑む。
「ふたり(2匹)の仲はいいですよ。でも、長男が来てから本当にめまぐるしかったわね」
滑り台にいた子猫との出会い
ごん太との出会いは2015年12月だった。
「クリスマスライブに必要なものを買うため、午前中に散歩がてら1人で出かけたんです。そうしたら、途中で子猫とばったり!」
遊歩道の滑り台の下に、やせた子猫が1匹いた。フードや牛乳を誰かがあげた形跡があった。頭上にはカラスも数羽いた。カラスに襲われないか、と心配になった優佳さんが子猫を見ると、ぱっと目が合った。
「傍にベンチがあったので座ったら、ぴょんと子猫が膝にのってきて。何とそのまま寝てしまったんです。なんて可愛いの、この子欲しいな。けど、買い物いかなくちゃ……。でも今バイバイしたら二度と会えないかも……。30分くらい悩んでいました」
夫婦とも動物が大好き。6年前に結婚し、ペットは飼っていなかったが、少し前から「縁があれば、犬でも猫でも欲しいね」とよく話し合っていたという。そんな時、カワイイ子猫が突然現れた。さらに、悩む優佳さんの背中を押す人も現れた。
「通りかかった60代ぐらいのおばさまが、『まーっ』と言いながら近づいてきて、『その子猫は少し前からいて、甘えて可愛いの。ウチは高齢猫がいて無理だけど、飼えるなら飼ってあげて』と仰って」
優佳さんが「連れ帰るにしても、どうしたらいいか分からない」というと、女性は「これに入れなさい」と、持っていたエコバックを差し出してくれたそうだ。
夫に電話したが、仕事中でつながらなかった。
「1人で決めていいか迷いましたが、よしっと決断しました。おばさまが家まで付き添って下さったのですが、『逃げないようにエコバッグの口を絶対開けちゃだめよ!!』とアドバイスして、コンビニに寄ってフードを買うのに付き合ってくれて、飼育の仕方も教えてくれました。女神ですね」
帰宅すると、とりあえず廊下でごはんをあげ、水切り籠で簡易トイレを用意。よく見ると体中が(便で)汚れていたので、お湯で洗って、ストーブで温めた。
その運命の日を、夫の小穴さんも振り返る。
「電話に気づいて連絡すると『ごん太、ひろった』という。『ごん太』というのは、僕が独身時代に住んだ一軒家に遊びにきていた野良猫の名前で、この先もし猫を飼うことがあれば、同じ名前にしたいと話していたんです。帰宅したら本当にいたので、もうビックリ」
もちろん小穴さんは、妻・優佳さんの思いと、ごん太を受け入れた。
翌日、ごん太を動物病院に連れていくと、推定(生後)6~7か月といわれた。だが、体重はわずか1.5キロしかない。ワクチンを打ち、下痢止めを飲ませて、3、4日もすると、顔が穏やかになったという。
突然、えさを食べないように
家族の仲間入りをしたごん太は、温かな部屋でおいしいごはんを食べ、年を越すと、体が大きくなってきた。お客さんに会ったり、小穴さんの実家に行く時に車に同乗したり、すっかり家族の一員に。だが、2月のある日、突然、体調に異変が起きた。
「その日も一緒に出かける予定でしたが、朝からぐったりしていて、えさも食べず、水も飲まず、好きなおやつも食べない。これは変だぞと、予定を変更して、動物病院に連れていったんです」
小穴さんの言葉に、優佳さんが「あの時、つらかったわねえ」とうなずく。
「いつもの獣医さんが不在で、積極的に診てくれない。翌日もおかしいので、連れていくと、『そんなに心配なら皮下点滴でもしますか?』と。その後も目を開けているのも辛そうで。来て間もないのに死んじゃうの? そう思ったら私、涙が止まらなくて……」
夫婦は相談して、別の病院に駆け込んだ。すると先生が「脱水して大変だ」と血相を変え、ただちに点滴治療が始まった。処置しなければ、あと少しで命を落とすところだったという。
「おそらく急性膵炎と言われました。感染症のFIPも疑われたのですが、それは陰性で心配ないと。5日ほど入院して回復しました。本当によかった」
優佳さんは実家に猫がいたが、小穴さんは初めての猫飼い。動物病院の選び方、先生の対応を見て、「人間のお医者さんと同じで、相性がある」とつくづく感じたのだという。
「ごん太、おいで! 君は野良のまま表にいたらダメだったろうね」と小穴さんがいうと、「そうよね、カラスからも膵炎からも逃げられたものね」と優佳さん。
夫婦の息がぴたりと合い、新婚みたいに仲睦まじい。そう告げると、小穴さんが照れたように笑った。
「新婚当初は盛り上がっても、だんだん慣れるでしょう(笑)。その“移行時期”にごん太が現れたので、夫婦で再び盛り上がったのは確かです」
ごん太の体調が落ち着いた後、優佳さんが「妹を迎えない?」と提案した。去年8月、夫婦は都内の百貨店で行われた譲渡会に出かけた。
そこで見初めたのが、ほわほわしたクリーム色の猫「栗太郎」だった。
(撮影:庄辛琪)
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