“猫の言葉”でつづる22の物語 「猫だって」それぞれにドラマ
空腹でうずくまっていた仔猫、好きな彼氏がいたサビ猫、いじめられていた巨猫……さまざまな道を生きてきた猫たち。その猫の“言葉”でつづった22の物語を集めた書籍『猫だって……。』(辰巳出版)が注目されている。著者のフリーライターで写真家の佐竹茉莉子さんに、本書に込めた思いを聞いた。
(末尾に写真特集があります)
「猫は皆それぞれにドラマを持っている。その“ありのまま”の姿を代弁したかったんです」
柔らかな表情で、佐竹さんがいう。
本書には、佐竹さんがサイト「フェリシモ猫部」で連載中のブログ『道ばた猫日記』で取り上げた個性的な猫たちが登場する。ブログをもとに2015年出版された『しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』の続編ともいえる。前作と違うのは、すべてのページが“猫自身の語り口”になっていることだ。
たとえば、路上に倒れていたノラの「リオ」。ひどい皮膚病で、目もふさがっていたところを保護され、やっと目が開いた時、保護したママたちを見て思う。
〈初めて見るのに懐かしいような顔ばかりだ〉
体重が増えて、皮膚病が癒え、「イケメン」といわれるようになった時には、こう考える。
〈ボクを捨てたのも、病気になったボクを疎んじたのも人間だったけど、それでもボクは、心のどこかで人を信じてた〉
“猫の言葉”としてつづられているが、読むと、自然体で心地よい。佐竹さんと猫との“距離”が近いせいだろうか。
「たしかに物心ついた時から猫が傍にいたので、猫と感じあえるのかも。原稿を書くときは、感情移入をしすぎず、猫に寄り添うように気をつけたつもりです。そもそも、人間、とくに現代人と猫は価値観が違いますしね」
本書には、印象深い猫が次々と登場するが、佐竹さんは、猫のいる町や地域をわざわざ探さなくても、期せずして猫に「出会う」のだという。
「昔からほっつき歩くのが好きで、猫も好きだから(笑)。ネットで調べたりしなくても、自然と素敵な猫に出会います。コーヒーを飲みに喫茶店に行く、すると、そこに面白い猫がいたりして」
文章には佐竹さんが撮影した写真も添えられ、状況が浮かんでくるようだ。
「大人だけでなく、子どもにも読んでほしいんです。一人称にしたのには、そんな思いもあるから」
佐竹さんは10数年前、こんな体験をしたという。家にいるとき、下校中の小学2、3年生くらいの男の子と女の子の会話が表から聞こえてきた。
「僕のお父さんが昨日、車で猫を轢いちゃったんだ。猫がどかなかったから」
「ふうん、車は汚れなかった?」
この会話に佐竹さんは衝撃を受けた。
「“生きる者”への想像力がなくなっている。街から子どもと猫が触れ合う場が消え、子どもが触ろうとすると、お母さんが汚いからやめなさいと言ったりする。この1~2年は虐待事件が多いけれど、動物との良い経験をしたことのない子どもが大人になって事件を起こすこともありえるのだろうと、心配で、心配で」
自分に何ができるかを考えた時、「猫の気持ち」になって書けば、子どもたちにも、“人と動物が共にしあわせに生きること、その素晴らしさ”が伝わりやすいのではないかと、思い至ったという。
本書のラストを飾る、大きな猫マツコの物語はひときわ心に響く。飼い猫だったマツコは、体が汚れているからと路地に出され、ノラ生活をしていたところを保護される。だが、その家で先住猫のいじめに遭ってしまう。やさしきマツコは、自身へのいじめの理由をこう語る。
〈大きくて、動きがとろくて、無抵抗だから〉
マツコは保護猫ラウンジに預けられた。そこで「ポン」という初めての友だちができたのだ。マツコは皆に祝福されて「ポン」とともに家猫になったが、病気にかかる……。
悲しむお母さんに対してマツコは、いや佐竹さんはこう代弁する。
〈お母さん、もう少し気持ちが落ち着いたら、アタシのように、おうちがほしくてたまらない子に、またしあわせなドラマを与えてやってほしいな〉
微笑んだり、涙したり、“十猫十色”の物語は、どれも心をゆさぶる。猫への畏敬の念があふれているからだろう。
「私自身も何匹もの猫と暮らし、去年今年と、20歳を超えた猫を続けて見送りました。でも猫は、先に逝ってごめん、なんて思ってない。猫は淡々と、でも一生懸命に生きる。そして潔い」
なんだか、マツコと佐竹さんがだぶって見える。本当に猫がお好きですねというと、佐竹さんはおだやかに笑った。
「私、前世が野良猫だったので」
フリーランスのライター・写真家。路地や漁村、取材先の町々で出会った猫たちのしたたかでけなげな物語を写真と文で伝えるべく、小さな写真展を各地で開催中。生まれた時からいつもそばに猫がいた。フェリシモ猫部にてブログ「道ばた猫日記」を連載中。
道ばた猫日記
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