老犬の基礎知識 安心して暮らすコツと飼い主の心構えとは

 老犬になれば、体を動かすのも若いころのようにはいかなくなって、病気も増える。犬も飼い主も少しでも安心して快適に過ごせる「老犬と暮らすコツと心構え」を、公益財団法人・動物臨床医学研究所理事長で獣医師の山根義久先生に聞きました。


信頼できるホームドクターを見つけておこう
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◆愛犬がかかりやすい病気を知っておく

 老犬になって一番気になるのは、やっぱり病気。山根先生によれば、加齢により以下の疾患のリスクが上がるという。

 

 ● 股関節、肘関節などの関節障害や、椎間板ヘルニアなどによる神経疾患

 ● 心臓疾患(特に弁膜症)など循環器系や、気管支炎、肺炎など呼吸器系の病気

 ● 白内障、緑内障など目の病気、耳が遠くなるなど聴覚の機能低下

 ● 歯周病など

 ● 子宮や前立腺といった生殖器、膀胱などの泌尿器系の病気

 ● ガンなどの悪性腫瘍

 

 さらに、犬種によってかかりやすい病気もある。


 たとえば、短足胴長のダックスフントやウェルシュ・コーギーは、その体質や体形ゆえ椎間板ヘルニアになる可能性がほかの犬種に比べて高い。「若いころから腰や背中に負担がかからないように、肥満に気をつける、階段の上り下りをさせないなどを心がけることが予防につながります」(山根先生)


 また、純血種には犬種によってかかりやすい遺伝性疾患も。老犬期になってから発症することも少なくないという。


 たとえば、近年、ウェルシュ・コーギーに多いのが遺伝性疾患の1つである変性性脊髄症(DM)。痛みを伴わずにゆっくりと進行する脊髄の病気で、最初は後ろ足をすって歩くようになり、やがて下半身を支えることができなくなって、最後には立てなくなり寝たきりに。その多くは7、8歳とシニアになってから発病するという。下半身が動かなくなるため、歩行や排泄などの介護が必要となる。


「愛犬の体質はもちろん、犬種によってかかりやすい病気を知っていることで、不調や症状が出たときに見逃したり、手遅れになったりしないですむかもしれません」と山根先生。さらに、こう続ける。


「愛犬の体質や体調をしっかりと診てくれる、信頼できるホームドクターを探してほしい。定期的な検診はもちろん、何か様子がおかしいと思ったらすぐに相談に行き、老化の陰に隠れている病気をいち早く見つけることが重要です」

 

不安を感じさせないよう、どんな時でも愛情を尽くしてあげたい
不安を感じさせないよう、どんな時でも愛情を尽くしてあげたい

◆介護が必要になっても変わらぬ愛情で

 そして、高齢化によって増えているのが認知障害だ。


 夜鳴きやおもらし、まっすぐに歩けずにクルクル回る回転運動、徘徊する……といった問題行動が見られ、中には甘えるようになって分離不安になったり、逆に攻撃的になる犬も。子犬のころや若い時代はしつけで直すこともできるが、老化による脳機能の低下に起因する問題行動の場合、それは難しい。人間の認知症同様、有効な治療法がないのが現状だ。


 それが老化によるものだと理解した上で、家の中でぶつかってケガをしないような工夫をする、愛犬に不安を感じさせないように穏やかに接するなどで、愛犬と飼い主、それぞれにとって、できる限り無理のない介護を目指したい。


「寝たきりや認知障害の犬の介護は、時間が取られ経済的にも負担で、何より精神的につらい。でも、ぜひ変わらぬ愛情で、できることは精いっぱいやってあげてほしい」と山根先生。獣医師として、そして保護犬活動をする中で多くの犬と飼い主を見てきた。自らも4匹と暮らす愛犬家として、強く感じることがあるという。


「元気な時はもちろん、病気の時、介護が必要になった時も、愛情を尽くして最後まで面倒を見てあげることで、愛犬からは本当に素晴らしいものをたくさんもらいます。それは、何ものにも代えがたいのです」


 コロコロの子犬はそれだけで無条件でかわいい。しかし、一緒にたくさんの時間を過ごした老犬には、いとおしいかわいさがある。少しでも元気で長生きしてもらうためにできること、心がけておくことを、愛犬が7歳を過ぎたら確認、準備しておこう。

 

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
老犬と暮らす
老化にともなう体調変化や悩みが増える老犬。よくある病気への対処法や飼い主の心構え、ふだんからできるケアなどを紹介します。
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